2008/7/3 木曜日
2週間ほど前になるが,6月16日に大阪の常翔学園大阪センターで,システム制御情報チュートリアル講座2008「使える!部分空間同定法 ―基礎から応用まで―」が開催された.
このチュートリアル講座の趣旨には,「本講座では,システム同定の第一線で活躍の研究者を講師に迎えて, 部分空間同定法の基礎から応用までを解説して頂きます.特に,部分空間同定法の基礎理論だけでなく,実システムへの応用における有用性も理解いただけるように事例を含んだ講義も用意しております.」とある.講師の一人に指名された私の担当は,当然ながら,「実システムへの応用」ということになる.
このチュートリアル講座のプログラムは下記の通り.
- 部分空間同定法の基礎と応用
同志社大学 片山徹 氏
- 部分空間法に基づく閉ループ同定
京都大学 田中秀幸 氏
- 逐次部分空間同定法とその変化検出への応用
大阪工業大学 奥宏史 氏
- ソフトセンサー設計の基本と産業応用:2段階部分空間同定法を中心に
講座終了後,受講者に対してアンケート調査が実施された.有効回答数は53名で,内訳は企業27名,大学・高専3名,学生22名,その他1名である.チュートリアル講座全体に関する設問の他,個々の講義についての設問もあった.普段,誰かに定量的に評価される機会というのはほとんどないため,自分のプレゼンが評価されるとなると,ちょっとドキドキする.新鮮な感覚だ.
私のプレゼンテーションに対する受講者の評価とコメントをそのまま示す.
内容の満足度に改善の余地があると感じるが,元々,部分空間同定の基礎を身に付けたいという受講生,化学プロセスに馴染みがない受講生からは,高い満足度を引き出すことが難しいようにも思うので,こんなものなのだろう.
一方,講義の「わかりやすさ」については,満点でないことを反省しないといけない.もちろん,53名の受講者全員から満点をいただくことは極めて難しい.しかし,目指すのは,そのレベルだ.妥協はしない.
なお,結果を詳細に見ると,評価の足を引っ張っているのは,学生であることがわかる.対象を社会人に限定すれば,ほぼ満点であり,概ね,自分が目指すプレゼンができていたことになる.理論研究中心の大学の先生の下で,日々,教科書や論文と睨めっこして,産業界における現実の問題に触れる機会に乏しい学生には,私の話は理解しにくかったのかもしれない.仮にそうだとするなら,そういう学生にとって非常に良い機会だったと思う.課題は現場にあることを学んで欲しい.
研究室の学生に対して,いつもプレゼンテーションの重要性を強調し,偉そうなことばかり言っているが,私自身もまだまだ修行中の身だ.
2008/6/29 日曜日
「いい家」が欲しい。 改訂2版
松井修三,創英社,2007
自宅の購入や建築を考えている人には,是非,一読を勧めたい.つい最近,私も自宅購入を検討しようと勉強を始めたばかりで,数十軒程度の住宅を見学し,十冊程度の本を読んだにすぎないが,本書に書かれている内容は知っておくべきだと思う.
住宅建築を手掛ける著者の信条は「住まいとは,幸せの器である.住む人の幸せを心から願えるものでなければ住まい造りに携わってはならない」とのことだ.このような信条を持つ人達が住宅建築業界や管轄省庁に多くいれば,欠陥住宅がこれほど造られることはなかっただろうにと思う.自宅の購入や建築を考えている人であれば,「いい家が欲しい!」と思っているのは間違いない.その願いを実現するためには,「構造」,「断熱の方法」,「依頼先」の三つの選択のどれか一つでも誤ってはいけないというのが松井氏の主張だ.
まず,「構造」については,四季の変化があり,高温多湿な夏と低温少湿な冬に対応しなければならない日本では,国産の木材を用いた木造軸組工法が最良の選択だとする.海外産の木材では日本の気候風土に対応できず,鉄やコンクリートでは快適な生活は実現できないというのがその理由だ.
