悪魔の手紙
C.S. ルイス(C.S. Lewis),中村妙子(訳),平凡社,2006

映画化された「ナルニア国物語」の著者C.S.ルイスの著作.タイトルの通り,地獄国務次官のスクルーテイプが,誘惑者の任務に就いた甥のワームウッドへ送った書簡という形をとっている.誘惑者として未熟なワームウッドへの助言を,老練なスクルーテイプが手紙にしたためる.

ワームウッドは,自分が担当することになった男を,あの手この手で誘惑しようとする.しかし,あろうことか,その男は回心し,従順なクリスチャンになってしまう.それでも,その男をなんとか悪魔側に取り込もうと画策する様子が手紙から伝わってくる.

本書「悪魔の手紙」はもちろんキリスト教的世界観に基づいて書かれているわけだが,悪魔が仕掛ける誘惑は,キリスト教徒のみを対象にしているわけではない.どんな宗教を信じていようが,あるいは無神論者であろうが,善く生きるとはどういうことかを考え,自分の生き方を見直すきっかけを本書は与えてくれるように思う.だからこそ,本書は多くの人々に読まれてきたのだろう.

以下に,スクルーテイプの言葉のいくつかを紹介しよう.

第六信

<敵>は人間が自分の行為に関心をもつことを望んでいる.ところがわれわれの仕事はやつらに,自分の身にどういうことが起こるか,もっぱらやきもきさせることなのだ.

第十五信

人間は時のうちに住んでいるが,われわれの<敵>はやつらが永遠に生きるように定めている.それゆえに<敵>は,やつらが主として二つのものに注意を集中することを願っているようだ.すなわち,永遠そのものと,やつらが現在と呼ぶ時の一点と.というのは,現在とは,有限の時が永遠と接触する唯一の接点だからだ.現在という一瞬についてのみ人間は,われわれの<敵>が全体としての実在についてもっている経験と似た経験をするのだし,自由も,現実も,もっぱら現在においてのみ,人間に提供されているのだから.

一言でいえば,未来はすべてのうちでもっとも永遠に似ていない.(中略)それだからわれわれ悪魔は,創造的進化とか,科学的ヒューマニズム,あるいは共産主義といった,人間の愛情を未来に,すなわち時間性の核心に固定させる思想体系を奨励してきたわけだ.またそれだから,ほとんどすべての悪は未来に根ざしているのだ.感謝は後方の過去を顧みるし,愛情は現在を視野におく.しかし不安,貪欲,欲望,野心はもっぱら前方に,未来に関心をもつ.

引き寄せをはじめ自己啓発系では,「今を大切にしろ」ということが強調される.過去を悔やむな,未来を憂うな,今この瞬間を精一杯に生きろと.今を大切にすることが幸福への道だと.裏を返せば,つまり悪魔の立場に立てば,人間の注意を「今」から逸らすことができれば大成功ということになる.

第十七信

過去百年間におけるわれわれ悪魔の最大の偉業の一つは,味覚をめぐる問題に関して人間の良心を鈍らせたことだ.このため,近ごろではヨーロッパ広しといえども,グルメに言及する説教が教会で聞かれることはないし,それについて良心のとがめを感じている人間も皆無だ.

暴飲暴食が悪徳であることは認めるとしても,美味しいものを食べることが悪徳であるとは認めない人が多いだろう.もしかして,悪魔に丸め込まれちゃいましたか?

第一八信

セックスに関して<敵>は人間どもにたいして,二者択一を迫っている.すなわち絶対の禁欲か,掛け値なしの一夫一婦主義かだ.われわれの父が手始めに大勝を博して以来,われわれは絶対の禁欲というやつを人間にとってきわめてむずかしいものにしてきた.その一方われわれは,純然たる一夫一婦主義という活路をここ二,三百年というもの,人間にたいして閉ざしてきた.このような閉鎖が可能だったのは,「恋愛」と呼ばれる奇妙な,しばしば短命な経験こそ,結婚の唯一の,然るべき根拠であると詩人や小説家が人間一般に吹き込んできたからなのだ.その結果人間は,結婚はこの恋愛という興奮状態を持続させうるものだと,いや,持続させるべきだと考えるようになった.そうした興奮状態が持続しない結婚はもはや拘束力をもたないと,われわれは人間に思いこませてきたわけだ.

スクルーテイプによれば,恋愛を人間が重要視するのも,悪魔による地道な教育の成果だというわけだ.

第二三信

すべての偉大なモラリストが<敵>によって遣わされるのは,人間に知識を与えるためでなく,われわれが人間からたえず隠している,原始的な,陳腐な道徳的原則を思いださせ,それをべつな言い方で述べるためなのだが,われわれとしてはそのようなことを人間に気づかせてはならないのだ.このためにわれわれは,ソフィストのような連中をつくりだす.一方,<敵>はソクラテスのような人物を起こして,彼らに反論させるのだ.

