12月 102006
 

現場監督者セミナー

化学工学会関西支部と化学工学会SIS部会プラントオペレーション分科会が共催する「プラントオペレーションに関する現場監督者セミナー」にアドバイザーとして参加した.このセミナーは毎年この時期に開催されているようだが,今回で第24回を迎え,セミナー受講者数も計994名になるらしい.ご長寿セミナーだ.

現場監督者セミナーの受講者は石油精製や石油化学プラントの現場監督者(運転員の班長さんとか係長さんクラス)が主要ターゲットで,エンジニアリング会社や計装メーカーの人達も混じる.セミナーでは,プラントオペレーションの課題と対策について,夜にはお酒も飲みながら,参加者が2日間かけて議論を行う.アドバイザーの役割は,ほとんど何もない.横で議論を聞かせてもらい,たまにコメントをする程度だ.

SD/SUが非定常でない!?

今回初めて現場監督者セミナーに参加したのだが,グループディスカッション開始直後からいきなりカルチャーショックを受けるなど,非常に刺激的だった.

非定常時の運転支援の在り方についての議論を始めるにあたり,具体的に何を対象にするか決めておきましょうということになった.極めて正しい議論の進め方だ.何について議論するのか,何を目的に議論するのか,このような認識を統一しておかないと,まともな議論にならない.そんな意思統一をはかる中で,「定期修理(いわゆる定修)時のシャットダウン(SD)とスタートアップ(SU)は非定常運転ではない」という意見が出された.私は「シャットダウンやスタートアップは非定常運転の典型」という認識であったため,これには驚いた.よく話を聞いてみると,マニュアルや標準作業手順が完備されており,その通りに運転すれば大丈夫という類の運転は非定常運転とは認識していないとのこと.つまり,緊急事態やトラブル発生時など,非日常的な運転を非定常と称しているとのことだった.語義的に正しい用法ではないが,心情的には大変良く理解できる.

この議論の際に,「じゃあ,バッチプロセスの運転は非定常ですか?」と尋ねると,「バッチなんてシャットダウンやスタートアップより簡単ですよ.そんなもの非定常ではありません.」との回答を得た.まさに,「なるほど〜!」という感じ.現場でプラントの運転に責任を持つ方々の認識を垣間見る非常によい機会だった.

技能伝承・技術伝承なんて不要!?

団塊世代の退職は生産プラントにも影響を及ぼす.ベテラン運転員が一斉に定年を迎え,経験の浅い運転員が中心の職場となる事態を「2007年問題」と呼んでいる.この問題に対処する方策として,ベテランオペレータの経験やノウハウを文書化・データベース化して後世に残そうという試みがなされている.技能伝承や技術伝承と言われるテーマだ.

これまで色々な機会に,技能伝承の話を聞いてきた.技能伝承を支援するツールとして,横河電機のExapilotや山武のKnowledge Powerという製品もある.これまでに聞いた話を総合して,素人なりに,世間の言う技能伝承とは,ベテランオペレータの技能(経験やノウハウ)を再利用可能な状態でコンピュータ内に取り込むこと(文書化でもよい)だと解釈していた.実際,ベテラン運転員は操作のノウハウやコツをメモした手帖を持ち歩いており,そこに書かれている内容を吸い上げて,システムあるいは若手運転員が利用できるようにすることが技能伝承だという説明も聞いたりした記憶がある.

ところが,現場監督者セミナーでは,操作方法や運転支援ソフトウェアが次々と更新される現在,手帖に書き留められた古い情報なんて役に立たないことも多いという話を聞いた.じゃあ,世間で,いや一部の学会や研究会とかでギャーギャーと騒いでいる技能伝承や技術伝承って何?

私自身はこの分野に疎いので,よく分からないが,現場の意識と,マネジメント層の意識,大学など研究者集団の意識は乖離していないのだろうかと心配になったりもした.まあ,余計なお世話なのだろうけど...

