12月 062008
 

技術経営(MOT)を勉強するぞ!」で勉強開始を宣言し,現在,2冊目のテキストとして,「MOT[技術経営]入門」(延岡健太郎,日本経済新聞出版社,2006)を読んでいる.最初に読んだ「技術経営入門 改訂版」(藤末健三,日経BP社,2004)は,トピックを羅列しただけのテキストであったが,「MOT[技術経営]入門」は思想が明確になっており,技術経営の中身がよりよくわかる.まともに勉強したいなら,こちらが一冊目に良いだろう.ただし,最終的な結論を下すのは他書を読んでからにしたい.

コア技術戦略

「MOT[技術経営]入門」において,「コア技術」とは,「ある技術領域に関して組織に蓄積された体系的な知識」であり,「コア技術戦略」とは,「技術による強みを持続するための組織能力を構築し活用する技術経営」であると書かれている.

コア技術戦略を実践するためには,「長期的な視点から,技術開発と商品開発の間に,相乗効果が生まれるための戦略と仕組みを構築することが重要」とされる.強い技術が商品の差別化,延いては価値獲得につながることはもちろん,逆に,商品開発を通してコア技術が強化され,継続的に発展していく.

コア技術戦略を採用する場合,その戦略マネジメントに徹しなければならない.つまり,コア技術に関連しない技術開発や商品開発に手を出してはいけない.コア技術を利用して,複数の市場に複数の製品を導入していく中で,コア技術は強化・発展し,競合に真似されない独自技術へと育つ.

したがって,必然的に,顕在化した顧客ニーズを最優先して商品開発を行うマーケットイン戦略ではなく,コア技術の活用を優先するプロダクトアウト戦略を採用することとなる.マーケットイン戦略を採用すると,商品は売れるだろうが,過当競争のために価値獲得にはつながらず,差別化できる技術も育たない恐れがある.

価値創造と価値獲得の実現に向けて,コア技術を活用した商品開発に徹するプロダクトアウト戦略を採用し,様々な商品開発を通して,コア技術の強化を成し遂げていくことになる.浮気してはいけない.一時的な成功はあっても,それは継続せず,組織能力の強化にも寄与しない.

プロセスデータ解析の研究

私が率いる研究グループのコア技術は「プロセスデータ解析」と定義できる.修士課程の後半(1993年)から取り組み始めたので,もう15年程になる.

いわゆる多変量解析(重回帰分析や主成分分析など)の勉強からはじめ,特にPLS(partial least squares)と呼ばれる線形回帰手法に注目した.その最初の産業応用は,石油化学産業で用いられるナフサ分解炉の反応管外壁温度推定であった(1996年論文発表).物理モデルとPLSモデルを組み合わせて,反応管内に付着するコークの生成量を推算しながら,オンライン計測されている情報から反応管外壁温度を推定するという技術だ.

その後,リアルタイムには計測できない製品品質などを推定するためのモデル構築技術としてPLSを活用する研究に発展し,蒸留塔製品組成推定などの産業応用も手掛けた(1998年論文発表).この論文発表は国際会議での基調講演に選ばれた.勉強を始めてから5年で,ようやく世界のトップレベルで戦えるだけの力を身に付けたと言える.

それと並行して,主成分分析を用いる異常検出・異常診断方法,いわゆる多変量統計的プロセス管理(MSPC)の研究にも取り組んだ.製品品質推定もMSPCも,相互に強い相関を持つ膨大な数の変数,データをいかに巧妙に処理して,目的を達成するかが鍵であり,本質的には共通した部分が多い.MSPCに関連する最初の研究成果を1999年に論文発表し,翌2000年には国際会議でのプレナリー講演を依頼された.この時点で,MSPC分野でも世界のトップレベルで戦えるだけの力を身に付けたと言える.

プロセスデータ解析が自分自身のコア技術,つまり研究者として他と差別化できる技術であると認識したのは,博士(工学)を取得した1999年前後だろう.

研究が進むにつれて,企業との共同研究に取り組む機会も増えていった.昭和電工における製品品質推定(2004年論文発表),三菱化学におけるプロセス監視(2004年論文発表)など.産業界における現実の問題に取り組むことによって,研究室でシミュレーションをベースに研究していては気づくことができない問題を知ることができた.その経験が研究の方向性に多大な影響を与えたことは確かである.産業界のニーズを的確に捉えること,そして,そのニーズに解決策を提示することに注力するようになった.

コア技術戦略では,技術開発と商品開発の間に相乗効果が生まれるための戦略と仕組みを構築することが重要とされる.私の場合,プロセスデータ解析をコア技術と定義し,技術開発は新規手法開発に,商品開発は産業応用に相当すると考えられる.米国オハイオ州立大学での滞在から戻った2000年以降,技術開発と商品開発,つまり新規手法開発と産業応用の間の相乗効果は顕著となった.

プロダクトライフサイクルの短期化や国際競争の激化を背景に,産業界において製品品質に関わる問題が深刻化するにつれて,プロセスデータ解析のマーケット(市場)は着実に拡大している.化学工学出身である私の共同研究提携先は当初,石油化学企業が中心であったが,製品品質推定や多変量SPCの分野での研究成果が評価され,鉄鋼,半導体,製薬など提携先は広がりを見せている.その中で新しく重要な課題に出会えるようになり,例えば,製品の品質や歩留りを向上させるための研究に取り組み,住友金属工業にて劇的な歩留り改善を実現するなどの成果を得た(2006年論文発表,国際会議にてプレナリー講演).この歩留り改善には,それまでに培った製品品質推定や多変量SPCの技術が活かされている.

多変量SPCの分野では,主成分分析に代えて独立成分分析を利用する方法を提案し(2003年論文発表),異常検出性能の向上に寄与した.その後,製品品質改善のための,正確な要因解析を行うためのツールとして,全く異なる視点から,独立成分分析を活用している.技術開発(新規手法開発)における独立成分分析の利用,商品開発(産業応用)における要因解析という課題の克服,これらを両輪としてコア技術が強化されていることがわかる.

製品品質推定,あるいはソフトセンサーやバーチャルセンサーといわれる分野においても,変数間の相関関係を重視する多変量解析の発想を展開し,相関型Just-In-Timeモデリングを開発した.この開発の背景には,構築したソフトセンサーやバーチャルセンサーの推定性能が,プロセス特性の時間的な変化によって劣化してしまうという,産業界における深刻な課題を克服しなければならないという使命感があった.

課題を克服するという観点だけから判断するならば,最も短期間で,最も簡単に実現できる解決策を探せばよいということになるだろう.しかし,私は,そのようにはしてこなかった.課題克服を最優先するのは,ある意味,マーケットイン戦略である.確かに,個々の共同研究において,成果を出すことはできるかもしれない.しかし,それでコア技術が強化されるだろうか.広く浅い知識を獲得できるだろう.しかし,それによって長期にわたる優位性を確立できるとは思えない.私が採用してきたのは,あくまでも,線形モデルを中心としたプロセスデータ解析技術に拘り,それを発展させる形での課題解決,共同研究での成功を目指すという戦略である.これは,ある意味,プロダクトアウト戦略である.

以上が,「MOT[技術経営]入門」(延岡健太郎,日本経済新聞出版社,2006)を読んで,MOT,特にコア技術戦略という観点から,私なりに自分がこれまで実施してきた研究活動を振り返ったものだ.我ながら,なかなか優秀じゃないか.技術経営のセンスがあるかもね.

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