そのソクラテスはソフィストらから有罪の判決を受けて毒杯を仰いだ.悪魔達の微笑が目に浮かぶようだ.

第二八信

人間はもちろん,死を最大の悪と見なし,生きのびることを最高の幸いと考える傾向をもっている.われわれがそう教えてきたからだ.

死を自分の終焉と捉えるから恐ろしいのであって,精神性を重要視する人達は,そして善く生きる人達は,そうは考えていない.先のソクラテスにしても,死ぬことを全く恐れず,善く生きることのみを貫いた.彼は「いちばん大事にしなければならないのは生きることではなくて,よく生きることだ」と述べている.

本書には,「悪魔の手紙」の後に書かれた「乾杯の辞」も収録されているが,このスクルーテイプの挨拶については,既に「民主主義的な近代教育の受益者」に述べた.

本書「悪魔の手紙」の至る所から,悪魔の視点に立つという行為に,著者が苦労した様子がうかがえる.そのせいか,中途半端に感じられる(悪魔になりきれていない)ところもあるが,それでも大いに参考になる.

目次

  • 悪魔の手紙
  • 付・乾杯の辞

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一言でいうなら,「おれだって,おまえとちっとも変わらないんだ」がまかり通るならば,教育そのものの廃止さえ,夢ではなくなるでしょう.学ぶ意欲のある者にたいする刺激,怠け者にたいする罰がともに消え失せてしまうでしょうから.こうして学ぶ意欲が阻まれることになります.「仲間を踏み越えてぬきんでようなんて,いったい,どういう了見だ?」というわけです.いずれにせよ,教師たちは−−子守たちはと言うべきかもしれませんが−−愚かな生徒の背中をたたいて安心させるのに忙しくて,ちゃんと教える暇など,ありはしないでしょう.

この発言は,どこかの国で現在起こっている事態を言い表しているのではないか,と思えないだろうか.私にはそう思えてしまった.履き違えた平等主義の帰結として,教育が崩壊の危機に瀕しているということだろう.

この発言をしたものの名は,スクルーテイプ(Screwtape)という.国務次官という肩書きを持つ.もちろん,日本人ではない.スクルーテイプの正体が即座にわかる人は結構な読書家だろう.

ちなみに,この発言のすぐ後には,次のような言葉が連なっている.

われわれ悪魔としても,手のつけられぬ自惚れ心や度しがたい無知を人間のあいだに広めるために計画を立てたり,骨を折ったりする必要がなくなるでしょう.人間というちっぽけな虫けらどもが,われわれにかわってそうしたことをやってくれるでしょうから.

はぁ?と思った人も多いと思うが,上記の発言は,地獄国務次官のスクルーテイプが,誘惑者養成所の晩餐会で主賓として行ったスピーチの一部だ.「乾杯の辞」と題された,この挨拶文は,「ナルニア国物語」の著者として知られるC.S.ルイスが「悪魔の手紙(The Screwtape Letters)」の後に著したものである.

悪魔に誘惑されて,無自覚のうちに悪魔の手先になるようなことがないようにしたいものだ...

さて,このスクルーテイプだが,同じ悪魔とは言っても,メフィストフェレスとは随分とキャラが異なる.地獄にも色々と個性的な悪魔がいるようだ.そのメフィストフェレスは大学新入生にこんな助言をしている.

学生:

大学者になりたいのです.地上と天上の一切を知りたいのです.学問と自然に通じたいのです.

メフィストフェレス:

光陰は矢のごとしというから気を付けることだ.時間割りを作るといいよ.助言といってはなんだが,(中略)

はじめの半年はサボってはいけない.毎日,授業は五時間だ.鐘が鳴る前に部屋に入っておく.予習をちゃんとしてきて,章ごとに整理しておく.そうするといずれ,先生というものは,本に書いてあることしかいわないことがわかってくる.だからといってノートをとるのを怠けてはならない.聖霊の言葉を筆記していると思うことだな.(中略)

学問の成果を拾いまわってもムダなことだ.しょせん,人間は,自分が学べることしか学ばない.ただし,ここぞのときを逃してはならない.きみは見たところ体格もいいし,臆病でもなさそうだ.自信がつけば,世間の見る目がちがってくる.とりわけ女を扱うすべを学ぶことだな.

スクルーテイプにしても,メフィストフェレスにしても,悪魔は地上の教育事情に詳しいようだ.

改めて述べるまでもないが,メフィストフェレスは「ファウスト」(ヨハーン・ヴォルフガング・ゲーテ)に登場する悪魔だ.

