5月 302009
 

研究・技術・自分のマネジメント

既に何度か紹介しているとおり,化学工学特論第一という大学院生向けの講義を担当している.テーマは「研究・技術・自分のマネジメント」だ.

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)

今週木曜日(5/28)の講義では,プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM: Product Portfolio Management)を取り上げた.元々,ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)で開発された,経営戦略の立案を支援する手法だ.具体的には,自社の事業や製品を,「自社の強さ」(市場シェア)と「市場の魅力度」(市場成長率)を軸にした2次元平面上にプロットし,その位置によって,各事業や製品への経営資源配分を決める.強さと魅力度が高いか低いかによって,2次元平面を4つの領域に分割するのがPPMの特徴だ.

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM: Product Portfolio Management)
プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント
(PPM: Product Portfolio Management)

どちらも低い領域は「負け犬(Dog)」と呼ばれ,当該事業の撤退か縮小を検討する.経営資源を配分するメリットがないからだ.市場の魅力度は高いが自社に強みがない領域では,努力して強みを身に付けていかなければならない.「問題児(Problem Child)」ではあるが,この事業を育てられるかどうかに自社の将来がかかっている.

市場の魅力度が高く,かつ自社が強い領域にある事業はまさに「花形(Star)」であり,経営資源を投資し,魅力的な市場でシェアを確保する戦略を採用する.自社の強みを保ったまま,市場の魅力度が低くなってくると,そこは「金のなる木(Cash Cow)」となる.成長は望めないが,それなりの利益を出せる事業がここに該当する.

事業や製品のライフサイクルという観点からは,次のように解釈できる.まず,魅力的な市場への進出を決意し,製品を投入する段階では「問題児(Problem Child)」であるが,投資を継続し,コストリーダーシップ戦略や差別化戦略によって自社の強さを高めることができれば,「花形(Star)」へと進化させられる.その後,うまく「金のなる木(Cash Cow)」へと変化させることができれば,投資を抑えて,キャッシュフローを生み出すことができるようになる.

そのキャッシュフローという観点からは,「金のなる木(Cash Cow)」が生み出すキャッシュを,「問題児(Problem Child)」と「花形(Star)」の事業に投資し,事業の育成を図ることになる.ただし,「問題児(Problem Child)」すべてが投資対象になるわけではない.厳しい選択眼が要求される.

講義では,家具メーカーや情報機器メーカーのケース演習を実施した.

PPMで自分の研究を分析する

「研究・技術・自分のマネジメント」の受講生は工学研究科の大学院生なので,MBAでやっているようなケース演習だけで終わらせはしない.プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM: Product Portfolio Management)というツールを,今の自分に活用することを考える.私が紹介したのは,自分の研究室が手掛けている研究テーマを分析するというものだ.

大学の研究室も企業と同じで,どこからか研究費を調達する必要がある.当然ながら,製品を販売しての利益というのはないため,国や企業や学協会などから研究費を調達することになる.もちろん,研究費は有限であり,貴重な経営資源だ.その他にも,既存の実験装置,分析装置,計算機システム,ソフトウェア,これまでの研究成果など,有形無形の経営資源がある.さらに,決して忘れてはならない経営資源が,スタッフと学生の人的資源だ.優秀なメンバーの数が多ければ,それだけ研究成果を出せるだろう.

大学の研究室を対象に,研究テーマをPPMで分析しようとすれば,例えば,次のような図を描くことになるだろう.

大学研究室のプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)
大学研究室のプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)

国の重点研究領域に指定され,研究費がスカイロケットのように増額されている研究分野は,魅力度が高いと言えるだろう.アメリカでは,クリントン政権がナノ・バイオ・ITの3つを重点領域に指定した結果,研究者はその3分野に殺到した.一方,研究室の強さは,研究者なら肌で感じているだろう.自分が世界一流かどうかは自分で判断できるはずだ.客観的に判断しようとするなら,論文数や特許数で評価せざるをえないだろう.

研究の評価は非常に難しいが,ともかく,自分が所属する研究室が現在取り組んでいる研究テーマについて,そのすべてをPPMマトリクスにプロットしてみる.さて,自分の研究テーマはどこに位置しているか.

まずは,学生の立場で考えてみよう.「花形(Star)」のあなた,おめでとう.魅力的な研究分野で優れた業績を出せる可能性が高い.「問題児(Problem Child)」のあなた,いくら研究分野が盛り上がっていても,競争が激しいので,ボーッとしてると何も成果が出せなくなる.頑張って,「花形(Star)」を目指そう.研究室の将来は君の研究成果にかかっている.「金のなる木(Cash Cow)」のあなた,競合相手が少ないので,比較的楽をして研究成果が出せるだろう.しかし,研究者として生きていきたいなら,ぬるま湯に浸かっていてはダメだ.新しい研究テーマにチャレンジしてみよう.そして最後に,「負け犬(Dog)」のあなた.なぜ,その研究テーマを選んだんだ?

次に,スタッフの立場で考えてみよう.研究室全体の戦略をどのように決定したら良いだろうか.撤退すべきテーマにいつまでもしがみついていないだろうか.集中すべきテーマを絞りきれず,好機を逸していないだろうか.基本的に,経験と勘だけを頼りに意志決定している教授や准教授が多いのではないだろうか.果たして,それでいいのかな?

学生が研究室の研究をPPM分析する意義

自分の研究室の研究を分析し,どのような戦略(テーマの取捨選択)をすべきか検討するようにと言うと,「そんなこと無理」と感じる学生もいるのではないだろうか.確かに,無理な理由はいくつでも挙げることができる.情報がないとか,知らないとか...しかし,「できない理由を挙げる奴は成功しない」というのが世の鉄則だ.できない理由を探す暇があるなら,とにかく,やってみるべきだ.この程度でできないという学生は,企業に就職しても,同じ理由を挙げて,できない言い訳をするのだろう.運良く就職できたとしても,優れた仕事ができるようになるとは思えない.