5月 192009
 

大学・中庸
金谷治(翻訳),岩波書店,2003

本書のタイトル「大学・中庸」とは,儒教の経典として知られる四書五経のうちの2つである.四書とは,「大学」,「論語」,「孟子」,「中庸」の4つの書物を指し,五経とは,「易経」,「書経」,「詩経」,「礼記」,「春秋」を指す.四書において,「論語」は孔子と弟子たちの言行録として,「孟子」は孟子とその弟子たちの言行録として,それぞれ単独の書物であったのに対して,「大学」と「中庸」は元々は「礼記」におさめられていた2篇にすぎない.それを朱熹(朱子学の創始者)が儒学の経典として取り上げ,独自の解釈を加えて,「論語」,「孟子」とあわせて四書とした.オリジナルの「大学」と「中庸」の作者は不詳であるらしい.

一般に,新儒教の朱子学が正当とされた日本では,朱熹の手によるオリジナルではない「大学」と「中庸」が広く読まれてきた.本書は,「礼記」におさめられていたオリジナルの「大学」と「中庸」の翻訳・解説本であり,朱熹の注釈との相違が細かに示されている.

大学

四書の最初に読むべき,儒学の入門書と位置付けられている.その内容は,修身(わが身を修めること)の重要性を説くことに尽きる.修身・斉家・治国・平天下がキーワードであり,天下を平らかにするためには,国を治める必要があり,そのためには,家を斉(ととの)える必要があり,そのためには,身を修める必要があるとする.このため,何よりもまず,己の身を修めなさいというのがその教えだ.徳を身につけ,善を好むように務めなさいということだ.

では,修身のためには何が必要かというと,心を正す,意を誠にする,知を致す,物に格(いた)る,以上4つである.修身・斉家・治国・平天下に,これら正心・誠意・致知・格物を加えて八条目といわれる.

これだけだと,大学と関係がなさそうなのであるが,「大学」は,「大学の道は,明徳を明らかにするに在り,民を親しましむるに在り,至善に止まるに在り」で始まる.これら「明徳を明らかにする」,「民を親しましむる」,「至善に止まる」が大学教育の目標とされ,三綱領といわれる.

「大学」第一章より抜粋

大学の道は,明徳を明らかにするに在り,民を親しましむるに在り,至善に止まるに在り.

(訳)大学で学問の総しあげとして学ぶべきことは,輝かしい徳を身につけてそれを輝かせることであり,民衆が親しみ睦みあうようにすることであり,こうしていつも最高善の境地にふみ止まることである.

物格(至:いた)りて后(のち)知至(きわ)まる.知至まりて后意誠(まこと)なり.意誠にして后心正し.心正しくして后身脩(修:おさ)まる.身脩まりて后家斉(ととの)う.家斉いて后国治まる.国治まりて后天下平らかなり.

(訳)ものごと(の善悪)が確かめられてこそ,はじめて知能(道徳的判断)がおしきわめられる.知能がおしきわめられてこそ,はじめて意念が誠実になる.意念が誠実になってこそ,はじめて心が正しくなる.心が正しくなってこそ,はじめて一身がよく修まる.一身がよく修まってこそ,はじめて家が和合する.家が和合してこそ,はじめて国がよく治まる.国よく治まってこそ,はじめて世界じゅうが平安になる.

天子より以て庶人に至るまで,壱に是皆身を脩むるを以て本と為す.(中略)此れを本を知ると謂い,此れを知の至まりと謂うなり.

(訳)天子から庶民に至るまで,同じようにみなわが身をよく修めることを根本とする.(中略)このようにするのを,真に根本をわきまえたものといい,このようにあることを,知識のきわみというのである.

中庸

本書の解説にも書かれているが,確かに,中庸を説く前半と,誠を説く後半では全くの別物という印象を受ける.前半は「子曰く」の形式で,孔子と弟子たちとの言行録になっている.一方,後半は前半とは異なる調子で「誠」の重要性を強調しまくっている.

どちらも短い文章で,如何に生きるべきかを教えているのであるが,個人的には「大学」の方がしっくりくる.四書において,「大学」は最初に読むべき入門書,「中庸」はさらに「論語」と「孟子」の後に,つまり最後に読むべき書物とされていることから,私は入門者レベルということか.納得.

目次

  • 「大学」解説
  • 大学(旧本)本文
  • 大学章句(朱熹)序・本文
  • 「中庸」解説
  • 中庸本文
  • 中庸章句(朱熹)序

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