2月 032009
 

私が所属しているのは化学工学専攻という組織で,その母体となる学会は化学工学会だ.高度経済成長期における石油化学産業の発展に大きく寄与してきた学問分野である.現在は,石油化学にかつてのような求心力はなく,ナノ,バイオ,環境など様々な分野をカバーしつつ,発展している.私個人でも,石油化学はもちろん,半導体,鉄鋼,製薬など様々な産業と共同研究を実施している.

その化学工学会が,月刊の会誌を発行している.今月号(2009年2月号)の記事をちょっと紹介してみよう.

身のまわりの化学工学 煮物は冷めるときに味がしみるというのはなぜ (伊藤 章 氏)

化学工学という科目は高校以前に存在しないため,「は?何それ?」というのが一般の人々の反応だ.しかし,同一企業内であっても初任給が一律ではないアメリカでは,化学工学卒業生は最も高給取りだということをご存じだろうか.電気,機械,情報など,素人でも名前を聞けば想像できる分野の比ではない.もちろん,多くの文系学科が歯が立つはずもない.そして,その専門知識で,煮物について熱く語れるという身近さを兼ね備えている.

煮るというのは,加熱によって野菜などの細胞壁や細胞膜を破壊し,味の正体であるアミノ酸が細胞内に拡散・浸透しやすくする操作である.このとき,加熱操作はたかだか数分であるが,拡散操作には数時間かかる.このため,冷めるときに味がしみると言われるわけだ.加熱と拡散に要する時間が全く異なるのは,熱が伝わる(拡散する)速度を決めるパラメータ(熱拡散率)と物質が伝わる(拡散する)速度を決めるパラメータ(拡散係数)が2桁も違うことに起因する.パラメータが異なるだけで,加熱も拡散も,現象を表現する基礎式は同一である.これは化学工学なら最初に習う内容だ.もちろん,煮物の話を習うわけではないが.

学生会員の声 環境対策は進んでいるのか? (秋元 啓太 氏)

自動車の燃費を取り上げて,公共交通機関の利用促進,低燃費車の利用促進が大切であり,環境負荷を意識することは「自動車によって恩恵を受けている人間の義務ではないだろうか」と論じている.その上で,「ユーザー側の意識の向上も必要だ」と締めくくっている.

まあ,環境問題がクローズアップされている昨今の状況からして,これに真っ向から反論する人もいないだろう.しかし,意識すれば十分であるはずはないし,公共交通機関や低燃費車の利用促進が進めば十分であるわけでもない.どこまで掘り下げて考えることができるかというのも,人間として重要な能力の1つだろう.そういう意味で,自動車の問題について語るなら,「自動車の社会的費用」(宇沢弘文,岩波書店,1974)くらいは読んでおきたい.その上で語れるようであれば,教養のある人と見なされよう.

化学工学では,燃料電池の開発もホットな研究課題の1つである.