3月 072009
 

広島大学で開催された計測自動制御学会の制御部門大会にて,パイオニア技術賞受賞記念講演をさせていただいた.制御分野での先駆的な理論研究を対象とするパイオニア賞に加えて,技術的な成果を対象とする賞として今年から設けられたのがパイオニア技術賞だ.本来の趣旨は,理論に偏ることなく産業応用も重視し,産業界で顕著な成果をあげた技術者を表彰することだろう.そういう観点からは,大学の人間が受賞するのは,少なくとも理想的ではなかったと思う.それでも,制御を看板に掲げる学会において,プロセスデータ解析の産業応用が評価していただけたことは大変喜ばしい.計測自動制御学会制御部門の懐の深さを感じさせる.

記念講演ということで,授賞対象となった技術成果を紹介するのみならず,研究や技術開発に対する自身のスタンスについても述べた.パイオニア賞を受賞された石川先生の記念講演が,深みのある内容だったので,その直後の講演というのは正直やりづらさがあった.以下では,技術的なこと以外に話した内容をいくつかメモしておく.

基礎研究と応用研究

学生時代および助手になりたてのころ,当時のボスから教えられたことの1つに,基礎研究と応用研究の位置づけがある.元ネタは「国立環境研究所のこれから」(市川惇信,1992)であり,そこには次のようなことが書かれている.

基礎研究とはブレークスルーを生み出す研究である.ブレークスルーの対立概念はインクリメンタルである.これを「非基礎」といおう.

応用研究とは,人類の持つ知見を人類にとって有用な知見に変換する研究である.応用の対立概念はしたがって「非応用」である.当然のことながら,応用研究の中にも基礎研究は存在し,逆も真である.

我々は第IV象限の研究を行わないこととしよう.

第IV象限の研究とは,非基礎かつ非応用な研究であり,そのような研究はするなというのが,ボスの教えだった.徹底的に役立つ研究に拘るのには,その影響があるに違いない.もちろん,それだけではなく,社会貢献するという信念が,現実の問題を解く産業応用へと自分を向かわせている.

非基礎&非応用研究には手を出さない
非基礎&非応用研究には手を出さない

シーズとニーズのマッチング,理論と現実のギャップ

近年,大学での研究成果を産業活性化に役立てようという流れの中で,シーズとニーズのマッチングということが喧伝されている.正直,学生の頃から産業界のニーズに焦点をあてた研究に取り組んできた私にとっては,マッチングはあまりに当然の前提であり,マッチングできていないのは問題だと騒ぐことに違和感がある.しかし,一般的にはそうではないようだ.例えば,制御分野では昔から「理論と現実のギャップ」が指摘され,今なお,指摘され続けている.産業界には,制御理論研究者にもっと現実の問題に目を向けて欲しいというイライラ感があるようだ.一方の制御理論研究者はどうなのだろうか.共同研究を数多く手掛けている方もいるし,一概には言えないが,やはり応用には全然興味がないという研究者もいるのだろうか.

荒っぽくいうと,制御理論研究者は「シーズあり&ニーズなし」の領域から出発する.その領域にとどまるというのも1つの態度ではあるが,凄く勿体ないように感じる.例えば今回の計測自動制御学会制御部門大会などで発表を聞いていると,産業界で役立ちそうな研究は結構ある.したがって,「シーズあり&ニーズあり」の領域に移行することも可能だろう.いわゆるプロダクトアウト戦略と呼ばれる形式に対応するが,もちろん簡単なことではない.現実の問題は理論の前提を満たしてはくれないし,様々な制約条件も加えられるだろう.それでも挑戦する価値はあるし,挑戦して欲しいと思う.もし優れた理論を論文発表すれば誰かが応用してくれると考えているとしたら,それは甘い.既存技術を置き換えるには物凄いエネルギーが必要であり,それだけの努力をしなければならない.かつて,ベータはVHSに負けた.決して,性能が劣っていたからではない.

技術戦略:ニーズとシーズのマッチング
技術戦略:ニーズとシーズのマッチング

成果をあげるための習慣

研究成果を含め,成果をあげるために何を為すべきか.このブログでも以前紹介したが,「経営者の条件」(P.F.ドラッカー,ダイヤモンド社,2006)に記載されているドラッカーの言葉を紹介した.

  1. 何に自分の時間がとられているかを知ることである.残されたわずかな時間を体系的に管理することである.
  2. 外の世界に対する貢献に焦点を合わせることである.仕事ではなく成果に精力を向けることである.「期待されている成果は何か」からスタートすることである.
  3. 強みを基盤にすることである.自らの強み,上司,同僚,部下の強みの上に築くことである.弱みを基盤にしてはならない.すなわちできないことからスタートしてはならない.
  4. 優れた仕事が際立った成果をあげる領域に力を集中することである.優先順位を決めそれを守るよう自らを強制することである.
  5. 成果をあげるよう意思決定を行うことである.必要なものは,ごくわずかの基本的な意思決定である.あれこれの戦術ではなく一つの正しい戦略である

「経営者の条件」(P.F.ドラッカー,ダイヤモンド社,2006)

このような習慣を身に付けているかと自問すると,2と4は合格レベルにあるが,その他は酷いように思う.時間の重要性については,「研究室に配属された学生へのメッセージ」など,このブログでも再三取り上げているのだが,しっかり管理するのは本当に難しい.強みについては,自分の強みは十分に生かしていると思うが,上司,同僚,部下の強みを生かせている自信はない.5についても,本当に重要なことを押さえて,正しい意志決定ができているかどうか怪しい.

有用性へのこだわり

社会貢献の御旗の下,徹底的に有用性に拘って研究に取り組んでいるわけだが,その想いを強調するために,「有用性」に関するドラッカーの言葉を紹介した.

知識ある者は理解されるよう努力する責任がある.

素人は専門家を理解するために努力すべきである,あるいは専門家は専門家と通じれば十分であるなどとすることは,野卑な傲慢である.

大学や研究所の内部においてさえ,残念ながら今日珍しくないそのような風潮は,彼ら専門家自身を無益な存在とし,彼らの知識を学識から卑しむべき衒学に貶めるものである.貢献に責任をもつためには,自らの産出物すなわち知識の有用性に強い関心をもたなければならない.

「経営者の条件」(P.F.ドラッカー,ダイヤモンド社,2006)

技述者になるな

もう1つ.研究者や技術者としての心構えについて,特に自戒の念を込めて,トヨタ生産方式の生みの親である大野氏の言葉を紹介した.以前,このブログでも「技術者か技述者か」と題して紹介した言葉だ.

英語の辞書でエンジニア「engineer」を引くと,ご承知のように「技術者」という訳がでている.この訳語の中にある「術」という字だが,この字をよく見ると,「行」の間に「求」がはいっている.「行動」が要求されているのが「術」なのではあるまいか.

(中略)

「技術」も(剣術と)同様に,行動が要求される.実際にやるに限るのである.「述」もジュツと読む.最近は「技術者」ならぬ「技述者」のほうが多いのではないか.気になることである.

「トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして」(大野耐一,ダイヤモンド社,1978)

計測自動制御学会制御部門パイオニア技術賞

第二回パイオニア技術賞は,是非とも,企業の技術者あるいはグループに取っていただきたい.

最後に,今回の受賞記念講演で使用したスライドを公開しておこう.

受賞記念講演資料 [PDF 1.1MB]

ちなみに,この文書を作成するために,睡眠時間を削りました.(講演を聴いて下さった方々には意味がわかります)

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