高等学校における必修科目未履修の現状
まず,問題を整理しておこう.ことの発端は,必修科目である世界史の授業を行っていない高校の存在が発覚したことだ.
富山県立高岡南高校(篠田伸雅校長)で平成17年度、「受験に必要な科目を勉強したい」との生徒の要望を受け、当時の2年生(約200人)の8割に、学習指導要領で必修の世界史の授業をしていなかったことが24日、分かった。
理由が「受験勉強の邪魔」ということだったため,この高校だけではないはずだということで,調査が進められ,現時点までに約400校で教えなければならないとされている教科を教えていないことが判明している.
県教委などに基づく集計では、未履修は公立、私立で少なくとも41都道府県の計399校で判明。このままでは卒業できない恐れがある生徒は少なくとも7万人以上になる見通し。多くの学校が必修科目の世界史を受験対策で履修させておらず、理科や情報、保健などの科目を未履修にしていた学校もあった。
受験勉強にまさる教育はないというのか
必修科目を教えないとはけしからんとか,必修科目未履修では卒業できなくなるとか,受験直前に補習をしなければならないとか,受験生の声も交えてニュースなどで賑やかに騒いでいるが,そんな低次元な話をしている場合だろうか.
今回の必修科目未履修の問題というのは,もちろん,単純なミスで履修すべき科目を教えなかったのではない.そうではなく,受験科目以外は教える必要がないと教師が判断し,公的な書類を偽造してまで,その信念を押し通したのだ.
卒業できない高校生約7000人 氷山の一角?学科未履修は11県66校
岩手県では、盛岡一高や盛岡三高など進学校で相次いで発覚。三高の井上節夫校長は「(県教委に)虚偽の報告をしていた」、一高の板宮成悦教頭は「数年前から(未履修を)続けていた」と認めている。山形県では未履修の12校が、いずれも県教委などに提出する「教育課程表」と各校で保管する「生徒指導要録」を改竄(かいざん)していた。各県教委によると、未履修の理由として学校側は「生徒の進路希望実現のため」「大学受験対策のため」などと説明している。
これは,「受験勉強にまさる教育はない」という低俗な思想が高等学校に蔓延しているということだ.そこには,多感な青年の人格教育を行い,人間的に成長させようとか,それぞれの人生をたくましく歩んでいくために必要な能力を身に付けさせようとかいう志のかけらもない.
この学歴社会の中で,受験生がペーパーテストの点数稼ぎに必死になるのはやむを得ない.もし責めるなら,そのような状況に追い込んだ社会を責めるべきだ.しかし,教師がペーパーテストの点数稼ぎを煽るようなことしかできないとは嘆かわしい.ペーパーテストの点数稼ぎだけが大切なら,予備校の先生を見倣えという主張にも従うほかないだろう.
極めて残念だが,日本の教育界は荒廃しきっている.
歴史教育
「愚者は経験から学び,賢者は歴史から学ぶ」という.受験勉強を優先させるために,歴史を教えないというのは,一体全体どういう了見なのだろうか.加えて,日本国民が日本史を勉強しなくてもよいというのは,どういうことか.
教育現場だけでなく,根本的に日本は教育の方向性を間違っているのではないか.人格教育もなされず,母国の歴史も教えられなかった者に,国の将来を任せようというのか.それが国策だというのか.教育の成果は一朝一夕で現れるものではない.このため,正しい方向へ進む努力を根気よく継続するしかない.
伊吹文明文部科学相は20日の衆院文部科学委員会で、現在は選択科目である高校の日本史を必修科目とすべきだとの考えを示した。(中略)また、「倫理観や社会規範、秩序を守る力を学ぶ根本に歴史教育がある」とも述べ、日本史教育の重要性を強調した。現在、高校では世界史は必修科目だが、日本史は選択科目。野田氏の委員会提出資料によれば、神奈川県の全日制県立高校で、日本史を履修せずに来年3月に卒業する高校生は28・2%に上る。伊吹氏は小中学校での日本史教育、特に近現代史教育についても「十分なことが教えられているのか。日本の伝統や社会が建設された過程をマスターすべきだ」と主張した上で、学校教育法の改正と学習指導要領の見直しを進める考えを示唆した。
教育制度に手本はあるか
完全無欠の教育制度があるとは思わない.千差万別,十人十色の学生を教育するのは,そんなに簡単ではないだろう.しかし,少なくとも日本の教育制度よりも適切に機能しているらしい教育制度を持つ国が存在する.
日本が目指している競争社会をいち早く実現し,競争原理をグローバルスタンダードとして押し売りするアメリカではない.アメリカの教育はまともに機能しておらず,社会的格差の再生産装置になっている.
21世紀になって,国際的な注目を集めているのは,フィンランドの教育制度だ.その成果は,経済国際開発機構(OECD)が実施している国際学力調査(PISA; Programme for International Student Assessment)の結果で明らかにされている.その調査報告から日本が学ぶべきものは少なくないだろう.
問題の克服に向けて
最後に言っておくが,日本の抱える問題は教育制度の問題ではない.フィンランドの制度を輸入したら問題が解決するというレベルではなく,事態はもっと深刻だ.学校だけでなく社会全体が大学受験を重視するようになっており,どういう人間を育てようとか,どういう社会を築こうとか,そういう本質的な議論が全くなされない.
学校が悪いとか,教師が悪いとか,人の所為にするのは簡単だ.でも,そうやって何でも他人任せにする社会は成熟した社会だろうか.そんな無責任な社会になってしまっていることにこそ,問題があるのではないか.
他人の所為にする前に,自分は社会にどんな貢献をしているのか,一度まじめに考えみる必要がある.この問いに胸を張って答えられるような市民が構成する社会.それこそが目指すべき社会の姿ではないのだろうか.
経済学部の大学受験…
こんにちは!突然のトラックバック失礼します。よろしければ経済学部の大学受験について情報交換しませんか? (more…)