3月 312009
 

「非常勤職員5年でくび」に反対しストライキ

というタイトルのメールが送られてきた.差出人は,京都大学時間雇用職員組合ユニオンエクスタシーの二人.時計台前の楠の下でストライキをしているそうだ.京大の時計台や楠というと,福山雅治と柴咲コウが出演していた「ガリレオ」に毎回登場していたのでお馴染みだ.

非常勤職員を「5年でくび」にしようとする、いわゆる5年条項に反対し、これまで1ヵ月以上にわたってテントを張り、泊り込みの抗議活動を行ってきました。この間、大学に対して、団交の開催を申し入れてきましたが、当局はこれを拒み続けました。そればかりか、正当な労働争議行為であるこのテント村を、強制的に撤去するとまで予告してきているのです。

メールによると,5年条項に反対してストライキをしているとのことだ.この5年条項については,次のように書いてあった.

5年条項は、2004年の法人化に伴って創設されたルールです。今後雇う非常勤職員については、通算5年で雇い止めを行う、という規定を大学は作ったのです。1年契約、更新4回まで。2010年度はその最初の5年目にあたる職員がでる、それを予定通りくびにすると発表したのです。つまり毎年毎年、自動的に大量解雇をしていくということです。

この5年条項が大学の教育・研究現場に大きなダメージを与えることは確実だ.世間一般には認識されていないかもしれないが,大学なんて,非常勤の方々に支えられて成り立っている.研究室の運営にしても,いわゆる秘書の人達が,経理を含めたあらゆる事務作業を一手に引き受けてくれている.実際,秘書さんが休むと,研究室の事務が動かなくなる...超煩雑な事務処理をこなせるようになるのは結構大変だ.そのため,少しでも長く勤めて欲しいと願う教員は数多いに違いない.図書とかも同様.いかに多くの非常勤の方々に助けられていることか.

状況を整理しよう.非常勤職員は「5年でくびにするな」と訴えている.常勤職員も「5年でくびにするな」と願っている.さて,一体どこに利害が衝突する要素があるのか? 誰が何のためにやってるんだ? 好い加減にして欲しいものだ.まったく...

自戒: 誰のためにもならないことをするような人間にだけはならないぞ!

3月 302009
 

昔から,大学の講義はろくなものではないと言われてきた.やる気のない教授が原因だ.最近では,FD(Faculty Development,大学教員の教育能力向上)が叫ばれている.しかし今,二流教員が御祓箱(おはらいばこ)になる日が近付いてきている.

世界一流の講義を「YouTube EDU」で検索,閲覧できるからだ.

「あの先生の講義に出るくらいなら,TouTube見てた方がよくない?」

「だよね!」

ということだ.講義に出てきた学生がノートパソコンで「YouTube EDU」を見ているかもしれない.もしそうだとしたら,学生を批判する前に,自分の講義を見直そう.

YouTube、全米大学の講義ビデオを集めた「YouTube EDU」を開設

Google傘下のビデオ共有サービス「YouTube」は米国時間2009年3月26日、サイト内に全米の大学の動画コンテンツを集めたサイト「YouTube EDU」を開設した。講義の録画や学校紹介など、各大学が公式に投稿した多量の動画を閲覧/検索できるようにしている。

マサチューセッツ工科大学、イェール大学、スタンフォード大学など、全米の100以上の大学の講義チャンネルの動画を1つのサイトに集約した。大学別の動画一覧や、再生回数が多い動画、チャンネル登録が多い動画を検索できるほか、同サイト内だけを対象とする検索も可能である。

日経BP社,2009年3月30日)

えっ,「YouTube EDU」は英語だから,日本語しかできない学生には日本語のできる教員が必要だって? 確かにその通り.素晴らしいニッチ戦略だ.言葉の壁は,関税障壁なんかよりも遙かに高い.

しかし,日本国内でも二流教員はうかうかしていられない.いまや,多くの大学でオープンコースウェアとして講義が公開されている.オープンコースウェアは,元々,マサチューセッツ工科大学(MIT)が始めたものだが,確実に広がりつつある.さらに,大学によっては,講義資料の公開のみならず,講義そのものを配信しつつある.例えば,Podcastでの配信がそうだ.iPodがあれば,誰でも無料で講義を受けられる.

当然ながら,京都大学もオープンコースウェアに取り組んでいる.2008年には,Google傘下のYouTubeとコンテンツパートナーシップを結び,「YouTube 京都大学オープンコースウェア」を公開した.YouTubeとの提携は,国立大学としては日本で最初だったらしい.なかなか,やるじゃん.

