7月 162009
 

国際会議ADCHEMへの招待」に書いたように,今回イスタンブールで開催されたIFAC ADCHEM 2009では,Plenary Lectureを依頼されていたので,気合いを入れてやってきた.

ここでは,会議の概要,講演の内容,そしてプレゼンの秘訣を紹介しよう.

ADCHEM 2009の概要

ADCHEM 2009のstatisticsを簡単にまとめておくと,参加者191人,投稿論文215件,採択率78%となっている.プログラム構成は,Plenary 3件,Keynote 12件,Oral 98件,Poster 62件である.国別に見ると,ブラジルからの投稿論文がアメリカに次いで多く,大躍進の感がある.アジアからの投稿は比較的少ないという印象を受けた.日本からの参加者は京都大学PSE研の4名を含めて,合計6名だった.

Plenary 3件の概要は下記の通り.

  • Mario Campos, Petrobras, Brazil, “Challenges and Problems with Advanced Control and Optimization Technologies”
  • Stephen P. Boyd, Stanford University, USA, “Real-time Embedded Convex Optimization”
  • Manabu Kano, Kyoto University, Japan, “The State of the Art in Advanced Chemical Process Control in Japan”

12件のKeynoteについては,実時間最適化(Real-Time Oprimization)とモデル予測制御(Model Predictive Control)に関連する講演が多かったように思う.

ADCHEMの会期は実質3日間であるが,3日間を通して,セッション構成は統一されていた.朝一番にプレナリー・セッションがあり,コーヒー・ブレイクの後にパラレルでキーノート,そして口頭発表セッション.ここまでが午前中のプログラムで,昼食後,再びパラレルでキーノート,口頭発表セッション,最後にポスターセッションがあり,その後,ディナーという具合だ.非常に良くできたプログラムで,IFAC TC 6.1 CPCのBoard Meetingでは,次回以降もこの構成でいくべきだとの意見が出ていた.なお,講演時間は質疑応答を含めて,プレナリーが1時間,キーノートが30分,一般発表が20分だ.

ADCHEM 2009でのプレナリー講演

私の講演は最終日の朝一番だった.前日にバンケットがあり,日付が変わるまでボスポラス海峡でのディナー・クルーズを大いに楽しんだので,みんな朝早くから講演を聞きに来るのかと若干不安ではあったが,それは杞憂だった.確かに,定刻には人影がまばらだったが,セッションが5分ほど遅れて始まったときには,会場には多くの参加者が来ていた.基本的に,みんな真面目だ.

今回の講演については,日本の産業界における化学プロセス制御の現状を紹介して欲しいというのがIPCからの要請であったので,今年実施したプロセス制御に関するアンケート調査結果を交えながら,昨今の生産革新や2007年問題も含めて,自分なりに思うところを述べた.個人的には,ここで自分が日本のプロセス制御コミュニティのプレゼンスを高めておかなければ,もはや完全に世界から見捨てられてしまうという覚悟で,精一杯のアピールを試みた.特に,産学連携活動の成功事例として,日本学術振興会プロセスシステム工学第143委員会ワークショップNo.25「制御性能監視」およびワークショップNo.27「プロセス制御技術」をこれでもかというほど宣伝した.その甲斐あって,プロセス制御分野における日本の産学連携は凄いぞという印象を持ってもらえたようだ.ドイツを含めて,いくつかの国の研究者や技術者からそういうコメントをもらった.

プロセス制御に関するアンケート調査結果

今回話した内容の中では,特に,プロセス制御に関するアンケート調査結果に強い関心を持ってもらえたようだ.講演終了後,アンケート調査結果のデータが欲しいというリクエストを多数受けた.また,日本と比較して自分の国あるいは自分の会社はこうだというコメントもたくさんもらった.基本的には,似たような状況にある(問題を抱えている)というコメントが多かった.産業界の協力を得て実施したアンケート調査結果として,定量的に現状を把握し伝えると,そのインパクトは非常に大きい.苦労してアンケート調査を実施した甲斐があったと本当に思える.ここで改めて,アンケート調査にご協力いただいた方々に深く感謝したい.ありがとうございました.皆さんの協力は国際会議の場で日本のプロセス制御コミュニティをアピールするのに確実に役立ちました.

国際会議で発表された論文は,通常,さらに選抜されて,学術雑誌に掲載される.ADCHEMも例外ではなく,選抜された論文はJounal of Process ControlやControl Engineering Practiceに掲載される.講演終了後,IFAC TC 6.1 CPCのChairであるProf. Frank Doyleから,アンケート調査結果を含めた論文をJounal of Process Controlに掲載したいと言ってもらった.また,IFAC TC 6.1 CPCのCo-chairを努めるようにとの依頼も受けた.

産産学学連携の重要性

先に述べたとおり,日本学術振興会プロセスシステム工学第143委員会ワークショップNo.25「制御性能監視」およびワークショップNo.27「プロセス制御技術」での産学連携活動を紹介し,産学連携および産産連携の重要性を強く主張しておいた.それができているところに,我々のコミュニティの強みがあると思うからだ.

