4月 272006
 

基礎情報処理演習

この数年間,京都大学工学部工業化学科の新入生に情報リテラシーを身に付けてもらうという趣旨の演習科目を担当している.要するに,パソコンの使い方を知っておきましょうねということなのだが,将来の様々な利用形態を考慮して,WindowsとLinuxを併用している.

しかし,真に新入生に語っておくべきこととは,知識の受け売りなんかではないだろう.彼らが4年にも及ぶ大学生活を有意義に過ごすための,もっと大仰に言えば,豊かな人生を送るための心構えについて語ること.これこそが重要である.動機付けが必要なのだ.

このような考えから,機会のあるごとに,学生に対してメッセージを発している.以下に,新入生対象の基礎情報処理演習の受講生に対して配信したメールを転載しておこう.

夢を持て.目標を持て.その実現のために最大限の努力をしろ.

この前の演習の感想に,「UNIX/Linuxなんて使いたくない」という意見もあった.その気持ちはよくわかる.パソコンの使い方もろくに知らないのに,いっぱいコマンドを押し付けられて,訳も分からず演習をしていれば,嫌にもなるってものだ.それは仕方がない.

だが,ちょっと考えてみろよ.何か新しいものに取り組むとき,それを身に付けようとするかしないかが,自分の人生にどのような影響をもたらすかを.

高校にさかのぼろう.物理や数学が嫌いだからと,文系を目指す奴がいたはずだ.逆に,国語や社会が嫌いだからと,理系を目指す奴もいたはずだ.文系を選択した奴に,科学者やエンジニアとしての未来があるか.

小中学校までさかのぼろう.先生や親が「勉強しなさい」というわけだ.勉強が好きな奴もいれば嫌いな奴もいる.好き嫌いと,するしないは別問題だが,ともかく,「勉強なんてやりたくない」と勉強を放棄した奴もいたはずだ.そいつに,その後,国内の一流大学を出て,エリート官僚になる道は開かれるか.研究者になる道は開かれるか.

いいか.何かに取り組まないということは,その道に進むという選択肢を自分で消し去っているんだ.恐ろしいことに,消し去っているその瞬間に,本人は気付いていない.何年も,あるいは何十年も経ってから,「あぁ,あのとき,それをしとけば良かったんだよ!」と嘆くわけだ.手遅れになってからな.我々はみんな,そういう選択を毎日数え切れないほどやっているんだ.そういう日々の積み重ねが人生を形作る.

講義に出て居眠りする,講義に出て友人と雑談する,講義に出て必死に講義を聞く.消費した時間は同じだ.選択したものは異なる.当然,結果は異なる.将来も異なる.

京大入学や京大卒なんて看板はアッと言う間に色褪せるぞ.そんなものに自分の人生が託せるはずもない.

夢を持て.目標を持て.その実現のために最大限の努力をしろ.

別に大学に来て真面目に勉強しろなんて言ってるわけじゃない.自分の夢を実現するために,京大が無意味なら,やめればいい.意味があるなら,必死に勉強するしかないだろ.

今やらないで,いつやるんだ?

最後に,20世紀最高の知識人とも評されるドラッカーの言葉を贈ろう.君達の明るい未来を祈って.

ドラッカーの遺言(P.F. ドラッカー,講談社,2006)より

絶えざるスキルアップを達成するために最も重要となるのは,自分の強みを把握することです.自分が何を得意とするのかを知り,磨きをかけていく―これこそ個人のイノベーションの要諦であり,成果を挙げ続けていくための唯一の方法です.

知識社会において成果を挙げ得る人間であり続けるためには,スキルを更新する教育を何度も何度も繰り返し受けることが必要となります.真の意味での「生涯教育」であり,つねに教育に立ち返るこの姿勢こそが,個人のイノベーションを促進してくれます.生涯にわたる継続的な学習が不可欠となった事実を受け入れ,つねに再教育を受ける心構えを持ち,それを自己責任であると認識すること―「いま何を捨て,何を選択し,自己を高めるために何を学ぶべきか」を絶えず問い続け なくてはならないこと―いま,すべての人が身をもって知るべき事実です.

日本の若い世代の人達には,20代から遅くとも30代前半のうちに, 少なくとも2〜3年は日本を離れて,他国で働く経験を積むことをお勧めしたいと思います.情報が高度に専門化し,ごく限られた領域だけを守備範囲とするスペシャリストが増えている世の中で,日本人は若者を他分野にまたがる知識や技術を持ったゼネラリストに育てる術に長けています.それにもかかわらず,私が接してきた日本人の中には,視野が狭く,「世界について十分な知識が備わっていない」と感じさせる人が多数存在しました.海外経験の少なさがその原因です.学ぶべき課題は日本の外にいてこそ得られます.ぜひとも国外に出て行って,視野を大いに広げて欲しい.知識社会が招来する新しい時代においても,日本が世界のメインパワーであり続けるための原動力になってほしいと願っています.

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