8月 242007
 

IFAC (International Federation of Automatic Control) が主催する国際会議 IFAC MMM (the 12th IFAC Symposium on Automation in Mining, Mineral and Metal Processing) が,8月21−23日に,カナダのケベックシティで開催された.

その名の通り,採鉱,鉱物,金属といったプロセスに関する国際会議で,3年に1回開催される.次回は2010年に南アフリカのケープタウンでの開催が予定されている.

会議概要

MMM 2007 は,IFAC TC 6.1 CPC が主催するシンポジウムである ADCHEM や DYCOPS と比較すると,かなり小規模である.今回の発表論文は計73報で,その内訳は,招待講演が3件,口頭発表が70件であった.パラレルセッションは2系列だけであり,参加者が議論しやすい会議だといえる.

日本からの研究発表は,私を含む大学関係者数名の発表を除くと,JFEスチールとJFE技研による発表4件のみであり,他の大手鉄鋼会社からの発表はなかった.

参加しての感想: 多変量解析について

IFAC のシンポジウムではあるが,制御理論とは疎遠である.最先端の制御理論に関する発表は全くなく,鉱物や金属を扱う生産プロセスをどのように操業するかが話題の中心である.企業からの発表が多いのが印象的で,一般的な手法や技術についての研究発表よりも,特定の生産プロセスに関する事例発表が多かった.このため,同業者には非常に参考になると思われる.

MMM 2007 全体を通して,会議参加者が非常に強く意識していたのが,「多変量解析技術の適用」だ.多変量統計的プロセス管理(Multivariate Statistical Process Control; MSPC)とソフトセンサー(Softsensor)に関連する発表が多く,かつ注目されており,”PCA/PLS”や”Multivariate Technique”という言葉がやたらと耳についた.3件の Plenary Lecture のうちの1つは,Prof. John MacGregor による”Learning from Data”であり,多変量解析,特にPCAとPLSをなぜ使うのか,どのように使うのか,という内容の講演だった.この Plenary Lecture が今回の MMM を象徴していたと思う.ちなみに,PCAとは主成分分析(Principal Component Analysis),PLSとは部分的最小二乗法(Partial Least Squares)のことである.

現在,日本国内でも,鉄鋼各社において多変量解析の適用が精力的に進められている.あるいは,進めよういう動きがある.これは MMM 分野の世界的な潮流なのだろう.この分野に長年関わってきた一研究者としては,他国の企業の後塵を拝することがないよう,是非頑張って欲しいというのが本音だ.

MMM業界で多変量解析の適用に昔から取り組み,実績を上げている代表的な企業は,カナダのハミルトンに本拠地をおく Dofasco である.ここのMSPCシステムは最高の適用事例と言われている.私自身,日本国内で招待講演を依頼される度に,Dofascoの事例を紹介してきたので,日本でも結構有名だろう.現時点で,Dofascoの技術を凌ぐMSPCシステムを,日本の企業は実現できていない.1990年頃から取り組み始めたDofascoと,ここ数年の間に取り組み始めた企業とでは,蓄積されている技術に相当の差があっても不思議ではない.

私自身,この分野で,日本の産業界に何とか貢献したいという思いはある.日本鉄鋼協会内で研究会を立ち上げようという動きなどもあるが,その活動に期待したい.

参加しての感想: 研究発表を聞いて

鉱物や金属のことは全然知らないので,正直,個別のプロセスの話にはついていけなかった.このため,どんな手法がどんなところで使われているのかを中心に研究発表を聞いてきた.

非常に気になったのが,ADCHEM や DYCOPS など私がこれまで参加してきた学会に比較して,MMM ではファジーモデリングが大人気であることだ.最近,ファジーを使いますなんて発表を聞くことはほとんどなかったのだが,今回はわずか70件の研究発表の中に,数件あった.決して,ファジーモデリング自体が悪いのではないのだが,猛烈に気になったのは,本当にファジーモデリングを使うべきところで使っていますか,ということだ.私の知識が浅薄であることが問題なのかもしれないが,全く無意味な使い方をしているような気がした.

ファジーモデリングは所詮非線形モデリング手法の1つである.定性的にしか表現され得ない情報をモデリングに利用するために,メンバーシップ関数という考え方は有効だろう.だが,定量的なデータだけを扱う際に,非線形だからという理由で,どうしてファジーモデリングを使いましょうということになるのかが理解できない.定量的な情報に,あいまいな表現を与えて,一体何のメリットがあるのだろうか.最終的には,曖昧さを排除した解析をしようとしているのに...

僭越ながら,アドバイス

多変量解析を活用して,多変量統計的プロセス管理(Multivariate Statistical Process Control; MSPC)やソフトセンサー(Softsensor)を自社プロセスに実装したいと考えている技術者の方々に理解しておいて欲しいことがある.

いたずらに新しい方法や複雑な方法を使う必要はないし,使ってはならないということを肝に銘じておいて欲しい.JohnがPlenaryで話したように,PCA/PLSで十分なケースがほとんどなのだ.対象が複雑で非線形だからという説明をよく聞くが,それと線形手法でうまくいかないこととが,どう繋がっているのか分からないことが多い.プロセスが非線形であるのは当然だ.バッファータンク1つだけのプロセスでも非線形だ.だからと言って,液面制御に非線形モデル予測制御を適用するなんてことはしないだろう.最終的に,線形手法では十分な精度のモデルを構築できず,非線形手法を適用する場合も当然ある.しかし,そこに至るまでに,線形手法で十分に解析しておくことが,プロセスへの理解を深めることに繋がり,最終的な成功への近道なのだ.

プロセスの改善を目指すなら,構築するモデルは解釈されえなければならない.解釈できないような,プロセスについての理解を深められないようなモデルを構築しても意味がない.

古典的なPCA/PLSを適用したとして,そこから読み取れるはずの情報を100%引き出しているか.それが問題だ.潜在変数の値(主成分得点など)をどう見るか,ローディング(負荷量)をどう見るか,プロセス変数と潜在変数の関係をどう捉えるか,得られた線形回帰モデルから何を読み取るか,そういう基本的なところをないがしろにしてはいけない.古くさく地道な作業だが,そのような作業を通して,成果が得られる.論文は書けないかもしれないが...

論文を書くための研究,研究費を取るための研究に惑わされる必要はない.

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