5月 232009
 

吉田松陰一日一言―魂を鼓舞する感奮語録
川口雅昭(編),致知出版社,2006

タイトルの通り,吉田松陰の言葉を366個選び,その訳とともに記した書物である.もちろん,吉田松陰は多くの素晴らしい言葉を残しており,本書を読めば心に響くものがある.しかし,いくつか注文をつけたい.私が満足できなかった点だ.

第一に,大変な読書家であった吉田松陰の言葉には,四書五経など古典からの引用が多い.吉田松陰自身が誰の言葉かを明示しているものもあるが,そうでないものも少なくない.折角,吉田松陰研究に長年取り組んできた著者が著したのであるなら,浅学な読者のために,吉田松陰の言葉の出所をできる限り示して欲しい.昔の賢人の言葉なのか,松陰自身の言葉なのか.それを知りたい.

第二に,1月1日から12月31日に至るまで,どのような方針で言葉が並べられたのかを説明して欲しい.何の脈絡もないのか,それとも何らかの意図があるのか.書かれた順になっているわけでも,書物や手紙ごとにまとめられているわけでもない.なぜ,この並びになったのか.それを知りたい.

第三に,吉田松陰の略歴を巻頭で示して欲しい.本書でも,あとがきのさらに後に,1頁に満たない略歴が記載されている.もちろん,吉田松陰に詳しい人にはこれすら不要だろう.しかし,そうでない人には不十分であり,いかにも中途半端に思える.彼の激動の人生の中で,それぞれの言葉が書かれたのがいつなのかを知ることによって,その言葉を発した吉田松陰の心境に迫ることができるはずだ.読者にとっては有益なことだろう.

上記3点が改善されれば,少なくとも私にとっては,本書の価値は何倍にもなる.

本書は良い本だとは思うのだけれども,やはり,この種の名言を集めた本を読むだけでは不十分だとの思いが絶えない.その言葉が書かれた文脈があるはずであり,それを理解せずして,本当に言葉の真意を理解できるのか.そこに疑問が残る.まあ,このような手軽な本を最初に手にして,そこから原典にあたるのなら,それもよいだろう.

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