えっ,いまどきの出来の悪い学生は自分でオープンコースウェアなんて見に行かないって? 確かにその通りかも.世の中のニーズは多様ってことか.まだまだ,二流教員にも活路はあるかな.

さて,今後,日本の大学教育はどのようになるのか.英語で講義をやれという圧力が強まりつつあるが,英語の下手な教員が英語の分からない学生に英語で講義をするのは大変に決まってる.自分で講義なんてしないで,代わりに「YouTube EDU」を学生に見せるなんてことになるかもね.

3月 292009
 

きょうの猫村さん 3
ほしよりこ,マガジンハウス,2008

「家政婦は見た!」の猫版.ほんわか系鉛筆漫画.コミックはほとんど見ないのだが,作者のほしよりこさんが彼女の知り合いで,「応援してあげる」と,「きょうの猫村さん 1」と「きょうの猫村さん 2」が家にある.微妙に面白い.

近所の図書館に出掛けたら,たまたま書架で見付けたので,読んでみた.

3月 282009
 

「すごいやり方」を実行してみる」と宣言し,その1つに,「いつかやろうと思ってやっていなかったことをいま,1つ選んでやってみる.」とあった.そこで,やろうと思いながら,しばらく放置していたことを実施した.

それは,国際ジャーナルの論文査読2件,国内論文誌の論文査読1件,国際会議の論文査読8件.

もう1つは,公式ウェブサイト(京都大学内の自分のウェブサイト)の完全リニューアルだ.

インターネット上での情報発信のインパクトを未だに理解していない人達が多いような気がする.やらないから,いつまで経ってもわからない.まあ,それで不都合がないのであれば,それでいいと思う.私は,自分の公式&非公式ウェブサイトが生み出す付加価値に大変満足している.もっと手を掛けたい気持ちもあるが,本業を疎かにするわけにはいかないので,バランスを取らざるをえない.

3月 242009
 

「すごいやり方」(大橋禅太郎,倉園佳三,扶桑社,2004)を読んだので,とにかく実行することにした.まず取り上げるのは,下記の「すごいやり方」.ここにメモして,自分の実行度を監視しよう.

  • 最初の会話を「いま,うまくいっていることはなに?」で始めてみる.
  • いつかやろうと思ってやっていなかったことをいま,1つ選んでやってみる.
  • されたくないことをされたら,その場で相手に「あなたがそうすると私はこう感じる」と伝える.
  • 文句を言うまえに,「提案があるんだけど」から次のセリフを始めてみる.
  • お互いにまず,紙に書いてから意見やアイデアを発表しあう.
  • 約束するときは必ず,日付と成果を付ける.
  • 熟考してアイデアを出したあとに,「くだらないアイデア」を1分間で5つ出してみる.
  • やると決めたことは,日付と望む成果を具体的に紙に書く.
  • 目標を立てたら,5分以内に紙に書いていつでも見えるところに貼っておく.

「文句を言うまえに,「提案があるんだけど」から次のセリフを始めてみる」については,即刻,実行に移した.しかも,個人的な問題ではなく,ある組織の運営を改革することを目論んでいる.

「紙に書いてから意見やアイデアを発表しあう」というのは,ファシリテーションの基本でもあり,「問題解決ファシリテーター―「ファシリテーション能力」養成講座」(堀公俊,東洋経済新報社,2003)にも登場する.発表し合うだけでなく,出てきたアイディアをまとめるには,KJ法を使うと良いそうだ.

上記の項目を実行するという目標を立てたので,早速,紙に書いて,目立つところに張り出した.

3月 232009
 

問題解決の心理学―人間の時代への発想
安西祐一郎,中央公論社,1985

人間はどのようにして問題を解決しているのか.この問いに答えようとしているのが本書である.問題解決のメカニズムがわかれば,より良く問題解決を行うための手掛かりが得られるはずである.そういう意味で,本書は重要な示唆を読者に与えてくれる.

問題解決のためには,断片的な知識を持っているだけでは不十分である.そのような知識は,自分の経験と結びついていないために,自分にとっての意味を持っていない.このため,実際に問題解決に利用することを通して知識に意味づけし,問題解決のための知識へと変化させる必要がある.

人間は経験的に知識を身につけていくことができる.問題解決者としての人間が,知識の獲得を基本的な機能として容易に用いることができるのは,私たちがいつも「何かのために」知識を獲得しようとしているからである.何かの目的を果たそうとする限り,我々はその目的に向けて問題を理解し,解き,吟味して,目的を果たすのにできる限り役立つような形で新しい知識を身につけようとする.その結果,得られる知識は先々の問題解決のために役立つ,「生きた」知識となりうる.

