9月 102007
 

モデル予測制御(Model Predictive Control / Model-Based Predictive Control)の起源は1960年代終わりにまで遡る.当時,石油精製産業では制約条件の扱いや多変数プロセスの制御を実現できる制御技術が,防衛産業では非定常設定値への追従制御を実現できる制御技術が求められていた.学界での主たる研究対象であった最適制御や適応制御は,このような産業界のニーズに応えられるものではなかった.そのような状況下で,モデル予測制御は産業界で誕生した.モデル予測制御黎明期の立役者は,ADERSA社を立ち上げたDr. RichaletやDMC社を立ち上げたDr. Cutlerである.

今年(2007年),そのDr. Jacques Richaletが”Nordic Process Control Award”を受賞したのを機に,日揮と日本学術振興会プロセスシステム工学第143委員会ワークショップNo.27「プロセス制御技術」が共催で,受賞記念講演会を開催した.

Dr. Jacques Richaletは,1968年にADERSA社を立ち上げた.最初のモデル予測制御ソフトウェアPFC/IDCOMは1973年に登場し,1974年には蒸気発生器,反応器,蒸留塔への産業応用が行われた.その成果が学術雑誌に登場したのは1978年のAutomaticaであり,これがモデル予測制御(Model Predictive Control / Model-Based Predictive Control)の最初の論文とされる.

その後,1989年にはPFC(Predictive Functional Control)からPPC(Parametric Predictive Control)への拡張が行われ,1998年にはPFCがPLCのライブラリに組み込まれた.PFCの産業応用分野は,防衛,自動車,冶金,化学など多岐にわたる.エッフェル塔のエレベータやレーザー誘導爆弾の制御にも利用されていると聞けば,その応用範囲の広さが想像できるだろう.

2007年現在,モデル予測制御に関する研究は極めて盛んである.しかし,その観点は昔とは大きく異なり,ハイブリッドシステムを含めて,理論的に非常に高度な内容が議論されている.だからこそ,制御理論屋さんが興味を持って取り組んでいるのだろう.

一方,Dr. Jacques Richaletが普及させたPFCは,そのような研究動向とは一線を画しているように思う.PFCの特徴は,産業界で最も一般的に採用されているPID制御では解決できない制御問題を解決し,利益をあげるという目標に集中していることである.このため,適用対象を限定することで,アルゴリズムが複雑になることを避け,計算負荷を低減し,実装が容易で,現場に受け入れられやすいパッケージに仕上げている.どんどん一般化され,複雑化,肥大化していく多くの制御アルゴリズムとは異なり,狙った獲物を確実に仕留めるタイプだと言える.

PFCの適用に際しては,第一原理モデル(物理モデル)の利用が推奨されている.利用されるモデルは必ずしも詳細で厳密なものではなく,制御目的を達成するために必要十分な程度のモデル化がなされ,かつ,モデルの特徴を制御アルゴリズムに反映させる点が特徴的である.また,制御パラメータの物理的意味を明確にし,かつ制御パラメータの効果を独立させているため,調整が容易であるとされる.

プロセス制御の神髄は,制御変数のバラツキを抑えて,運転条件を制約条件ギリギリまでシフトさせることによって,利益を得ることである(”Squeeze and Shift!”).利益を現実化するため,PFCは以下のような目標を掲げて開発されている.

- To optimize the ratio: “performance / Understanding, Implementing, Tuning”.
- To solve the problems that PID cannot solve… but in continuity with the PID approach…
- Easy access to floor instrumentists. Tuning parameters should have a clear physical meaning.
- Elementary mathematics.
- No explicit integrator in the loop.
- No matrix calculation.
- No quadratic minimization on line.
- Open technology.

プロセス制御で実際に利益をあげようとするならば,PFCの開発思想とそのアルゴリズムは大いに参考になるに違いない.幸い,Dr. Jacques Richaletの著作の日本語訳が刊行されたので,ここに紹介しておこう.

この本をいただいたのだが,まだ読めていない.冬が来る前には読破する予定だ.

  2 Responses to “実践的なモデル予測制御とは?”

  1. モデル予測制御というと、DMCやRMPCTといった大がかりな話が注目されがちですが、たとえばIMCに基づいたPIDのパラメータ設定も、実用に必要十分なレベルのプロセスモデルを使う意味で、モデルを利用した制御の一つですよね。
    (結果がシンプルかつ、物理的な意味がとり易いのでDCSの現場チューニングでは指針として重宝しました。)

    紹介されている本書はWebで目次見ましたが、読んでみたいなと思いました。今後はこう考えがが標準のアルゴリズムとして制御機器(システム)に実装されていくのかも知れませんね。
    何とか読み通せたら、また感想を入れさせてもらいます。

  2. IMC(内部モデル制御)も,モデル予測制御の単純版であり,広く利用されている手法ですね.そういう意味では,PFCと類似点はあります.ただ,PFCの「必要十分な程度のモデル」といのは,一般的にIMCで利用される伝達関数モデルとは異なります.あくまでも,物理モデルなのですが,化学工学の常識からすると当然モデル化すべき部分を敢えてモデル化しなかったりするのです.私自身まだきちんと理解できていないのですが,初めて説明を聞いたときは結構驚きました.そして,物理モデルであるが故に,非線形コントローラにもなるわけです.ただ,いわゆる非線形モデル予測制御のような複雑怪奇なアルゴリズムにはせず,物理モデルの特徴を活かして,単純な制御を実現しています.こういう点も含めて,その考え方に触れるのは,プロセス制御技術者にとって有意義だと思います.

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