8月 252009
 

リストラなしの「年輪経営」
塚越寛,光文社,2009

今,この時代に,このような善良な経営者がいるのかと感激した.マネーゲームに奔走する金の亡者になってしまう前に,いや,なってしまった後であっても,本書『リストラなしの「年輪経営」』を読んでみることを勧めたい.就職活動をする学生にも強く勧めたい.就職先を選ぶのも,そこで自分が幸せになりたいと願ってのことだろうから,社員を幸せにする会社とはどのような会社であるか,本書を読んで真剣に考えてみるといい.

伊那食品工業株式会社会長である塚越寛氏は,「会社は社員を幸せにするためにある」と言い切る.リストラして社員に迷惑をかけたり,値切って仕入先に迷惑をかけたり,そういうことはしないと言い切る.自分たちを含め,取り巻くすべての人々をハッピーにする「いい会社」をつくるのだと.

伊那食品工業株式会社は1958年の創業以来2005年までの48年間,ほぼ増収増益を続けてきた.この偉業を達成した経営手法を塚越寛会長は「年輪経営」と称している.これは,いい時も悪い時も無理をせず,低成長を志す,自然体の経営を意味する.

木の年輪のように少しずつではありますが,前年より確実に成長していく.この年輪のような経営こそ,私の理想とするところです.年輪は,その年の天候によって大きく育つこともあれば,小さいこともあります.しかし,前の年よりは,確実に広がっている.年輪の幅は狭くとも,確実に広がっていくことが大切なのです.

「年輪経営」にとっての最大の敵は急成長や一時のブームであるとし,「利益はウンチですよ」と,昨今の利益至上主義に異を唱える.

ウンチを出すことを目的として生きている人はいません.でも,健康な身体なら,自然と毎日出ます.出そうと思わなくても,出てきます.

上品ではないかもしれないが,なんとも適切かつ巧妙な比喩である.利益を出すためには,企業が健康でなければならない.そのためには,バランスが良くなければならない.利益のために,自分たちを含め,取り巻くすべての人々をアンハッピーにするのは本末転倒である.

このように,伊那食品工業株式会社は「いい会社」を目指しているわけであるが,「いい会社」をつくるための10箇条が紹介されている.

  1. 常にいい製品をつくる.
  2. 売れるからといってつくり過ぎない,売り過ぎない.
  3. できるだけ定価販売を心掛け,値引きをしない.
  4. お客様の立場に立ったものづくりとサービスを心掛ける.
  5. 美しい工場・店舗・庭づくりをする.
  6. 上品なパッケージ,センスのいい広告を行う.
  7. メセナ活動とボランティア等の社会貢献を行う.
  8. 仕入先を大切にする.
  9. 経営理念を全員が理解し,企業イメージを高める.
  10. 以上のことを確実に実行し,継続する.

加えて,いい会社をつくるために,中小企業でもすぐにできること,お金もかけずに今すぐできることを,具体的に挙げている.それは,言葉遣いを良くする,丁寧な挨拶を心掛ける,掃除を徹底させる,の3つだ.確かに,その気さえあれば,誰でもいつでもできることだ.そして,これができるかできないかが,大きな分かれ目となるのだろう.

本書には,伊那食品工業株式会社の社員による掃除の徹底ぶりが描かれている.

当社の社員たちは,自ら徹底的に掃除をしているので,掃除に対する目が肥えています.それは,取りも直さず,会社に対する目,社員に対する目,経営者に対する目が肥えているということです.

当社では,社員が素手で,毎日便器を磨きます.

ここまで徹底できるのは凄いことだ.整理整頓が行き届いていない自分の居室を省みて,恥じ入るほかない.

また,長年の経験から,「動機が善であれば上手くいく」が信念になったと書かれている.

最後の章では,教育についても触れられている.

最近の教育には,憂うべきものがあります.親も学校も,本当の教育をしていません.偏差値を上げるとか,いい大学に入るとかは,二義的な問題です.一番大切なのは,「人間はどう生きるべきなのか」「どう生きるのが正しいのか」ということを,教えることです.

これには全く同感である.「人間はどう生きるべきなのか」という問いに対する私なりの回答は,「大学新入生へ: 受講生に宛てた本気モードでのメッセージ」に書いた通りである.

「会社は教育機関,経営者は教育者でなければならない,というのが私の持論です」という塚越寛会長の教育目的は,「立派な社会人をつくること」だと述べられている.氏がいう立派とは,人に迷惑をかけないということだ.さらに,小さな立派は,人に迷惑をかけないこと.中くらいの立派は,少しでも人の役に立つこと.そして,大きな立派は,社会の役に立つことだと書かれている.

幸せについては,次のように書かれている.

人が幸せになる一番の方法は,大きな会社をつくることではありません.お金を儲けることでもありません.それは,人から感謝されることです.人のために何かして喜ばれると,すごく幸せな気分になるでしょう.

結局,幸せについての結論はここに収斂するのだと思う.表現は違っても,みな,同じことを言っている.

最後に,本書『リストラなしの「年輪経営」』で引用されている二宮尊徳の言葉を紹介しておこう.「年輪経営」の基礎となる思想だ.

遠きをはかる者は富み
近くをはかる者は貧す
それ遠きをはかる者は百年のために
杉苗を植う
まして春まきて秋実る物においてをや
故に富有り
近くをはかる者は
春植えて秋実る物をも尚遠しとして植えず
唯眼前の利に迷うてまかずして取り
植えずして刈り取る事のみ眼につく
故に貧窮す

目次

  • 「年輪経営」を志せば、会社は永続する
  • 「社員が幸せになる」会社づくり
  • 今できる小さなことからはじめる
  • 経営者は教育者でなければならない

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