「断熱の方法」については,外断熱(外張断熱)しかありえず,日本の気候風土に適した工法は「外断熱・二重通気(ソーラーサーキット)工法」だとされる.現在の主流である内断熱(充填断熱)は,本質的に高断熱に不向きな工法であり,仮に高断熱が実現できたとしても,壁内結露によって構造を腐らせる危険性が高い.壁内結露を防ぐには徹底的に防湿する必要がある.ところが,内壁側を防湿シートで包み込むと,まさにペットボトルハウスになってしまい,木造の良さを全く活かせなくなってしまう.注意すべきは,外断熱なら何でも良いというわけではないことだ.外断熱ブームに乗ろうと,なんちゃって外断熱を平気で施工する業者も多いらしい.また,シロアリ対策には万全を期す必要があることも指摘されている.
最後の「依頼先」の選択については,四つの相性(人と人との相性,工法とプランとの相性,予算との相性,工期との相性)を最初に確かめるべきだとされている.結局,信頼できるところを探し出すしかない.その際に,本書の精神に則った家造りを行う工務店で構成される『「いい家」をつくる会』が役立つとのことだ.
本書では,かなり厳しくハウスメーカーを批判している.悪口を見聞きするのは決して心地よいものではないが,ことが自宅建築であるのだから知らなかったでは済まされない.本書で指摘されている,ハウスメーカーの利益重視体質から来る弊害は心得ておくべきだろう.その上で,自分の責任で選択すればよい.何も勉強せずに,住宅展示場で表面(付帯設備)だけを見て,床下,壁内部,小屋裏に注意を向けない人は,価格に見合った,良質で,住み心地の良い家を手に入れられない可能性が高い.それが本書の警告だ.
本書の批判本への反論に力が入っている部分もあり,ハウスメーカーへの批判も厳しく,所々文意を読み取れない箇所もあったが,それでも本書に目を通すことを勧めたい.
目次
- だれも,教えてくれなかった…
- なぜ「いい家」が見えないのか?
- 三つの選択と四つの相性
- 最初の選択【構造を何にするか?】
- 第二の選択【断熱の方法をどうするのか?】
- 第三の選択【依頼先はどこにするのか?】
- 正直な家造りとは
- 「いい家」を造るのはだれか?
2008/6/28 土曜日
ローコスト住宅のつくり方
海野健三,彰国社,2003
様々な角度から,ローコスト住宅を実現するための方法を述べている.ローコスト住宅を目指す人もそうでない人も色々と参考になるだろう.
まず,建築を請け負う人々を締め付けて低価格を実現することも行われているが,それは持続可能なローコストではないと指摘している.他書においても,日本の住宅事情のお粗末さは散々指摘されているが,本書では,施主,設計士,建設業者すべてが納得し,良い住宅が建つような社会的な仕組みを構築していく必要があると主張している.そうしないと,結局,ローコスト住宅は日本に根付かないだろうと.
具体的なコスト削減項目としては,無駄に高価なシステムキッチンを使わないこと,家具・建具を安く作る方法,安く床暖房を設置する方法,内装をしないで構造を活かす方法,床・壁・天井の素材の選び方などが示されている.
本書で特に力説されているのは,ローコスト住宅を実現するためには,建設費だけでなく,ランニングコストやメンテナンスコストをしっかり検討する必要があるということだ.初期費用が多少高くても,メンテナンス費を抑えることができれば,数十年の中でトータルで十分にメリットがあるということだ.まあ,当然の話ではある.そんなことすら考えていない人はいないだろうと思うのだが,世間一般には考えていない人もいるのだろう.
ランニングコストを抑制するという観点で,特に紙面を割いて詳しく述べられているのが,高断熱高蓄熱の重要性だ.断熱,気密,換気,蓄熱について,その考え方が述べられている.ローコストかどうかに関係なく,ここは参考になる.
