9月 142007
 

プロセス設計ができる人は凄い

化学工学には,「プロセス設計」という分野がある.主に化学プロセスを対象として,どのような装置をどのように組み合わせ,さらにどのように運転すれば,希望する製品を要求された量だけ生産した上で,利益を最大化できるか,という問題に取り組む分野である.その重要性は専門家でなくても理解できるだろう.まともなプロセス設計の方法論が存在しなければ,企業は製品を生産できないし,顧客は商品を享受できない.

プロセス設計」というのは,総合力が試されるテーマである.例えば,プラスチックを生産するプロセスでもいい.ある化学プロセスの設計をしようと思えば,関与する化学物質の性質を知らなければならない.化学反応に関する情報も必要である.反応器の中をどのように物質が流れ,どのように反応が起こるのかを正確に予測できなければならない.複数の物質の混合物から製品を取り出すために,どのような分離装置を利用すればよいか,その分離装置内でどのような現象が起こるのか,といった疑問に的確に答えられなければならない.さらに,個々の装置を適切に設計するだけではなく,プロセス全体を考慮して,全体として最適な構成になっているかを検証できなければならない.そのためには,有機化学,無機化学,物理化学や,輸送現象,反応工学,分離工学,粉体工学や,数理計画法(最適化),ピンチテクノロジー,プロセスシステム工学等を習得していることに加えて,数値計算やシミュレーション技術にも通じていなければならない.このように,「プロセス設計ができる」というのは実に凄いことなのである.

プロセス設計ができる人を育てられない

従来より,化学工学においては,「プロセス設計」は主要な教育科目の1つであった.ところが,近年,「化学工学」という看板を外し,(化学)+(環境,生物,システム等)+(工学)といった看板を掲げる学科が増えている.これは日本国内に限ったことではなく,アメリカも同様であり,多くの大学で”Department of Chemical Engineering”が”Department of Chemical and Biomolecular Engineering”のような名称に変わってきている.このような動きは昨今の流行を如実に表しているのが,そうすると,講義内容も当然変更せざるをえない.具体的には,これまで教えていた単位操作の講義を削って,環境や生物についての講義を充実させることになる.そうすると,当然のことながら,プロセス設計ができる学生を育てることは非常に困難になる.もちろん,プロセス設計という講義をすることはできる.ただ,そのための基礎がしっかり身に付いていないのに,あるいは教えられていないのに,きちんとプロセス設計ができるようになるわけはない.

プロセス設計ができる人は不要なのか

プロセス設計ができる人が不要なら,そんな人を大学で育てるのは無駄だから,潔く方針転換すればよい.あるいは,プロセス設計ができる人は必要だが,大学に期待するつもりはないし,自社で人材を育成するというのなら,それでもいい.だが,実際はどうなのだろうか.どのような人材を大学に輩出して欲しいのか,産業界はきちんと要求を明確にして,伝える努力をしているだろうか.

プロセス設計ができる人を育てたいなら

もしプロセス設計ができる人を育てたいなら,少なくとも,きちんとした教科書は必要ではないだろうか.例えば,AMAZONで「プロセス設計」で書籍検索してみる.すると,何も出てこない.もちろん,検索結果は100件以上表示されるのだが,化学プロセスの設計には関係ないものがほとんどであり,関係するものであっても,極一部にプロセス設計を含む程度に過ぎない.これでは,教えるのも難しいのではないだろうか.

現在,札幌で開催されている化学工学会秋季大会でも,この点に関する議論があった.ところが,プロセス設計というのは,本を読んで理解したら良いという類のものではなく,実際に自分で設計してみなければ身に付かない.演習として,学生に設計してもらうとなると,設計すべき対象プロセスの問題設定をしなければならないのだが,これが実は非常に大変な作業となる.このため,プロセス設計の考え方や手順や必要なデータを網羅した教科書だけではなく,例題集のようなものも必要である.必要で,現存しないなら,誰かが作らなければならない.

自分で自分の首を絞めているだろうことは承知した上で,日頃思っていることを書いてみた.

参考情報

日本国内では,演習科目としてのプロセス設計に最も積極的に取り組んでいる大学の1つが京都大学であろう.京都大学では,約2ヶ月間でプロセス設計を行い,設計結果の発表およびレポート提出を行うというプロジェクトを学部4回生に課している.京都大学で行われているプロセス設計については,過去のプロセス設計テーマや各種資料が公開されているので,そのウェブサイトを紹介しておこう.

プロセス設計: 京都大学工学部工業化学科化学プロセス工学コース

また,現在札幌で開催されている化学工学会秋季大会において,プロセス設計の学生コンテストが開催された.「トルエンの脱アルキル化プロセス」というプロセス設計課題に6チームが取り組み,その設計結果が発表された.今回のコンテストは,プロセス設計教育の課題を認識する上でも意義ある企画だったように思う.なお,プロセス設計の学生コンテストは,化学工学会 システム・情報・シミュレーション部会(SIS部会) 情報技術教育分科会が主催している.

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