7月 312008
 

ダイセル化学工業が実現した生産革新

立役者である小河さんがまとめられた「ダイセル化学における生産革新の取り組み」という資料の中に,生産革新の成果が以下のように記されている.

ここまで紹介した革新活動の結果として、網干工場においてシステム構築前に比べ生産性を3倍に、従業員数は740名から60%削減し290名体制とし、さらにそれで生じた要員を新規事業立上げに活かし、開発のスピードアップや早期立上げに寄与するなど相乗効果をあげることが出来ました。同時に、技術・技能・ノウハウ顕在化によるオペレーションの均質化と製造技術として活用できる仕組みを構築するなど製造技術の知的財産化も行いました。

これは驚くべき成果だと言えるだろう.この生産革新は,網干工場において「次世代型化学工場」の構築を進める中で達成されたものである.上述の資料「ダイセル化学における生産革新の取り組み」以外にも様々な媒体で,ダイセル化学工業の生産革新が取り上げられている.それらの資料は,生産技術に携わる人達にとって一読の価値があることは疑いようもなく,学生もしっかり読んでおくとよいだろう.

生産革新研究会報告書(経済産業省)

注目を浴びる「ダイセル方式」は,経済産業省の調査対象にもなり,2007年に生産革新研究会が設置された.その生産革新研究会の報告書「化学/プロセス産業における革新的生産システムの構築 〜新たな生産方式の胎動〜」が公開されているので,紹介しておきたい.

生産革新研究会報告書について(2008年4月)」と題した経済産業省のページには,生産革新研究会および報告書の概要が以下のように記載されている.

経済産業省では、一部の化学企業において、生産活動の仕組みを全面的に見直す生産革新に取り組み、生産性の大幅な向上、製造原価の大幅な減少、技能・技術の伝承と人材育成、安全・安定運転の実現等、多大な成果を挙げている事例に注目し、2007年5月に「生産革新研究会」(座長:西谷奈良先端科学技術大学大学院教授)を設立し、6回にわたり会合を開催してまいりました。

本研究会では、多大な成果を挙げている生産革新事例について、当該方式構築企業であるダイセル化学工業(株)の事例及び同社の手法を導入している企業6社の現状、その手法、特徴、今後の可能性等に関して検討を行い、この度、「化学/プロセス産業における革新的生産システムの構築 〜新たな生産方式の胎動〜」と題する報告書をとりまとめるに至りましたので公表致します。

経済産業省のページ「生産革新研究会報告書について(2008年4月)」から報告書のPDFファイルをダウンロードできるので,興味のある方には読んでいただきたい.

朝日新聞社説

注目を浴びる「ダイセル方式」は,朝日新聞社説でも紹介されている.企業の革新を実現させた「ダイセル方式」は,非効率な事務の代表格である行政事務の現場でも導入してみる価値があるだろうという指摘だ.

もちろん,試す価値はあるに違いない.しかし,ダイセル化学工業が成功したのは,プロジェクトの核となった中堅管理職の猛烈な頑張りがあったことを忘れてはいけない.手法だけ持ち込んでも,熱い想いを抱き,情熱を持って取り組む人がいない組織であれば,成功は望めないだろう.

ノウハウの継承―企業若返りのテコとして

団塊世代の大量退職を迎え、その知識や技能を継承しつつ組織を若返らせることが企業社会の課題になっている。ノウハウの継承をどう企業の革新に結び付けるか。その取り組みを一つご紹介しよう。

兵庫県姫路市にあるダイセル化学工業の網干(あぼし)工場。液晶画面の部品の素材などを生産している。ここで96年から若返り作戦を進めた結果、生産性が3倍へと飛躍的に向上したという。

ダイセルは他企業より一足早く、10年前にベテラン社員の大量退職が始まった。だが、ベテランのノウハウや知識を中堅以下へうまく引き継ぐことができないことが悩みだった。

そこで、中堅の管理職がベテランから徹底的に聞き取り調査をおこない、継承すべき知識と捨ててもいい知識を整理分類した。その成果をコンピューターに入れ、だれでも簡単に引き出して利用できるようにしたのだ。

工場内の集中作業室にタッチパネルの画面が並び、トラブルが起きたときなどに、ここで対処法をすぐ引き出して処置する。こうして、次代を担う社員の間で社内の知識やノウハウを広く共有できるようになった。

継承には膨大な手間がかかるが、その結果トラブルをこなし順調に操業できるようになると、現場に余裕もできた。業務の改善など創造的な仕事に取り組めるようになったほか、聞き取りをした中堅層ではコミュニケーション能力が格段に向上した。この結果、会社の組織が開放的になり、大幅な生産性の向上につながったという。

こうしたノウハウの継承は、どの工場へも応用できる。横河電機と組み、この手法を他企業へ移植することを有料のビジネスにもしている。

他の企業では、生産現場での継承策としては、傑出した職人技を見込みのある若手に教え込む「マイスター制度」も広がっている。

そうした一対一の技能伝承とは異なって、経験として暗黙のうちに組織に蓄積されたものを再認識し、IT(情報技術)を生かして全員の共有財産にするのがノウハウ継承の特徴だ。

いまは工場だけでなく、この方法を事務部門でも広く活用する取り組みも進められている。非効率な事務といえば、行政部門はあしき代表だろう。行政事務の現場でも、導入してみる価値があるのではないか。

政府の経済財政諮問会議の専門調査会がいわゆる「21世紀版前川リポート」をまとめた。10年先をにらむ構造改革を提案しており、副題に「日本経済の『若返り』を」とある。

新たな成長軌道へ入るには、日本経済がどのように「老い」ているのかを分析し、症状に即した若返りへの処方箋(せん)をつくるほかない。ノウハウの継承はそのひとつの試みに違いない。

2008年7月29日(火) 朝日新聞社説