情報学研究科への異動に伴い,2012年4月から,京都大学工学部物理工学科3回生対象の「工業数学F2」という講義を担当している.講義内容としては,フーリエ解析(フーリエ級数やフーリエ変換,偏微分方程式の解法などを含む)とラプラス変換ということになる.

先日,「フーリエ級数/フーリエ変換/フーリエ解析/偏微分方程式を英語で勉強!」という記事にて,スタンフォード大学,ケンブリッジ大学,ミネソタ大学,MITの教員が作成した講義資料を紹介した.いずれも,数百頁に及ぶ大部のテキストにもかかわらず,無料でダウンロードできる.さらに,テキストに対応した講義全30回のYouTube動画も紹介した.独学する意欲のある学習者にとっては本当に素晴らしい世の中になったものだ.

この工業数学F2(フーリエ解析)を担当するにあたって,教科書を選ぶために,いくつかの書籍を読んで比較してみた.折角なので,それらの書籍についてのコメントをメモしておこう.

なお,教科書にしても,その他の本にしても,個人的な好き嫌いの要素は非常に重要なので,あくまで自分で実際に本を手にとって選ぶことをお勧めしたい.

フーリエ解析 (理工系の数学入門コース 6)
大石進一,岩波書店,1989

最終的に教科書として採用したのが,この本.応用を無視して数学の世界に閉じ篭もることなく,ひたすら定理&証明を繰り返すことなく,フーリエ解析を道具として使えるようになることを目的として書かれた工学部生向けの入門書であるため,学部生の教科書として使いやすい.実は,この岩波書店の「理工系の数学入門コース」は個人的に全巻常備している.それくらいに手堅いシリーズで,個人的に気に入っている.購入して損はしないだろう.

フーリエ解析と偏微分方程式 (技術者のための高等数学)
Erwin Kreyszig(原著),近藤次郎,阿部寛治,堀素夫(訳),培風館,2003

原著は,アメリカをはじめ世界各国の大学で教科書として使用され,第8版まで版を重ねている「工科の数学」の世界的名著であるそうだ.この謳い文句に魅せられて,本訳書を教科書候補として読んでみた.結論から述べると,教科書としては使いにくい.その最大の理由は,原著からフーリエ変換に関連する部分を抜き出して一冊にまとめているため,本書だけで完結していない点だ.このシリーズをすべて揃えておかないと,本書中の引用を参照できない.これは教科書としては好ましくない.さらに,細かい点かもしれないが,非常に気になったのが数式番号だ.章ごとに数式番号がリセットされて(1)から始まる.個人的には,重複を許さない(3-14)のような式番号が使いやすいと思う.ただ,内容は良いと感じるので,シリーズで揃えて本格的に勉強したい人にはお勧めかもしれない.

すぐわかるフーリエ解析
石村園子,東京図書,1996

書きこみながら理解できるというのが謳い文句の入門書で,紙面に空白があることが最大の特徴だろう.これは教科書には全く相応しくないと感じた.内容も限定的で薄いし,教科書のレベルに追従できない人が自習するのに使うなら良いのかもしれない.しかし,計算練習をしたいのであれば,しっかりした教科書とノートで勉強すればいいので,書き込み式の利点はわからない.まあ,好みとしか言いようがない.

マンガでわかるフーリエ解析
トレンドプロ,渋谷道雄,晴瀬ひろき,オーム社,2006

流石に,2次元美少女系漫画の本書を教科書として指定する根性はないが,よくできた入門書だと思う.確かに,中学・高校レベルの数学の復習から話を進めていくので,初級者レベルの内容であり,大学の教科書としては不十分だと言える.しかし,固い本を読むのが苦手で,数学を勉強も受験もせずに大学に入学してくる学生が存在する昨今,存在価値は十分にあるのだろう.予想以上によく書かれていると感じた.大学で指定された教科書についていけず,2次元少女または漫画が好きな学生にはお薦めしたい.

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