11月 172006
 

AIChE Annual Meeting

AIChE(米国化学工学会)が主催するAIChE Annual Meetingが,2006年11月12日〜17日にサンフランシスコの”San Francisco Hilton”を会場として開催された.

この会議は非常に大規模で,5〜7つの論文発表で構成されるセッションの総数が695,同時並行で行われるパラレルセッション数は約50にもなる.仮に無欠勤で会議に参加したとしても,1/50程の発表しか聞けないことになる.まあ,様々な分野からの論文が集まるので,もし可能だとしても,全部を聞こうとは思わないのだが...

ちなみに,AIChE Annual Meetingは,研究速報的な位置付けの会議だ.開催半年前にアブストラクトを提出し,それでレビューとセレクションが行われる.アブストラクトはせいぜい数百Wordsだから,詳細は不明で,判断はsession chair(座長)に一任される.このため,他の国際会議との比較で言うと,論文の質にはバラツキが当然出てくるが,逆に,新しい成果やアイディアが発表されるとも言えるだろう.この会議には,ほぼ毎年参加している.

自身の研究内容および興味の関係で,私が主に参加したのは,Computing and Systems Technology (CAST) Divisionが主催または共催しているセッションになる.今回も色々と情報を得ることができたので,簡単にメモしておこう.

Symposium Honoring CACHE Award Recepients

化学工学技術者なら知らないわけがないテキスト”Conceptual Design of Chemical Process”の著者であるJames M. Douglasが受賞講演.実物を見るのは初めてなので,この爺さんがダグラスかと感慨深い.当然ながら,超有名人のスピーチを聴こうと,大御所を含めて,聴衆の数は多かった.講演題目は”How Conceptual Design of Chemical Processes Can Be a Computer Aid”だった.

Product and Process Design

最近,”Product Design”(製品設計)が重要なキーワードになっている.旧来の化学工学が「どうやって作るか」を突き詰めようとしていたのに対し,これからは「何を作るか」が大事だということだ.もちろん,実際に工業生産に持ち込むためには,「何をどうやって作るか」という問題を解かなければならない.このため,プロダクト設計とプロセス設計を統合しましょうという話になる.自然な流れだ.

プロセス設計というと,私なら装置設計をイメージするが,この分野の人達が検討しているのは,プロセスの運転条件だ.つまり,「何をどのような条件で作るか」が問題となっている.プロダクト設計は基本的に分子設計の問題であるが,Group Contribution Method(グループ寄与法)を利用した発表が多く,これが主流のようだ.関連する論文のうち1つ”Process and Molecular Design: a Simultaneous Approach”は,CAST Plenary Sessionでの発表だった.

これと似た方向性の研究で,分子シミュレーションとプロセスシミュレーションを結び付けるという研究も行われている.これはMultiscale Modeling and Simulationという分野の研究になるが,分子シミュレーションの他に,CFD(数値流体力学)シミュレーションとプロセスシミュレーションを結び付ける取り組みもなされている.目指すのは,マクロとミクロの統合による,次世代のプラットフォーム構築と言えるだろう.

Unmeasured Disturbance Estimation

プロセス制御においては,プロセスモデルを正確に同定することと,そのモデルに基づいてプロセスの状態を正確に推定することが重要である.昔から取り組まれている研究テーマではあるが,次々と新しい研究成果が生まれている分野でもある.

モデル予測制御のためのプラントテストデータ(ステップ応答データ)から非観測外乱を推定し,その影響がある部分を排除することで,モデルの精度を向上させるという発表をRiggsがしていた.

昨今の理論面での発展により,線形/非線形モデル予測制御にも状態推定を利用するのが普通となっている.RawlingsのグループがReceding Horizon Estimationの研究を精力的に進めているが,今回は,同定用信号を加えない運転データからノイズの共分散と外乱の構造を推定する方法につての発表があった.モデルは線形だ.

実用性という観点から,Receding Horizon Estimationの欠点は計算負荷の高さとされる.状態推定を迅速に行う方法として,ベイズ理論の利用をBakshiのグループが提案している.

状態推定にカルマンフィルタを用いる場合,システムに定常なホワイトノイズが印加されることが仮定されるが,現実のプロセスでは,そのような仮定が成り立たないことも多い.そこで,隠れマルコフモデルを利用した外乱推定の方法をLeeが発表していた.

Design and Synthesis of Sensor Systems

センサーをどこに配置するのが最適かという問題を扱う研究分野だ.”sensor system”の代わりに,”sensor network”や”sensor location”という言葉を使うことも多い.昔からある研究分野ではあるが,新しい方法の開発が継続的に行われている.

センサー配置問題を定式化する際には,評価指標として可観測性(observability)を用いるのが普通である.対象プロセスのモデルが線形である場合には,可観測性グラム行列(observability gramian)を求めて,その最小固有値や固有値の総和などを評価指標に用いればよいが,非線形モデルを扱う場合には,この方法は使えない.そこで,最近,経験的可観測性グラム行列(empirical observability gramian)なるものがHahnのグループから提案されている.今回は,経験的可観測性グラム行列の利用に加えて,主成分分析(PCA)で共分散を考慮することによって,より適切なセンサー配置の解を得る方法についての発表があった.

また,Chmielewskiのグループは,制御性能を評価指標とした,センサーとアクチュエータの配置問題を取り扱っている.ここでは,制御性能を状態と入力それぞれの共分散で抑えにいこうとしている.

Process Analytical Technology (PAT)

製薬関係の人には,最近注目されている言葉としてお馴染みだろう.今回のAIChE Annual Meetingでは,PAT関連セッションが複数あった.PLSよりも高性能な回帰分析手法,ラマン分光の検量線作成時にプロセス情報(温度や密度など)も利用する方法などが発表されていた.

“Modeling for PAT”というセッションでは,FDA(Food and Drug Administration; アメリカ食品医薬品局)からの発表もあった.FDAが出す方針は全世界に影響を与えるが,ICH Q8(製剤開発),Q9(リスクマネジメント),Q10(品質システム)が出される中,QbD(Quality by Design)の実現に向けてPATが重要だということになっているようだ.FDAからの講演では,PATを利用したプロセス制御の重要性が強調されていた.これは化学工学(プロセスシステム工学)分野の研究者や技術者が得意としている分野であり,大いに貢献できるだろう.実際,ファイザーを初め大手製薬会社は化学工学を専攻した学生の採用を増やしているということだった.FDAにも化学工学出身者は少なくないそうだ.

Uncertainty

プロセス制御,プロセス設計,スケジューリング,サプライチェーン...何をするにしても,不確定性を考慮しなければ実用的な答えは得られない.というわけで,不確定性の考慮(under uncertainty)をキーワードとしたセッションが複数あった.

おしまい

とても全てを網羅することはできないし,する気もないので,ここまでにしておく.色々と研究のヒントは得たので,うまく活かしていきたい.共同研究の成果にも結びつくだろう.

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