7月 042009
 

京都大学工学部工業化学科化学プロセス工学コース4回生対象のプロジェクト科目「プロセス設計」の発表会が7月3日に開催された.このプロセス設計では,4回生が2〜3名でグループを構成し,グループごとに化学プロセスなどの設計を行う.いわば,化学工学に関連する学部教育の集大成となる重要な科目だ.シラバスの学習目標には,「化学工学および関連分野の知識を総合的に活用し,プロセスの基本的な設計計算をできるようになること」と書かれている.

具体的には,ある化学物質を年間10万トン製造するなどの目標を掲げ,その製造に必要となる反応器,蒸留塔,熱交換機などを設計する.その際,エネルギー消費量の抑制と装置コストの抑制という相反する要求に折り合いを付け,各主要装置の設計条件や操作条件を最適化する.設計結果は報告書としてまとめるとともに,全教員が出席する発表会において,その概要を発表する.

さて,その発表会であるが,各グループの持ち時間は質疑応答を含めて20分で,朝9時過ぎから夕方5時前までかけて行われる.学部生にとっては,スライドを使用しての本格的な発表は,このプロセス設計が最初の経験となる.そのためもあって,発表直前までスライドを修正したり,発表練習をしたり,あるいは,設計結果に関する再検討を行ったりということになる.

ここで問題となるのは,自分たちのグループの出番まで,研究室で自分たちの発表のことばかりを考え,自分たちの発表が終わると,その開放感と達成感から研究室に戻って喜びを噛みしめるという習慣だ.つまり,他のグループの発表を聞かないのが伝統となってしまっていることだ.

これまで,なぜか,この習慣が放置されてきた.発表会には教員だけでなく学生も全員参加するのが当然だと思うのだが,そう思うのは私だけなのだろうか.ずっと放置されてきたことを考えると,不思議なことだが,そうなのだろう.

初めて本格的な発表を経験する学生たちにとって,自分が発表することの重要さは言うまでもないが,他の学生の発表を聞くことも同程度に重要であると考える.それは,他グループの発表を聞くことによって,プロセス設計の内容そのもの,スライドの作り方や話し方を含めたプレゼンテーションの仕方,そして質疑応答での態度や答え方について,自分たちの発表を省みることができるようになるからだ.これをしないと,いくら良い経験だと言ってみたところで,所詮は「やりっぱなし」でしかなく,実力の向上は大して期待できない.他人の発表を聞くことで,自分の発表の良いところや悪いところに気付くことができて,それが次のステップに繋がる.まさに,人のふり見て我がふり直せ,である.

このような想いから,学生にプロセス設計発表会に出席してもらう方法を考えた.もちろん,出席しても居眠りしていたのでは意味が無く,他グループの発表を聞いて,その良い点と悪い点を意識してもらうことが必要になる.そこで,学生一人一人に,全てのグループの発表を評価してもらうことにした.具体的には,プロセス設計の内容,発表,質疑応答の3項目について4段階評価してもらうとともに,一言コメントを書いてもらうことにした.そして,その結果をプロセス設計発表会終了後にフィードバックすることにした.この方法であれば,単に学生にプロセス設計発表会への出席を促すだけでなく,学生自身のレベルアップにも繋がると期待できる.

ところが,大学というところは,准教授なんて下っ端に決定権は何もない.上述のように,学生に相互評価をしてもらうことについても,教授会で了承していただく必要がある.そこで問題になったのが,「学生が評価する」という点だ.評価は教員がすることであり,学生がすることではないということなのだろう.それでも,今回の試みは最終的な成績には何も関係ないことを明確にすることで,学生による相互評価は認められた.

7月3日に開催されたプロセス設計発表会で,学生による相互評価を実施した.昨年度までは自分たちの発表だけすれば良かったのに,今年から発表会にずっと出席することを義務づけられ,面食らった学生も多かったことと思う.それでも,他グループの発表を評価することで,どのような発表が良く,どのような発表が悪いのかを実感できたはずだ.きっと卒論発表にも繋がるだろう.

実は,今回の作戦は,プロセス設計発表会に限らない,もっと深い問題意識に端を発している.それは,自分の発表だけすれば他はどうでもよいという態度を教員が黙認しているということは,プロセス設計発表会のみならず,例えば学会においても,自分の発表さえやれば後は観光に行こうが何をしていようが構わないと学生に教えているようなものだという点だ.実際,学会終了後に研究室の学生から,「○○研究室の学生はずっと観光してましたよ」などという話を聞いたりする.他の研究室のことにまで口を挟む気は毛頭無いが,そこには教育に対するスタンスが現れていると思う.そして,それは私が期待するようなものではない.京大生が一流の研究者や技術者を目指さなくてどうするのか,と思うとき,為すべきことを為すという自覚を持ってもらえるようにしていく必要はあると思う.その1つが今回のプロセス設計発表会での相互評価だ.

惰性に任せない.思考停止に陥らない.今後もそういうスタンスで教育に臨みたい.