つまり,問題解決にとって重要なのは,目的である.

未来の行く先を自由に決められること,これが問題解決者としての私たち人間をユニークな存在にしている最大の特質なのだ.(中略)

ある目標の達成に向けて,私たちは自分の心理的能力をフルに発揮することができる.

ところが,右に言ったように,その目標自体を自分で自由に決められるとしたらどうだろう.もしそうだとしたら,私たちの問題解決能力は,信じられないくらいのひろがりを持つことになる.(中略)

しかも,新たな目標は,ある目標に向かった問題解決のプロセスの中から生まれてくる.その意味では,目標は目標を生んでゆく.これは目的とか願望とかいうことばを使っても同じことだ.つまり,「何のために」が「何のために」を生み出してゆくわけだ.

まとめて言えば,「何のために」を無限に問いながら,その問いを問い続け,また答え続けるために,多くの素晴らしい心理的能力をシステマティックに発揮してゆける−それが,問題解決者としての私たち人間なのだと言うことができよう.

本書は,このように締めくくられている.

問題解決者としての人間が持っている機能的特徴を明らかにするために,様々な心理学的実験の結果が紹介されている.それぞれが非常に興味深く,自分についての気付きを与えてくれる.

目次

  • 問題解決の時代
  • 問題解決者としての人間像
  • 記憶とイメージ
  • 思考
  • 問題を理解すること
  • 問題を解くこと
  • 行うことと吟味すること
  • 問題解決システムとしての人間とコンピュータ
  • 「何のため」の心理学に向けて
3月 222009
 

すごいやり方
大橋禅太郎,倉園佳三,扶桑社,2004

「うまく生きるためのヒント」という形容が本書にはぴったりだと思う.30分もあれば読めるような本だが,読むだけでは全く意味がない.書かれていることを実行し,しかもそれを継続しないといけない.本書では冒頭にこう書かれている.

この本を次のやり方で使う人は100人のうち0人か多くても1人だが,このやり方でやると「すごいこと」が起きる.

まあ,自己啓発の本はどれもそうだ.たくさん読むことには,ほとんど何の価値もない.100冊読むだけよりも,1冊の一部でも実行する方が価値がある.そういう観点で,私の心に突き刺さったままになっている言葉がある.

善い人間の在り方如何について論ずるのはもういい加減で切り上げて,善い人間になったらどうだ.

「自省録」,マルクス・アウレーリウス,岩波書店

「自省録」はハウツウ本ではない,というか,その対極にある感じがする本だが,読むに値する.私の中では,このレベルの本は,選別して読んでみる本の中でも,10冊に1冊もない.100冊に1冊かもしれないくらいだ.

「すごいやり方」に話を戻そう.「うまく生きるためのヒント」と書いたが,色々な種類のヒントがある.

  • 約束するときは必ず,日付と成果を付ける.
  • 目標を決めたら10分以内に,紙に書いて壁などに貼る.

これらのように,成果を出すために為すべきこととして言い古されたようなヒントもある.もちろん,言い古されていることと実行されていることとの間には何の相関関係もないだろう.

その他,対人関係を扱ったヒントや気持ちを楽にするヒントも多い.

  • 最初の会話を「いま,うまくいっていることはなに?」で始めてみる.
  • されたくないことをされたら,その場で相手に「あなたがそうすると私はこう感じる」と伝える.
  • 文句を言うまえに,「提案があるんだけど」から次のセリフを始めてみる.
  • 心の底から「もういいや」という声が聞こえてきたら,がまんするのをやめてみる.

本書で述べられている「すごいやり方」の特徴として,友人や知人にサポートしてもらうものが多いことが挙げられると思う.例えば,次のようなやり方.

  • なにかをやろうと決めたら,友人に頼んで「進み具合はどう?」と電話かメールをしてもらう.
  • 「あっ,自分は悩んでいる」と気づいたら,だれかにこの本に書いてある質問をしてもらう.

確かに,自分一人で何かをやり続けるというのは大変だし,袋小路から脱出するのも難しい.そのようなとき,自分から支援を依頼するというのは効果があるだろう.

いくつか気に入ったものを,今から実行してみよう.

