3月 142009
 

問題解決ファシリテーター―「ファシリテーション能力」養成講座
堀公俊,東洋経済新報社,2003

本書は,ファシリテーションの解説本であり,ハウツウ本である.ファシリテーションが目指すものが,人を動かし,組織を動かすことにあるのだとすれば,その成功のためには,単なるハウツウを身に付けるだけでなく,もっと人間の本質に迫る必要があるだろう.そうであれば,「人を動かす」(デール・カーネギー,創元社,1999)を読むことを強く勧めたい.きっと得るものがあるはずだ.なお,本書も,ファシリテーションの解説本として良くまとめられている.

組織の問題解決や合意形成を実現するためには,構成員のコミュニケーションを円滑に進め,その力をうまく引き出していかなければならない.それができる人がファシリテーターであり,その人が持つ能力がファシリテーション能力である.

あなたの周りにも,時間の無駄としか思えないような会議やまるでかみ合っていない議論は枚挙に遑がないのではないだろうか.当然,ろくな結論は出てこない.このため,今後,ファシリテーション能力を持つ人材がますます必要とされるだろう.そのような人材は少なく,付加価値が高いからだ.一方,ファシリテーション能力の乏しい人が組織を束ねるような要職に就くことはなくなるだろう.

ファシリテーターは,組織の3要素(共通目的,貢献意欲,コミュニケーション)に働きかけ,メンバーの目的意識をそろえ,その意欲を高め,円滑なコミュニケーションによって互いの知恵を統合していくことを求められる.そのために必要となるのが,チームを編成し,目標に向けての手順を設計する「プロセス・デザイン」,議論を整理し,より創造的な議論となるように手助けする「プロセス・マネジメント」,メンバーの協調的な関係を保ちながら,合意づくりを支援する「コンフリクト・マネジメント」の3つの技術である.本書は,このような考えのもと,具体的な例を挙げながら,ファシリテーターに求められる知識や能力を明らかにしている.

プロセス・デザインでは,活動全体を問題解決を生み出すシステムとしてとらえる「システム思考」と,物事を構造的に体系立ててとらえる「MECE思考」(マッキンゼーのやつ)が重要になる.まず,組織を機能させるためには,目的,アウトプット・イメージ,活動プロセスとスケジュール,役割分担,行動規範を共有しなければならない.さらに,優れた問題解決のためには,思考を発散させるステップと収束させるステップをワンセットにして,原因の発見や解決策の決定を行わなければならない.これは,「超MBA式ロジカル問題解決」(津田久資,PHP研究所,2003)において,「拡散・収束のプロセス」と呼ばれているものだ.情報収集,分析,アイディア創造などの問題解決の各ステップでは,モレなくダブりなく検討を加えることが大切になる.いわゆるMECE(mutually exclusive, collectively exhaustive;ミッシー)であるが,ここでロジックツリーが重要な役割を果たす.ロジックツリーを作成するためには,次の「ミントのピラミッド原則」を守らなければならない.

  1. 上位のトピックは下位のトピックを要約したものである.
  2. 同じ階層のトピックは常に同じ種類のものである.
  3. 同じ階層のトピックは論理的に順序づけられている.

また,情報収集や分析に際して,全体像を把握するために,既によく知られた知識体系(フレームワーク)を予め知っていると便利であると著者は指摘している.フレームワークとしては,以下の4つが挙げられている.

  • 4P:製品(product),価格(price),流通(place),販促(promotion)
  • 3C:自社(company),顧客(customer),競合(competitor)
  • SWOT:内部要因である強み(strength)と弱み(weakness),外部要因である機会(opportunity)と脅威(threat)
  • QCD:品質(quality),コスト(cost),納期(delivery)

「超MBA式ロジカル問題解決」(津田久資,PHP研究所,2003)では,ツリーやフレームワークはチェックリストであり,それら自身に価値があるわけではなく,凡ミスをなくすための道具として活用すべきということだと強調されている.

