6月 082009
 

学歴としては最高位になる博士後期課程を修了した学生の就職はどのようになっているのか.たまたま,京都大学キャリアサポートセンターの資料を手にする機会があったので,ちょっとメモしておく.

平成19年度より,博士後期課程学生およびポストドクター(ポスドク)のキャリア支援を目的として,京都大学若手研究者キャリアパス多様化促進計画が実施されている.そこでの調査結果によると,35歳以上のポスドクは275/1183人で全体の約23%になる.ポスドクは,一般に一年契約の不安定な就業形態であるから,そのほとんどは大学などの研究機関での正規雇用を目指していると思われる.22歳で学部卒業,24歳で修士課程(博士前期課程)修了,そして27歳で博士後期課程を修了し,博士の学位を取得した後,大学や企業で正規雇用される者もいれば,ポスドクになる者もいる.ポスドクになること自体は全く問題ではない.博士になった時点ではまだ研究者として卵からかえった状態なので,もう少し力がつくまでポスドクという立場でいるのは国際的には普通だ.そして,自分を売り込み,Assistant Professor(助教授)などになる.その後,さらにテニュア(終身在職権)の獲得を目指して,教育と研究で成果をあげる必要があるわけだが,ともかく,ポスドクから正規雇用へというキャリアパスは一般的である.それでも,30代後半になってもポスドクという不安定な身分にあるのは,精神的にも大変ではないだろうか.

マックス・ウェーバーもその著書「職業としての学問」で述べているとおり,大学でポストに就けるかどうかは,僥倖に恵まれるかどうか(つまり運)に依存し,能力的に優れているかどうかは全く関係ないとは言わないまでも,能力が十分条件でないのは確かだ.だから,ずっとポスドクでいる人が研究能力的に劣るということはない.それでも,産業界で中高年の転職が困難を極めるのと同様,大学でもポスドクが正規職に就くには若いうちが良いだろう.

一方,2007年度において,京都大学博士後期課程終了者の就職率は74.3%となっている.就職以外の項目を見ると,進学や帰国などの理由の他に,割合は少ないものの,研修員,聴講生,無職など,おいおい大丈夫かというものが並んでいる.就職先については,大学や公的研究機関が圧倒的多数であり,民間企業への就職は多くない.これがキャリア支援が必要な実態を表している.

興味深いのは,カウンセリング相談者集計という資料だ.2007年8月から2009年3月までの分野別相談者数をまとめた資料だが,全体の52%が生物・バイオ系,21%がその他の理系,27%が人文系となっており,生物・バイオ系学生の相談数が顕著に多い.近年,バイオ関連研究には多額の予算がつくため,日本のみならず多くの国でバイオ関連研究に取り組む研究者が増加しており,流行の研究分野ということで多くの学生が興味を持つのだろうが,就職という観点からは,かなり見込みが甘いと言えるだろう.産業界にそれだけの人的ニーズがない.必要なのは,ほんの一握りの優秀な研究者だけだろう.人員余剰の現状がカウンセリング相談者数に現れているものと受け止められる.資料には書かれていないが,敢えて生物・バイオ系がその他の理系と分離して記載されているのは,そうした背景があることを意識してのことだろう.

ちなみに,京都大学学生の進路・就職状況は「進路・就職状況−京都大学」にまとめられている.進路の区分など,大雑把すぎて,あまり役に立ちそうにない資料だが...

  3 Responses to “博士後期課程を修了した学生の進路と就職先”

  1. ポスドクの実態は多くの国で問題になっているようですけど、とくに研究者、技術者を大切にしない日本では目を覆うばかりだと思います。

    大学でアカデミックなテニュアを獲得できる人はほんの人握りで、企業や公的研究機関でも非常に狭き門であるのが現実です。たとえば、化学系で最も研究者を必要としている製薬業界の大手でもドクターの採用は数人程度です。一般のメーカーでは求人はほとんどなくて、博士後期課程卒という履歴だけで門前払いなのが現実です。

    大学の非常勤講師や公的研究機関の非常勤でも凄まじい競争率で、しかも待遇は悲惨です。お金の話はあまりやりたくありませんけど、たとえばずいぶん前になりますけど早稲田大学の非常勤講師の時給は2,500円で、講義のための準備は勤務時間に含ませませんでした。公的研究所の非常勤の時給は現在1500円ぐらいです。

    ちょっと前に、私の家の近くにコスモスというドラッグストア(実際はコンビニ)の薬剤師の求人広告が新聞に載っていましたが、時給3,200円でしたし、非常勤医師の時給はその数倍です。

    博士後期課程卒で人気があるのが受験予備校という非常に反社会的な機関です。うまくいけば時給2万円以上稼げますが、ここもすごい競争率で、仮に採用されても一年でお払い箱になる人がたくさんいます。

    こういうわけで、多くの理系博士後期課程卒の人たちはプーちゃんになっているようです。高校や予備校の優秀な理系志望の生徒たちは、医学部や薬学部を希望して、理学部や工学部にあまり行きたがりません。医者や薬剤地には理系のセンスよりも、もっと別の面が大切だと思うのですけど・・・

    こういう状態が続くようでは日本はお先真っ暗ですね。国土も狭く資源もほとんどなくてエネルギー自給率がたった4%しかない日本は技術力で未来を切り開いていかねばならないのに。

    日本社会はもっともっと研究者、技術者を大切にすべきだと思いますね。

  2. 非常勤で飯を食おうとすると辛いですね.所詮は非正規雇用ですから.

    ほんと,日本は研究者や技術者が大切にされない国だと思います.
    それ以前に,教育をないがしろにする国でもあります.
    それで科学技術立国だと言われましても...
    そりゃ,欧米のみならず,シンガポールなどに研究者を奪われるわけです.

    今はバラマキ政策でオーバードクター(ポスドク)問題を隠しているようですが,根本的な問題の解決にはなりません.大学での人材育成方法も,企業での人材採用方法も,変えていく必要がありますね.

    エネルギーにしてもそうですが,日本は政策がなんともお粗末かと.

  3. 文科省の天下り教授,教育委員会事務局幹部(教育部長,局長,教育庁)天下り教授は,研究実績なんて皆無の人が多いし,多く受け入れたからといって,補助金が著しく増えたとか,学生の教員採用が増えたなんてもとも感じない。

    そういえば,文科省は,助教は任期制が当たり前で,任期制にすることで在任中に成果をたくさん出すようなる,成果を出せば次につながるといっているが,若い研究者に対する意地の悪い嫌がらせにしか見えない。
    そういう案を出しているのが,文科省の審議会で幅をきかせている大学教授連中なんだよね。

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