11月 152008
 

ちょうど1週間前,「品質や歩留りの改善にデータ解析を活用:SONAR研究会」と題して,特別講演について記載した.その後,主催者であるワイ・ディ・シーの方にお願いして(無理強いして),アンケートの該当部分の結果を教えていただいた.

講演の難しさ

アンケート結果を見る限り,講演は大変好評だったようだ.「非常に良かった」,「もっと聞きたい」というコメントを書いて下さった方も少なくなかった.SONAR研究会参加者約100名の持ち時間105分を割いていただいたわけだから,それだけの価値があったと感じていただけたなら,講演者としては大変嬉しい.というわけで,講演は大成功だったのだが,今後(SONAR研究会での続編とか)について考えるとき,悩ましい問題もある.

最大の問題はテーマ設定だ.今回は,品質をキーワードとして,様々な産業界での実例を含めながら,これでもかという程,広範な話題について触れた.広く浅い説明であるため,利用した手法や技術については,それらの概念を伝えることのみに注力し,数式はほとんど出さず,細々した(でも実用化しようとすれば立ちはだかる)問題についても触れなかった.ある意味,素人から玄人まで万人受けするような講演を心掛けたわけだ.このため,当然のことながら,「次回は○○についてもっと詳しく話を聞きたい」というようなコメントが出てくる.講演者として,このようなコメントは非常に嬉しいのだが,「○○」は人によって異なる.では,何を話すか.現実には,ニーズの高そうな話題から順番に話していくしかないだろう.つまり,講演のシリーズ化だ.

さて,問題の急所はそこではない.とにかく,テーマを決めたとしよう.そのテーマについてもっと詳しく話を聞きたいという人達は,計算方法を含めて,その技術を実用化するのに必要な知識をしっかり身に付けたいと望んでいるだろう.講演者としては,その期待に応えたい.そうすることによって,日本の産業界の技術力を高めることに,僅かながらでも貢献もできるだろう.しかし,数式を出すと,間違いなく消化不良を起こす,あるいはアレルギーを発症する人が出てくる.実際,先週の特別講演では,元々数式を多用しない私の普段の講演に比べても,さらに数式を減らしていたのだが,それでも,「難しかった」,「ついていけなかった」というコメントがあった.共通しているのは,後半,つまり独立成分分析を活用した影響度解析についての話題についていけていないという点だ.逆に,「独立成分分析の応用に興味を持った」というコメントも多かった.このことは,参加者の理解度に大きなバラツキがあることを意味している.仮に,次の講演で,独立成分分析を活用した影響度解析について詳しく解説するとすれば,理解できる人とできない人がハッキリと分かれてくるだろう.こうなると,学校の授業と同じで,どのレベルに合わせて説明するべきかが問題となる.基本的には,理解度が低い人に合わせつつ,所々,ハイレベルな話題を織り交ぜるというのが答えになるだろう.いずれにせよ,先の講演のように圧倒的多数に支持してもらえる講演をするのは容易ではない.

それでも,私もプロであるから,成果は残さないといけない.

成功と性向

アンケートには,「実際に使ってみたい」,「現場に持ち帰って検討したい」というコメントも多かった.これらのコメントによって,私の講演が成功したことが確認される.どういうことか.それは,私が,講演の目標に「実施してもらうこと」を設定しているということだ.講演を楽しく聞いてもらうこと,新しい知識を得てもらうこと,新しいアイディアのきっかけになること,色々と目標はあるが,最終的に,それが実践に結びつかなければ,ハッキリ言って何の意味もない.日本の産業界の技術力の向上にも役立たない.私が各所で講演をさせてもらっているのは,第一に,プロセスデータ解析を実践する人を増やすためだ.そういう観点で,以前から,自分自身の活動を布教活動に喩えている.

参考までに,「ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル」と題して書いた文章の一部を再掲しておこう.

まず,大切なことは「私が申し上げたいこと」ではなく,「相手に伝えるべきメッセージ」だと著者は指摘している.著者の定義によると,メッセージとは次の3要件を満たしているものである.第1に,そのコミュニケーションにおいて答えるべき課題(テーマ)が明解であること.第2に,その課題(テーマ)に対して必要な要素を満たした答えがあること.第3に,そのコミュニケーションの後に,相手にどのように反応してもらいたいのか,つまり相手に期待する反応が明らかであること.

確かに,上記の3要件は大切だ.仕事柄,様々な企業や学会から講演依頼をいただくが,その際,この3つは間違いなく確認している.つまり,「何についての講演を依頼されているのか?」を主催者に確認すると共に,「依頼された講演を行う能力があるか?」と自問自答する.主催者に確認するのは,講演テーマだけでなく,主催者が自分に何を求めているのかということだ.講演内容,想定される聴講者,主催者が聴講者に伝えたいこと,主催者が期待する講演の成果,などについて納得できるまで,かなり執拗に質問するので,驚かれることも少なくない.しかし,これらが明確でない講演をやったところで,期待される成果は得られないだろう.というか,これらが明確でないということは,期待する成果すら定義されていないわけだから,成功も失敗もないのだろうが.ただ,そういう講演を引き受けるほど暇なわけでもない.各々の部署,企業,産業界などで役立つ技術について易しく解説することを望まれるケースが多いが,トップも含めて,その有用性に懐疑的な人達が多いのが現実であるため,「事業の決定権を持つトップマネージメントを説得すること」が講演成果である場合も少なくない.

課題と相手に期待する反応が定まったら,答えの中身を考えなくてはならない.著者は,ビジネスにおいて課題の答えとして備えるべき要素は次の3つだとしている.答えの核である「結論」,結論の妥当性を説明する「根拠」,そして結論がアクションの場合にどうやって実行するのかを説明する「方法」だ.

さて,アンケートに,「自分の現場では実際に使えそうにない」というような内容のコメントがあった.ある意味,最も心に残ったコメントがこれだ.大変正直な感想で,実プロセスを対象とした場合の問題解決の難しさを知っておられるのだろう.しかし,敢えて暴言を吐かせてもらうと,そんな考え方をしているうちは,確かに実際に使えないだろう.自分で自分の可能性を封印しているからだ.

実は,今回の特別講演で,配付資料には掲載していながら,講演では紹介しなかったスライドがある.そのうちの1つのタイトルが「成功するために」だ.成功の秘訣として次の5項目を挙げている.

  • 目標を明確にする.具体的に!
  • 目標を達成した状態をイメージする.
  • 毎日,目標と達成イメージを心に描く.
  • 全力で取り組む.悩まず,前向きに,即実行!
  • 不平・不満は敵,何事にも感謝するのが吉.

ちなみに,私が研究室で学生に言うのは,「我が研究グループは国内では敵なし,世界でもトップレベルだ」ということだ.

否定的な考えなんて捨ててしまえばいい.自分ならできると信じて,実行するんだ.