プロセス・マネジメントでは,メッセージの意味を理解するための「ロジカル・コミュニケーション」と,メッセージを議論の中に位置付けるための「議論の構造化」が必要になる.ロジカル・コミュニケーションの基本は,以下の5ステップである.

  1. 事実を共有化させる
  2. 根拠の乱れを正す
  3. 意見を明確にさせる
  4. 論理で伝えきれない知識(暗黙知)を伝え合う
  5. 復唱を使って主張の内容を確認する

発言の本質を見極めるためには,重要な部分を抜き出す,オープン・クエスチョン,クローズド・クエスチョン,要約して確認をとる,言語以外の情報を手掛かりにする,という5つの方法が有効とされる.さらに,意見の関係を明らかにするには,ツリー型の論点チャートやマトリクス型の論点チャートが有効である.また,論点の優先順位を決める際には,一度に一つのことしか議論しないこと,目的達成までのプロセスをイメージして論点を並べること,論点の優先順位を固定して考えないことに注意する必要がある.

コンフリクト・マネジメントでは,コンテクストの共有化とウィン・ウィン・アプローチが成功への鍵となる.著者は,かみ合わない議論の大半は,そもそも違う土俵で議論しているからであり,土俵の違いを明らかにし,同じ土俵となるように論点を修正してやれば,議論は正しく回り出すと指摘した上で,「的外れ」,「レベルずれ」,「根元ずれ」,「軸ずれ」の4種の土俵の違いに対して,それぞれ対応策を提示している.まず,的外れに対しては,無視したり皮肉っぽい質問をしたりするのではなく,ひとまず有り難く受け止めた後に,後で議論することを約束する.レベルずれに対しては,ひとまず議論の構造を明らかにした上で,どちらのレベルで議論するかを決める.根元ずれに対しては,幹となる論点を議論してから,太い枝から一本ずつ片付けていく.最後に,軸ずれに対しては,マトリクス型で考える.ビジネス活動で特に重要なのは,目的(purpose),視点(perspective),立場(position)の違いによるコンフリクトである.本書では,これをコンテクストの3つのPと呼んでいる.目的のコンフリクトに対しては,より高い目的から見る.視点のコンフリクトに対しては,より広い視点から見る.立場のコンフリクトに対しては,第三者の立場から見る.これによってコンフリクトが解消されうる.

さらに本書では,ファシリテーターが身に付けるべきものとして,アクティブ・リスニングを挙げている.アクティブ・リスニングとは,話し手を一人の人間として認め,話を理解しようと熱心に聞き,相手の意志を尊重する態度である.これにより,相手の存在を肯定すると同時に尊敬を与え,互いの信頼感が醸成されていく.アクティブ・リスニングの重要性は,「人を動かす」(デール・カーネギー,創元社,1999)でも強く指摘されている.

応用編として,本書では,ファシリテーションを支援するツールとして,ワークショップとファシリテーション・グラフィックについて解説している.ファシリテーション・グラフィックとは,議論の内容を言葉や図形を使って分かりやすく記述していく「議論を描く」技術である.普段の会議でも,図などを利用して,議論をうまくまとめられる人がいるだろう.そのような人がファシリテーターである.

目次

第1章 知識編:問題解決とファシリテーションの技術

  • 高度な問題解決を支援する
  • 組織のパワーを最大限に発揮させる

第2章 技術編:ファシリテーションを構成するスキル

  • チームの力を問題解決に結集させる―プロセス・デザイン
  • コミュニケーションを組み立てる―プロセス・マネジメント
  • 対立を解消して創造性を引き出す―コンフリクト・マネジメント

第3章 応用編:ファシリテーションを支援するツール

  • 創造的な問題解決と学習を生み出す―ワークショップ
  • 議論をビジュアルに整理する―ファシリテーション・グラフィック

第4章 実践編:ファシリテーションの現場から学ぶ

  • V字回復に向けての企業変革プロジェクト―問題解決型のケーススタディ
  • 市民参加のまちのビジョンづくり―合意形成型のケーススタディ
  • 組織改革のためのオフサイト研修―教育研修型のケーススタディ