7月 232009
 

自分を育てるのは自分―10代の君たちへ
東井義雄,致知出版社,2008

この本は素晴らしい.子供が中学生になるときに,プレゼントしたい.

本書は,教師であった東井義雄氏の,昭和55,56年に開催された2回の講演をまとめたものだ.

世界でただ一人の私をどんな私に仕上げていくか.その責任者が私であり,皆さん一人ひとりなんです.

どうか自分の人生を大切にして下さいというメッセージを中心に,非常に優しい語り口で,心に響くエピソードがちりばめられている.

「わたしのような女は,脳性マヒにかからなかったら,生きるということのただごとでない尊さを知らずにすごしたであろうに,脳性マヒにかかったおかげさまで,生きるということが,どんなにすばらしいことかを,知らしていただきました」

これは脳性マヒの女性の言葉だ.ところが,あれが欲しい,これが足りないと,ないものねだりの際限ない強欲のために,自分を自分で不幸にしている人がどれほど多いことか.「幸福は自己に満足する人のものである」というアリストテレスの言葉,「われわれはわれわれのものを他と比較しないで喜ぼう.自分以上の幸福を見て苦しむ者は,決して幸福になれない」というセネカの言葉を噛みしめるとよいだろう.この女性のように,生きていることの素晴らしさに感謝できたら,どれほど幸福だろうか.

また,「若きいのちの日記」という本が紹介されている.難病を患い,若くしてその生涯を閉じた女性の日記だ.

「病院の外に健康な日を三日ください.一週間とは欲ばりません,ただの三日でよろしいから病院の外に健康な日がいただきたい」

そして,一日目は家族と過ごし,二日目は愛する人と過ごし,三日目は一人で思い出と遊び,「三日間の健康をありがとうと,笑って永遠の眠りにつくでしょう」とある.

一日一日の大切さと健康であることの有り難さに,改めて強烈に気付かされる.過去や未来でなく現在を大切にすべきこと,そして健康であることが何よりの幸福であることを,ショーペンハウエルも「幸福について」で繰り返し力説している.「一日一日が小さな一生なのだ」と.また,セネカは「その日その日を一生と見よ」と諭している.

本書「自分を育てるのは自分」では,逆に,自分の歳を三で割ってみることを勧めている.これは,人生約72年を3で割ると24となり,自分が今何時頃を生きているかがわかるという意味だ.36歳なら昼の12時.もうすぐ40歳の私は,これから日が落ちていくところだ.うかうかしていられない.大学新入生なら清々しい朝を迎えたところだろう.これから,どう生きるのか.ベッドの中でウダウダして昼になってしまってから後悔しても遅すぎる.ましてや,夜になっても目覚めない人間はどうしようもない.何のために,この世に生を授かったのか...

東井義雄氏の娘さんのエピソードもある.高校のテストで60点だったという内容の手紙が娘さんから届いた.ところが,それは先生の採点ミスであり,そのことを先生に指摘し,40点に修正して欲しいと申し出たと.黙っていなければ60点のままだ.当然,葛藤もあったろう.手紙にはこう書かれていたそうだ.

「もうちょっとで二十点どころではない,汚れた点を私の人生に付けてしまうところでした.お父様,お母様のおかげで,間違いを犯さないですみました.お父様,お母様も,きっと喜んでくださることと思います」

頭が下がる.

目次

  • 私を私に育てる責任者は私
  • バカにはなるまい