本書の使い方

この本を次のやり方で使うと「すごいこと」が起きる。

  1. まず「すごいやり方」どおりに一字一句変えずにやってみる。
  2. 実際に、まず自分自身に使ってみて、うまくいったら人にもやってみる。
  3. うまくいかないときは、うまくいかない理由を探すのをいったんやめ、どうしたらうまくいくかを考える。
  4. 決して急がない。
3月 212009
 

なぜ,学会賞や研究賞の記念講演を,全部まとめて3日目に,同一会場で開催するのか.記念講演が,同じ分野の一般セッションと重複してしまっている.一般セッション参加者は記念講演を聴けないし,記念講演を聴くには通常セッションを無視しないといけない.一体,誰のための記念講演なのか.

このような状態を何年も続けて,誰も問題意識を抱かないわけ?全く信じられない.

受賞記念講演は,当該分野の一般セッションと重複させるべきではない.むしろ,一般セッションに組み込む方がよい.

それができないルールになっているなら,ルールを変えればいい.誰のためのルールなのか.それを考えれば答えは出るだろう.

3月 192009
 

3月18-20日の3日間,横浜国立大学にて化学工学会年会が開催されている.初日の先端化学産業シンポジウムにおいて,「世界経済の構造変化と日本の対応」と題して,野口教授(ノースアジア大学)の講演があった.明らかに講演慣れされており,きちっと笑いを組み込みながら,主張すべき点は強調し,上手な講演で感心した.内容も面白かったので,以下に,覚えているポイントをメモしておこう.

  • 世界経済の問題はサブプライムローンではない.サブプライムローンそのものの損失額は,たかがしれている.問題は,CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)というMITが開発した信用創造のための詐術(こうは言っておられなかったが,私は詐術だと思っている)の破綻である.CDSによる損失が連鎖的に生じると,世界のGDPを上回る損失が出て,世界経済は崩壊する.回避策は,金融機関への公的資金注入や国有化による破綻阻止しかない.
  • 日本の内需拡大を求める声があるが,実態を誤解している.2006年の輸出対GDP比を調べると,日本の14.8%に対して,米国7.9%,英国18.7%,ドイツ38.7%,中国36.6%,韓国36.7%である.日本の外需依存度は低い.世界経済が後退し,貿易が減少すると,ドイツ,中国,韓国などは大きなダメージを受けることになる.日本の比ではない.
  • 世界的に見て,日本の金融システムは頑強である.金融機関のトップはダメだが.結果的に,ゼロ金利政策をとる米国のドルをはじめ,今後輸出の落ち込みで経済が冷え込むであろうドイツなどEUのユーロ,それに新興国の通貨は対円で大幅に安くなるだろう.円は1ドル80円程度が予想される.オーバーシュートがあれば,50円台があってもおかしくはない.韓国はデフォルトに近く,前回の通貨危機と同じ状況になっている.ウォンはさらに下落するだろう.
  • 世界の金融機関を助けられるのは日本の金融機関であり,増資を引き受けるなどすることになる.しかし,金融システムは頑強だが,金融機関の経営は軟弱なので,離れを貸して母屋を取られる状態になると予想される.
  • 1980〜90年代には,日本の技術タダ乗りが欧米から非難されたが,1990年代後半から,日本の対欧米技術貿易は輸出超過に転換している.つまり,特許収支は黒字であり,日本の技術を欧米が活用している状態にある.世界シェア80%以上,さらには100%という凄い技術力を持つ企業が多くあるのが日本の強みである.ものづくり力のある,つまり実体のある日本経済は本質的に強く,この不況から最も早く回復する可能性がある.
  • 日本の英語教育は素晴らしい.文部(科学)省の英語教育政策は絶賛できる.今回ノーベル賞を受賞した日本人の多くが日本にいた.それは,英語ができないからである.もし英語ができたなら,海外に行っていた可能性が高い.つまり,人材流出・頭脳流出を阻止するために,英語が聞けるようにも話せるようにもしてこなかったのである.実に戦略的だ.加えて,インターネットが情報源となる現代においては,英語を読めることが非常に重要である.したがって,ヒアリングやスピーキングは放置し,英文法に拘り,実に些細なことを教え込んできた英語教育は正しい.
  • 今年に入ってから,マスコミの世界経済に対する論調に変化が見られる.危機を煽らなくなった.これは,危機を煽ると広告収入が減少することに,ようやく気付いたからである.
3月 172009
 

計測自動制御学会(SICE)プロセス制御専門家養成塾(SICEプロセス塾)が,3年間で100名のプロセス制御技術者を養成するという設立当初の目的を達成して,このたび終了した.プロセス制御に精通した産業界の重鎮が講師を務め,よくある1〜2日程度のセミナーとは一線を画する内容になっている.その充実した講師陣の末席に加えていただき,恐縮するばかりだ.プロセス制御分野での数十年にも及ぶ経験に裏付けられた話は説得力がある.加えて,その経歴の違いは,推奨する制御手法の違いにも現れる.講師の主張が対立することも別に珍しくない.聞く側にとっては,非常に刺激的だ.

