2月 172009
 

経営者の条件
P.F.ドラッカー,ダイヤモンド社,2006

原題は”The Effective Executive”であり,ドラッカーの著作であることから,これが「経営者の条件」と邦訳されたのだろう.だが,この邦題は誤解を招く恐れが強い.というのも,本書の対象は決して「経営者」ではないからだ.組織において意志決定を行う知識労働者すべてが対象である.

今日の組織では,自らの知識あるいは地位のゆえに組織の活動や業績に実質的な貢献をなすべき知識労働者は,すべてエグゼクティブである.知識労働者は意思決定をしなければならない.自らの貢献について責任を負わなければならない.自らが責任を負うものについては,自らの知識によってほかの誰よりも適切に意思決定をしなければならない.

本書の前提は2つある.1つは,エグゼクティブの仕事は成果をあげることだということ.もう1つは,成果をあげる能力は修得できるということ.その上で,成果をあげる能力を修得するためになすべきことが書かれている.

成果をあげるために身につけておくべき習慣的な能力は五つある.

  1. 何に自分の時間がとられているかを知ることである.残されたわずかな時間を体系的に管理することである.
  2. 外の世界に対する貢献に焦点を合わせることである.仕事ではなく成果に精力を向けることである.「期待されている成果は何か」からスタートすることである.
  3. 強みを基盤にすることである.自らの強み,上司,同僚,部下の強みの上に築くことである.それぞれの状況下における強みを中心に据えなければならない.弱みを基盤にしてはならない.すなわちできないことからスターとしてはならない.
  4. 優れた仕事が際立った成果をあげる領域に力を集中することである.優先順位を決めそれを守るよう自らを強制することである.最初に行うべきことを行うことである.二番手に回したことは全く行ってはならない.さもなければ何事もなすことはできない.
  5. 成果をあげるよう意思決定を行うことである.決定とは,つまるところ手順の問題である.そして,成果をあげる決定は,合意ではなく異なる見解に基づいて行わなければならない.もちろん数多くの決定を手早く行うことは間違いである.必要なものは,ごくわずかの基本的な意思決定である.あれこれの戦術ではなく一つの正しい戦略である.

これらの5つの能力について,詳細に解説したのが本書「経営者の条件」である.ドラッカー信奉者ならずとも,必読の書である.とにかく読めと言いたい.なお,研究室課題図書に指定している「プロフェッショナルの条件」とは重複している部分が多いことを指摘しておく.

目次

  • 成果をあげるには
  • 成果をあげる能力は修得できる
  • 汝の時間を知れ
  • どのような貢献ができるか
  • 人の強みを生かす
  • 最も重要なことに集中せよ
  • 意思決定とは何か
  • 成果をあげる意思決定とは
  • 成果をあげる能力を修得せよ
2月 172009
 

大学教育効果の実証分析―ある国立大学卒業生たちのその後
松繁寿和(編著),日本評論社,2004

ある有名国立大学(大阪大学?)の卒業生を対象としたアンケート調査に基づいて,大学教育が就業に与える影響について実証的に分析した結果をまとめたのが本書である.とにかく,教育というものは,国家の根幹をなす重大事でありながら,ろくに評価も検証もされない場当たり的な政策によって大きく歪められるという特徴を持つ.このため,本書のような試みは評価したい.しかし,この分野の研究者か学生でもなければ,本書から得られるものは,あまり多くはないのではないかと思う.幸い,「はじめに」において,約5頁を割いて本書の要約が記載されている.とりあえずは,ここを読めばよいだろう.

本書では,所属学部,学業成績,サークル活動などが,就職活動,賃金,キャリアなどに与える影響を分析している.しかし,それらは「大学教育効果」だろうか.私は,「(大学教育効果)=(卒業時の能力)−(入学時の能力)」として評価されるべきであると考えている.例えば,東京大学や京都大学を卒業した学生が優秀だということは,それらの大学での教育が奏功していることを意味しない.元々,優秀な学生が入学しているのだから,卒業時にバカでは拙いのは当然だろう.優秀な学生をさらにどれだけ成長させられたかが問われるべきだ.

目次

  • 卒業生の所得とキャリアに関する学部間比較
  • 成績・クラブ活動と就職
  • 大卒者の成績が初任給に与える効果
  • 英語力と昇進・所得
  • 文学部女子の就業
  • 公務員および教員の男女間賃金格差
  • 理系大学院卒業生の賃金
  • 若年期の蓄積とキャリアの終盤
  • 役員の学歴とキャリアにおける専門性