9月 032008
 

日経ビジネスに,京都大学工学研究科長・工学部長である大嶌教授のインタビュー記事が掲載され,話題になっている.「さらば工学部 6・3・3・4年制を突き破れ」と題した日経ビジネス誌8月18日号特集の連動インタビューシリーズの第7回で,タイトルは「京大工学生はゆとり世代から学力低下」だ.抜粋を最後に記載しておく.

真犯人は誰か?

学生の学力低下が話題になることは多いが,定量的な検証はなされていないように思う.まず,そこが問題なわけだが,大嶌教授は,担当講義での試験不合格者の割合が1割から4割に急上昇したこと,その学年がゆとり教育一期生であることを指摘して,ゆとり教育に一因を求めている.ゆとり教育の理想がどうであったかという議論は別として,事実として,高校卒業までに身に付けることを要求される知識は激減した.その影響がないはずはない.

多忙な大学教員

これだけで話が終わったら面白くも何ともないのだが,日本の大学教育に関わる大きな問題として,教員の多忙さが指摘されている.京都大学工学部化学系教員の平均出張日数は教授年間65日,准教授41日,助教28日という調査結果が示されている.気になったので,2007年度の自分の出張日数をザッと数えてみた.な,なんと,82日.准教授の平均値の2倍だ.「そんなことで教育ができるか!」と工学研究科長に怒られそう...

ちょっと焦って,理由を考えてみた.2007年度の出張日数が多いのには理由があって,例年より,国際会議に多く参加していたのだ.実際,国際会議(海外)のための出張日数は35日だった.しかし,それを引いても,まだ47日も出張している.内訳は,学会参加(研究発表),学会関連委員会出席(社会奉仕),学会や企業での講演(社会貢献)など.いずれにせよ,出張が多すぎるのは確かだろう.

減り続ける大学教員

一般の人達には認識されていないかもしれないが,大嶌教授の指摘通り,教員数の減少も大きな問題だ.私が学生だった頃(十数年前)に比べて,1研究室あたりの教員数は1/2〜3/4程度に減少している.理由は,崩壊寸前の日本国家財政の負担を軽減するためだ.つまり,国家公務員なんて無駄だから減らせという世論を背景に,大学教員(厳密には公務員でなくなったが)も減らされ続けているわけだ.

魅力ある教員を!

大嶌教授は,「大学としては,一番早く手をつけるべき大切なことは,魅力的な教授を選ぶことに尽きます」とまとめている.これは正論だろう.私もそう思う.ハッキリさせておかないといけないのは「魅力」の意味だが,インタビューでは次のような表現が出てくる.

「先生が燃えるように面白い研究をしているか.学生から惚れ込んでもらえるような先生がいるのか.」

人間が人間に「惚れ込む」というのは並大抵のことではない.心して教育に携わる必要がある.

教育

このような状況なので,当然ながら,教育再生が声高に叫ばれる.最低限の要求として,大学卒業証書に値する知識や能力を身に付けた学生を社会に排出することは,大学の責務である.それができないなら,大学の存在意義が問われてしまう.しかし,教育というのは,そんな低次元の話で終始するものではないと思う.新渡戸稲造の言葉を借りれば,

知能ではなく品格が,頭ではなく魂が,骨折って発達させる素材として,教師によって選ばれるとき,教師の職業は聖なる性格をおびる.

ということだ.特に,京都大学クラスの大学であるなら,教員の果たすべき責務も重くなるはずだ.

京大工学生はゆとり世代から学力低下

ここ数年で、京都大学の工学部学生の学力が極端に落ちてきています。これまでは思いもしなかったことが進行しているようです。

工業化学科の1学年は235人。従来、私の授業では1割程度が単位を落としていました。ところが、現在の3年生から急に4割ほどの学生が単位を落とすようになりました。

教員が忙しすぎるという別の問題も深刻です。このままでは、京大の教育と研究のレベルが落ちかねないと危機感を持っています。

教授、准教授、助教がそれぞれ約50人います。平均の出張日数は、教授は年間65日、准教授は41日、助教は28日に達していました。教授は1年間のうち丸2カ月も研究室を留守にしているわけです。

最近では、先生方は競争的資金を獲得しないとなりませんから、会合への出席が増えています。国立大学法人に支給される運営交付金だけでは研究には不十分です。

そのうえ教員数が減っています。従来、教授1人、准教授1人、助教2人という「1・1・2」の体制が一般的でした。それが今は「1・1・1」が増えています。さらに言えば、「1・1・0」「1・0・1」の場合も珍しくありません。従来4人でやっていたのを、2人でやることになる。それでは、教育の密度が半分になるのは当然です。

研究と教育のバランスは非常に難しい。お互いに相容れないところがあるんです。研究結果を求めれば、先生方は学生に対して「朝から晩まで働け」と言いかねません。半面、教育を考えると、教員はじっと待って、学生に考えさせないといけないのです。

大学としては、一番早く手をつけるべき大切なことは、魅力的な教授を選ぶことに尽きます。魅力的な教授が就任すれば、およそ20年は教室を持ちます。その間、学生が約100人通っていく。優秀な学生を輩出できるか否かはそこにかかっているのでしょう。

(日経ビジネス「京大工学生はゆとり世代から学力低下」)

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