受講生の方々には,是非,プロセス制御分野で成果をあげていただきたい.プロセス制御によって付加価値を生み出していただきたい.その実績によって,プロセス制御技術者の重要性が再認識されるだろう.そのためには,プロセス制御技術者が,さらなるスキルアップを目指して,ますます勉強する必要がある.SICEプロセス塾に参加した程度で満足していてはいけない.

絶えざるスキルアップを達成するために最も重要となるのは,自分の強みを把握することです.自分が何を得意とするのかを知り,磨きをかけていく―これこそ個人のイノベーションの要諦であり,成果を挙げ続けていくための唯一の方法です.

知識社会において成果を挙げ得る人間であり続けるためには,スキルを更新する教育を何度も何度も繰り返し受けることが必要となります.真の意味での「生涯教育」であり,つねに教育に立ち返るこの姿勢こそが,個人のイノベーションを促進してくれます.生涯にわたる継続的な学習が不可欠となった事実を受け入れ,つねに再教育を受ける心構えを持ち,それを自己責任であると認識すること―「いま何を捨て,何を選択し,自己を高めるために何を学ぶべきか」を絶えず問い続けなくてはならないこと―いま,すべての人が身をもって知るべき事実です.

「ドラッカーの遺言」(ピーター・F. ドラッカー,講談社,2006)

もちろん,誰もが忙しいのは承知の上だ.やらなければならないことは山積みで,それをこなすだけでも精一杯.その上さらに勉強など,とても,という気持ちもわかる.しかし,それを言い訳にしているうちは成果を出せないだろう.

組織で働く者の置かれている状況は,成果を上げることを要求されながら,成果を上げることが極めて困難になっている.まさに,自らが成果を上げられるよう意識して努力しない限り,周りをとりまく現実が彼らを無価値にする.彼ら自身ではコントロールできない4つの大きな現実が,仕事の成果を上げ,業績を上げることを妨げようと圧力を加えてくる.第一に,時間はすべて他人に取られる.身体の動きに対する制約を考えれば,組織の囚人と定義せざるを得ない.第二に,自ら現実の状況を変えるための行動を取らない限り,日常業務に追われ続ける.日常の仕事の流れに任せていては,いたずらに自らの知識と能力とを浪費し,達成できたはずの成果を捨てることになる.第三に,組織で働いているという現実がある.すなわち,他の者が彼の貢献を利用してくれるときにのみ,成果を上げることができるという現実である.第四に,組織の内なる世界にいるという現実がある.誰もが自らの属する組織の内部を最も身近で直接的な現実として見る.外の世界で何が起こっているかは直接的には知り得ない.しかし,組織の中に成果は存在せず,すべての成果は外の世界にある.

「プロフェッショナルの条件―いかに成果をあげ,成長するか」(ピーター・F. ドラッカー,ダイヤモンド社,2000)

そのような現実の中で,どのようにしたら成果をあげることができるのか.ドラッカーは,「経営者の条件」(P.F.ドラッカー,ダイヤモンド社,2006)において,成果をあげるために身につけておくべき習慣的な能力が五つあると言っている.

  1. 何に自分の時間がとられているかを知ること
  2. 外の世界に対する貢献に焦点を合わせること
  3. 強みを基盤にすること
  4. 優れた仕事が際立った成果をあげる領域に力を集中すること
  5. 成果をあげるよう意思決定を行うこと

実は,SICEプロセス塾の講師7名のうち5名が,日本学術振興会プロセスシステム工学第143委員会に設置されたワークショップNo.27「プロセス制御技術」のメンバーである.この産学連携組織は,およそ2年間で産業界で役立つ制御技術を成果として生み出すと宣言して活動しているが,SICEプロセス塾の講師も務めるメンバーの熱意,勉強する意欲は素晴らしいと感じる.一番若造の私が言うのは誠におこがましいのだが,本当に頭が下がる.この態度によって成果を出してこられたのだなと感じる.

チャンスは専門的知識があるから生まれるのであって,単に幸運や才能,情熱があるから生まれるのではない.

永続的な成功をものにできるのは,自分が完璧な人間であったり幸運に恵まれた人間だからではなく,自分自身の生き甲斐だと信じることに取り組む勇気を忘れないからなのだ.

「ビジョナリー・ピープル」(ジェリー・ポラス,スチュワート・エメリー,マーク・トンプソン,英治出版,2007)