10月 052006
 

なぜフィンランドの子どもたちは「学力」が高いか
教育科学研究会,国土社,2005

経済国際開発機構(OECD)が2003年に実施した国際学力調査(PISA; Programme for International Student Assessment)の結果で,日本の読解リテラシーは8位から14位に低下し,トップグループとは明らかな差があるとされた.また,数学リテラシーも1位から6位に低下した.一方,この調査で国際的な注目を集めたフィンランドは,読解リテラシーと科学リテラシーが1位,数学リテラシーが2位,問題解決能力が3位で,総合で1位だ.ちなみに,PISAは,詰め込み型教育の成果を評価するものではない.単に知識が豊富というだけではなく,問題解決,批判的思考,コミュニケーションなどの能力が重視される.

PISAの意図をふまえると,授業時間を増やして知識を詰め込んでも,少なくともPISAの評価は向上しそうにない.実際,フィンランドの授業時間数は非常に短く,宿題はほとんどなく,生徒は塾にも通わないそうだ.また,フィンランドでは総合学習が重視されており,そのテーマは,個人的・人間的な成長,文化的同一性と国際化,コミュニケーションとメディア技術,参加型市民性と起業家精神,環境・福祉と持続的未来,安全と交通,人間と技術など多岐にわたる.

家庭における読書時間が長いのもフィンランドの特徴で,フィンランドの子供の校外での学習時間は日本より短く,世界で最低水準だが,読書量は世界一だ.当然ながら,大人の読書習慣も世界で最高水準だ.

さらに,フィンランドの教育の成功の要因として,教師の質の高さが挙げられている.教師の給与は決して高くはないが,フィンランドにおいて教師は最も魅力的な職業であり,その社会的地位,信頼の高さは,教職を最も優秀な人がつく職業にしているという.フィンランドでは,幼児教育は学部レベルだが,初等教育と中等教育は最短で5年を要する大学院レベルで,教師は全員が修士号取得者だ.

フィンランドの教育の優秀性は,1992年以降の未曾有の経済不況の克服過程で達成された.フィンランドは失業率20%という深刻な状況にあったが,そのような状況で政府が推進した政策は,国家公務員の増加による失業者の救済と知識社会の到来を見通した教育改革の推進だった.その結果,10年後の2002年には,世界一の学力を達成しただけでなく,経済の競争力においても世界一の地位を獲得した.

教育改革が声高に叫ばれる昨今だが,これまでの日本の教育の何が正しく,何が間違いだったのかを正しく認識せずに,偉い人達が制度をいじりまわしても,良い結果に結びつくはずがない.教育の問題はテクニックで解決できるような問題ではない.国民の精神性も問われる.福祉国家である北欧諸国の評価が総じて高い一方,何かにつけて日本の手本とされるアメリカの評価が低いのはなぜか.舵取りを誤れば悲惨なことになるだろう.

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