7月 312009
 

不都合な真実
アル・ゴア,ランダムハウス講談社,2007

遅ればせながら,話題の本「不都合な真実」を読んでみた.本書の第一印象は「でかい」ことに尽きる.いつものように,自宅と大学を往復する間に読んだのだが,非常に重かった.それもそのはずで,「不都合な真実」は300頁を超える写真集である.

地球温暖化は事実であり,人類にとって深刻な危機であり,今すぐに対処すべき問題である.地球温暖化は政治的な問題であるが,同時に,一人一人が自覚を持って取り組むべき,倫理的な問題である.本書のメッセージは,このようにまとめられよう.

地球温暖化の影響を最も受けやすいのは北極と南極である.つまり,北極や南極が「炭坑のカナリヤ」であるとして,北極,南極,および世界中の氷河について,数十年前と今の写真を比較し,氷がなくなってしまっていることを示している.さらに,氷河だけではなく,シベリアやアラスカなどの永久凍土も溶けつつあり,災害を引き起こしているとされる.実際,北半球の海氷面積は1970年代半ばから急速に減少している.北極の氷が溶けると,「自己強化型フィードバック」により,海水温の上昇と氷冠の溶解が加速度的に進む.その影響か,北極熊の溺死が多いそうだ.

世界中の山岳氷河はほぼ例外なく,溶けつつある.しかも,その多くが急速な勢いで.ここには耳を傾けるべきメッセージがある.

南極やグリーンランドの氷が急速に溶けている.南極やグリーンランドの氷の半分が溶けたり割れたりして海中に滑り落ちると,海水面は5.5〜6.0m上昇する.

海水面の上昇に伴い,太平洋の海抜の低い島国に住む人々は,すでに家から避難しなくてはならなくなっている.

世界地図を描き直さなくてはならなくなるだろう

地表気温と海面温度の年間平均温度,海洋上層部の温度が1970年代半ばから急速に上昇していることをグラフで示し,ハリケーンやその被害の写真を示している.日本の台風も含めて.特に,ニューオリンズに壊滅的な被害を与えたハリケーン・カトリーナを取り上げ,ホワイトハウスの無能無策ぶりを批判している.また,暴風雨だけでなく,大規模な洪水も急増していることを示している.

海水温が上がると,暴風雨の勢力が強まる.2004年フロリダは,4つもの並外れて強烈なハリケーンに襲われた.

1970年代以来,猛威をふるう大型の暴風雨は,大西洋でも太平洋でも,その勢力を保つ期間も強度もかつての約1.5倍となっている.

地球温暖化は生態系にも甚大な影響を与えている.陸でも海でも,大量絶滅の危機に直面している.疾病媒介生物の生息地域がより高地へ高緯度地域へと変化していることも,人類にとってのリスクである.

この25〜30年の間に,30ほどの新しい病気が出現している.そして,一度は抑えたはずの昔の病気の中にも,ふたたび猛威をふるい始めているものがある.

人類と自然の衝突を引き起こしている要因として,次の3つが挙げられている.

  1. 人口爆発:森林破壊を引き起こしている.
  2. 科学技術の革命:新しく強力な技術をどのように使うかについての知恵が伴っていない.
  3. 気候の危機に対する私たちの根本的な考え方:真実を否定してはならない.湯の中のカエルの喩え.

湯の中のカエルの比喩は絶妙だと感心した.ゆっくりとした変化に動物は鈍感であり,それが致命的・破滅的な状況になっても気付かず,対応しない.ゆっくりと温度が上昇してゆくお湯から逃げ出さずに死んでゆくカエルを,人間は笑えるだろうか.そういう問いかけだ.

本書「不都合な真実」は地球温暖化についての警告書であるが,アメリカ人であるアル・ゴア氏が執筆しただけのことはあって,主としてアメリカ人向けのメッセージとなっている.その中で,地球温暖化に重大な責任があるのは米国人であると指摘している.その根拠は,二酸化炭素排出量だ.一人あたりの炭素排出量を算出し,その世界平均を1とすると,米国5〜6,日本,欧州,ロシアは2〜3,中国は0.5程度となる.

地球温暖化への寄与率

米国 30.3%
欧州 27.7%
ロシア 13.7%
アジア 12.2%
中南米 3.8%
日本 3.7%
中東 2.6%
アフリカ 2.5%
カナダ 2.3%
オーストラリア 1.1%

本書「不都合な真実」で繰り返し強調されているのは,地球温暖化は事実であり,もはや疑いを挟む余地はないということだ.それでも,懐疑論が根強いのはなぜか.それは,石油・石炭会社などが利益を守るために世論操作を試み,しかも成功しているためだ.ブッシュ政権の重要ポストも,そのような利権団体の一味で占められていた.本書では,エクソン・モービルが名指しで非難されている.マスメディアも金の奴隷だ.彼らは真実を語らない.権力の代弁者にすぎない.実際,過去10年以上の期間において,温暖化の原因を疑う学術論文は0%であるのに対して,温暖化の原因を疑うメディア記事は関連記事全体の53%にものぼる.

さらに,アメリカの問題点の指摘は続く.中国にも遙かに及ばないアメリカの自動車燃費基準.京都議定書に批准していないアメリカ...

もしかして,私たちはテロだけではなく,ほかの重大な脅威に対しても備えるべき,ということなのではないか? 今こそほかの危険にしっかりと取り組むべきなのではないだろうか.

本書の巻末には,地球温暖化を防ぐために個人でもできる活動を具体的に紹介している.情報源となるウェブサイトも掲載されているので親切だ.

  • 自宅の省エネを進めよう
  • 移動時の排出量を減らそう
  • 消費量を減らし,もっと節約しよう
  • 変化の促進役になろう

横軸と縦軸が何なのかが不明なグラフがあったり,明らかな間違いがあったりと,気になる点も少なくないが,環境問題について知り,考えるきっかけとして優れた本だと思う.

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