  2 Responses to “現場監督者セミナーでカルチャーショックを受けた”

  1. こんにちは。
    時々顔を合わせる機会があるので覚えていらっしゃるかと思いますが、TECの村田と申します。

    先生のWeb Siteはいつも楽しく拝見させて貰っています。

    先日の現場監督者セミナーについては、私も今回初めて参加させて頂き、日本の石油精製・化学会社の運転部門の方と議論が出来て非常に有意義でした。

    私のグループはテーマが「若年者教育(野田先生がアドバイザ)」であり、技術伝承の要素も多分に含まれるため、その議論も盛んに行われました。
    聞いていて感じたのは、同じ技術伝承・若年者教育でも大きなレベルでの悩みは各社共通だが、細かなレベルになると「各社各様(状況によっては、社内の隣のプラントとも異なる。)」と言った様子でした。

    確かに、人的要素が大きく関係する問題なので、そう簡単に紋切り型で扱える内容では無いと思いますが、技術伝承の解決のためにデータベース化・IT化を図ろうとしても・・・

    a) 対象のベテラン運転員にPCアレルギーがあり、難しい側面がある。
    b) PCを諦めて「紙に書く」と言う手段もあるが、ベテラン運転員はその「書く」と言う作業もままならない(真っ白な紙を前に、いざ書こうとなると何から書けば良いのか分からないようである。)。
    c) 仮にベテラン運転員が何らかのものが書けても、その文章を読むに当たっての前提となる知識レベルが若年者と大きく隔たりがある。そのため、もう一段階下のレベルの図書が必要になってしまうこともある(「手帖に書き留められた古い情報なんて役に立たないことも多い」と言う議論は、この辺りの理由と深く関係すると思われる。更に「古い」と言う形容詞は「その人の自己流で、現在の一般的なやり方ではない」と言う意味が込められていると思う。)。
    d) そもそも、ベテラン運転員は退職間近のため、このような労力のかかる作業に取り掛かる気力が無いケースも多い。
    e) 「背中を見て盗むのが仕事のやり方だ」と言うメンタリティがベテラン運転員には一般に強い。更に、若年者は指示待ち・マニュアル待ちの姿勢が目立つ。

    等々中々簡単にはいかない現実があることが分かり、各社なりに色々挑戦しているのが実情であることが分かりました。

    横河電機のExapilotや山武のKnowledge Powerと言っても、成功事例を前面に出した営業的な要素も大きいと思います。
    今回の討議でも「システム導入はコストが大きいため、人の投入で対処しようとしている」傾向が強いと聞きました。
    ただ、その「投入された人」は該当のプラントを知っている訳ではないので、戦力とするのに非常に時間が掛かってしまうことのようでした。

    技能伝承が不要と言うことは有り得ないと思いますが、その実現は非常に難しいというのが実情だろうと思います。
    単純にシステム導入・IT化と言うことにはならない(至りにくい)と言う事なのだろうと思います。

  2. コメントありがとうございました.今回は別グループでしたね.

    技術伝承実現の前に立ちはだかる問題a〜eを整理していただき,「なるほど!」と納得です.技術の問題というよりも,むしろヒトや組織の問題のようですから,なおさら難しいですね.

    見方を変えると,大学なんて,学部最終学年と大学院修士課程の合計3年で就職していく学生がほとんどですから,昔からず〜っと技術伝承の問題に悩まされているわけです.研究の「いろは」を教え,論文を読めるようになり,ソフトウェアの使い方を覚え,ようやく研究ができるようになると去っていく.そして,真っ白な新入生(4回生)がやってくる.これの繰り返しですから.

    そこで,どうやって技術伝承をするかと言えば,先輩と後輩のコミュニケーションですよね.一緒に研究生活をする中で技術を伝えていく.

    話をプラント運転に戻すと,省人化・合理化の名の下に,人を削りすぎて,ろくにコミュニケーションも取れないような組織にしてしまったのが問題だということになるでしょうか.これもまた,余計なお世話でしょうが...

 Leave a Reply

You may use these HTML tags and attributes: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>