目次
- ローコストをはじめる前に
- ローコスト実現のための極意
- コストをどう捉えるか
- 高断熱高蓄熱がローコストの秘訣
- 熱と素材をコントロールする
- ローコストの将来形
2008/6/26 木曜日
光と風を感じる家 (LEE LIVING)
集英社,2007
個人住宅の写真集.「光と風を感じる家」というタイトルから想像できる通り,吹き抜け,大きな窓,テラス・デッキのある家ばかり.さらに,こういう個人住宅の雑誌や本に登場する家は,広々した間取りで部屋数が多くなく,たとえ2階建てでもLDKが2階にあるのが共通点のようだ.確かに,1階のLDKに大きな窓を設置するのは,セキュリティ&プライバシーの両面から問題があるように思える.
もちろん,紹介されているすべての家を素敵に感じるわけではない.個性的なので,好き嫌いが出てくるのは当然だろう.いずれにせよ,参考になるのは確かだ.
紹介されているのは建築家の設計による家ばかりなのだが,このような本を見ていると,普通の建売住宅なんて買えなくなってしまいそうだ.全く魅力を感じなくなる.
本書の最後に,「家づくりサポートシステム」の紹介がある.これは,建築家3人によるコンペを行い,そのうちの1人に自宅の設計を依頼するというもの.面談,設計,現場監理など一通り含めて,315,000円(建築家への謝礼は別途)とのこと.自分で建築家を探すのが難しいという人には良い仕組みかもしれない.
目次
- 人が集まる快適空間,「光と風」があふれる家
- 夢を実現させた「光と風」の湘南スタイル
- こだわり条件をクリアして完成させた「光と風」の家
- 「光と風」の使い方,こんな工夫
- 家づくりの情報集
2008/6/21 土曜日
超長期予測老いるアジア―変貌する世界人口・経済地図
小峰隆夫(編),日本経済研究センター(編),日本経済新聞出版社,2007
当然ながら,将来の予測は難しい.とりわけ,数十年後の経済や社会についての予測は不確定要素が多すぎて困難であり,意識的か無意識的かは別として,嘘をつくのは容易である.本書は,そのような困難を認識した上で,比較的精度良く予測できる人口を軸として,アジアを中心とした2050年までの世界経済を展望している.
その展望の主要な結果は以下のようなものである.
- 大きく変化する世界人口地図
- 続々と高齢化する世界
- 存在感を増す中国とインド
- 1人当たり所得では先進国の優位変わらず
- 変貌著しいアジア
これらの展望に基づいて,下記3点の我々の常識が誤りであると結論づけている.
- 世界の中で日本において特に少子高齢化が進み,日本がその経済的・社会的影響を最も強く受ける
- アジア経済は世界における成長センターだ
- 日本は世界第二の経済大国だ
つまり,日本だけでなく,ASEANを含むアジアの比較的発展した国々では急速に少子高齢化が進み,経済の成長が抑えられる恐れがあるということだ.
少子高齢化と経済成長との関連性を考える際に,本書では,人口ボーナスと人口オーナスという概念を重視している.人口ボーナスとは,経済発展→所得向上→人口増加→少子化→勤労者割合増加によって,経済成長が容易になる現象である.しかし,その状態は長続きしない.少子化の結果,勤労者高齢化→勤労者割合増加と進み,経済は停滞してしまう.これが人口オーナスである.現在の日本は人口オーナス下にあり,経済成長は難しい状態にある.ところが,日本を除くアジア諸国も,既に人口ボーナスの時代を終えつつあり,間もなく人口オーナスの時代に突入する.
さて,この警鐘に対して,日本をはじめとするアジア諸国はどのような対応をするであろうか.少子化を抑止,反転させるという発想もあるが,それは人類の持続可能性を脅かすものではないだろうか.では,解はどこにあるのか.実際のところ,よくわからない.しかし,考える必要はある.
目次
- 2050年への展望と覆される三つの常識
- 経済が変える人口と人口が変える経済
- 世界人口のいま
- 急速に進むアジアの少子高齢化
- 人口オーナス下のアジア
- 人口減少の先行組vs.後発組
- どうなる日本の将来
- 人口大国の台頭
- 未来のためのコストを担う