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いよいよ2009年度も残すところ僅か2ヶ月.卒業論文・修士論文の発表会が間近に迫ってきた.今週には,研究室内での発表練習が予定されている.その発表練習に先立ち,スライド作成時の注意点をまとめたメールを学生に送付した.

  • 文字はすべて24pt以上とする.図中などで文字を小さくしなければ仕方がないなら,18ptまでは許す.それ未満は絶対にダメ.
  • 文字色と背景色には徹底的にコントラストをつける.見難くなる背景など使うな.
  • ゴチャゴチャした,書き過ぎのスライドを作るな.自己満足スライドなんて意味ない.聴衆第一だ.
  • アニメーションを多用するな.箇条書きをアニメ化したら,最後の条文は読む時間なくなるだろ.
  • 研究の背景と目的の説明には手を抜くな.PSE研の研究は素人にはわかりにくい.背景と目的を納得させられれば,プレゼンはほぼ成功だ.ただし,常識をウダウダと説明するな.時間の無駄だ.
  • まとめ(結論)はしっかりと書く.ポイントを箇条書きで.

毎年こういうメールを送付して注意喚起するわけだが,スライド作成のアドバイスが毎年変化するはずもない.実際,学会発表と論文執筆の方法に関するアドバイスに書いてあることと同じだ.

自分も発表するという人は,「学会発表アドバイス(国内学会,卒業研究,講演会編)」や「学会発表に関するアドバイス(スライド作成編)」に目を通すと役立つかもしれない.

一般論として,プレゼンテーションの下手な奴は損をする.これは確かだ.有利に事を運びたければ,プレゼン能力を高めろ.

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京都大学のメールサーバの評判が悪いために,学内から発信したメールの受信を拒否される事態が発生している.鬱陶しいので,Barracuda Centralに連絡してみた.メールサーバのIPアドレス,自分のメールアドレス,理由などを送信すると対応してくれる.一晩で連絡が来た.以下の2件.

Thank you for contacting Barracuda Networks regarding your issue. Your issue is important to us. We have assigned a confirmation number: BBR21265383579-***-***** to this case.

We apologize for any inconvenience that this may have caused you. Since this is is your first request for this IP, the reputation of this IP address will be temporarily upgraded from “poor” for 48 hours *or* until we complete our investigation. When our investigation is complete, you will receive a decision via email. It may take up to 1 hour for the changes in the Barracuda Reputation System to propagate to all the Barracuda Spam Firewalls in the world.

以下,省略

Thank you for contacting Barracuda Networks IP address: ***.***.***.***

The Barracuda Spam Firewall has rules that apply to email sent from an IP address known to Barracuda Central with a “poor” rating. The Barracuda Spam Firewall has an option to decline email from these IPs. This is an option that the Administrator of the Barracuda Spam Firewall may enable. If the Administrator chooses to enable this option it may block email from your IP address.

This IP has been seen by Barracuda Central to transmit spam email in the past 30 days.

We have removed your “poor” rating. The IP will be automatically rechecked several times each day and may be adjusted again if issues are observed.

Please allow between 12 and 24 hours for changes to propagate around the world to all Barracuda Spam Firewalls — at which time you will be able to send email from the IP address. This is the last email you should receive about this issue.

Thank you for your time and understanding.

何もしないよりは,ましだろう.

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今年の秋に台北(台湾)で開催される化学工学関連の国際会議(APCChE)で講演して欲しいとの招待を受けた.依頼内容について確認するために国立台湾大学(NTU)の教授にメールを送ろうとしたら,エラーメールが戻ってきた.

The following addresses had permanent fatal errors —–
< *****@ntu.edu.tw>
(reason: 554 Service unavailable; Client host [***.***.***.***] blocked using b.barracudacentral.org

要するに,BarracudaCentral.orgに京都大学のメールサーバがブロックされたわけだが,その理由は以下の通り.

an email was blocked based on its originating IP address having a “poor” reputation.

BarracudaCentral.orgはネットワークセキュリティに関する組織で,京都大学のメールサーバは評判が悪いので,そこから送付されるメールはブロックしますというわけだ.なぜ京都大学のメールサーバの評判が悪くなってしまったかといえば,それは,京都大学に送付されてくる膨大なスパムメールの一部が,少なくないユーザの学外転送設定によって,京大から学外へ再送信されているためだ.その結果,あたかも,京大のメールサーバがスパムメールをばらまいているように見える.もちろん,これは極めて深刻な事態なので,転送前にスパムフィルタを通すようにと再三通知が来ている.遂に先日,強制的にスパムフィルタを通すとの連絡が来ていたはずだ.

ともかく,学内からはメールが送れないので,学外のメールサーバを利用して送信した.困ったものだ.

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