ついでに,計測自動制御学会制御部門パイオニア技術賞の受賞記念講演でも述べた研究の分類について,産産学学連携と絡めて,自分の信ずるところを述べた.研究には基礎研究と非基礎研究,応用研究と非応用研究があり,非基礎かつ非応用は避けたいよねという話だ.しかも,それを実践するために,連携が極めて有効であるという論理だ.このようなことは招待講演でもなければ話せないので.いや,招待講演でも普通の人は話さないと思うが...まあ,私は普通ではないので.

講演準備

今回はプレナリー講演ということもあって,学会の一週間前には講演スライドを完成させて,万全の態勢でイスタンブールに乗り込もうと思っていた.しかし現実には,いつも通り,イスタンブールに向かう飛行機に乗っても,まだスライドができていないという状況だ.出国前日には,東京で別の招待講演を引き受けていた.

ようやく約60枚の講演用スライド(案)ができたのが,パリのシャルル・ド・ゴール空港のエールフランス・ラウンジでだ.その後,スライドと原稿を推敲しながら,ようやく内容が固まったのが学会前日の夜(ウェルカムレセプションの後).講演まで56時間.しかし,この段階では,まだ原稿が頭に入っておらず,発表に90分ほどかかっていた.持ち時間は60分なので,全く話にならない.ここからが勝負だ.深夜まで練習し,早朝にも練習する.やるべきことは練習以外に何もない.

学会初日.オープニングセレモニーの後,最初のプレナリー講演があった.ブラジルの石油会社Petrobrasからの発表だ.講演タイトルの通り,高度制御の現状と課題ということなので,私の講演内容とかぶっている.私の講演は3日目なので,こちらが内容を調整するしかない.プレナリー講演に対する聴衆の反応を見定めた結果,自分の講演内容を一部変更することにした.その作業は,学会プログラムが終了し,フィッシュハウスでのディナーが終了した後になる.夜中だ.講演まで32時間.なんとか60分近くまで短縮することができた.

学会2日目.朝5時過ぎに起きて,発表練習をしてから朝一番のプレナリー講演を聴きに行く.まだ,スライドと原稿に手を加えている状態だ.完璧と思えるまで,ひたすら推敲するほかない.学会2日目にはバンケットがあり,先に述べたとおり,日付が変わるまでボスポラス海峡でのディナー・クルーズを満喫した.発表練習はその後だ.しかも,ポスドクのF君の発表練習に付き合ってから.部屋に戻ると,もう午前1時を過ぎている.講演まで7時間.ここからが本気の勝負だ.発表練習をして,講演用スライド最終版を完成させて,寝る.発表時間も50分強と完璧な仕上がりだ.

学会3日目.朝6時前に起床し,最後の発表練習を実施する.もはや,講演用スライドが無くても発表できるレベルだ.発表時間はやはり50分強.申し分ない.最後に,愛用のレーザーポインターの電池を新品に入れ替えて,いよいよ出陣だ.講演開始30分前に会場に到着するように,ドミトリーを後にする.

会場は立派なオーディトリウム(講堂)で,客席は急角度の階段状になっている.舞台は高く,端に演台が用意され,中央に非常に大きなスクリーンが掛けられている.舞台上で位置関係を確かめ,どこからでもレーザーポインターによるパソコン操作が可能であることを確認する.さらに,マイクも確認する.これで,講演準備ができた.いよいよ本番だ.

プレゼン能力と味付け

毎回,もっと早く準備しておくべきだと思うのに,追い込まれないとできないというのは我ながら情けない.まあ,でも,これが現実だ.講演準備についての生々しい話を書いたが,参考になるだろうか.このブログでも度々書いているが,プレゼン能力を高めるには練習しかない.努力しない奴は成長しない.年寄りになったら練習しなくて良いという道理はない.単にそのレベルでお終いというだけだ.

最後に1つ,今回の講演の味付けについて書いておこう.プロセス制御に関するアンケート調査結果が今回のプレナリー講演で最も注目される内容の1つになることは確実だった.そこで,アンケート結果を印象づけるために,その内容を4択クイズ形式で紹介することにした.例えば,モデル予測制御の何%が自社開発か,どの市販ツールが最も多く利用されているか,非線形MPCの実施例はいくつあるか,等だ.質問を投げかけると,手を挙げてもらうまでもなく,参加者は自分の意見を口にする.aだ,bだ,等々.ここが日本と世界の違いだ.日本人相手なら確実に静寂が訪れるので,手を挙げてもらう必要がある.それでも,挙げない人もいる.一方,海外では各々が自分の意見を声にする.結果は目論見通りと言えるだろう.1時間に及ぶ講演なので,最初に途中に聴衆の興味を惹き付けるために,クイズは非常に有効だ.講演終了後,クイズに取り上げた調査結果の話題でかなり盛り上がった.

 Leave a Reply

You may use these HTML tags and attributes: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>