ファウスト 第1部
ヨハーン・ヴォルフガング・ゲーテ(Johann Wolfgang Goethe),池内紀(訳),集英社,2004
学者先生ファウストと悪魔メフィストフェレスがグルになって繰り広げる恋愛悲劇.学問に絶望したファウストは,悪魔メフィストフェレスと契約を結び,その手引きで魔女から霊薬を手に入れて,若返る.ああ,可哀想なマルガレーテ.悪魔に魂を売ったファウストに見初められたがために,何もかもを失ってしまった.兄は殺され,母は苦悩のうちに死に,自分は嬰児を殺して,牢獄に捕らえられた.自責の念から,自分が撒いた種を悪魔に刈り取らせようとするファウスト.人間なんてそんなものか.
有象無象が乱痴気騒ぎをする「ワルプルギスの夜の夢」なんかは,乱痴気騒ぎをしているということ以外,サッパリ意味が分からない.それでも,全体を通して,登場人物のセリフにはユーモアが利いていて面白い.ファウストとメフィストフェレスが悪魔の契約を結ぶ場面,ファウストの書斎で,ファウストに成りすましたメフィストフェレスが訪ねてきた学生と会話する.
学生:
大学者になりたいのです.地上と天上の一切を知りたいのです.学問と自然に通じたいのです.
メフィストフェレス:
光陰は矢のごとしというから気を付けることだ.時間割りを作るといいよ.助言といってはなんだが,(中略)
はじめの半年はサボってはいけない.毎日,授業は五時間だ.鐘が鳴る前に部屋に入っておく.予習をちゃんとしてきて,章ごとに整理しておく.そうするといずれ,先生というものは,本に書いてあることしかいわないことがわかってくる.だからといってノートをとるのを怠けてはならない.聖霊の言葉を筆記していると思うことだな.(中略)
学問の成果を拾いまわってもムダなことだ.しょせん,人間は,自分が学べることしか学ばない.ただし,ここぞのときを逃してはならない.きみは見たところ体格もいいし,臆病でもなさそうだ.自信がつけば,世間の見る目がちがってくる.とりわけ女を扱うすべを学ぶことだな.
これが悪魔から大学新入生への助言だ.ヨハーン・ヴォルフガング・ゲーテ自身の学生時代が反映されているのだろう.
目次
- 捧げる言葉
- 開演前
- 天上の序曲
悲劇 第一部
- 夜
- 町の門前
- 書斎
- 書斎
- ライプツィヒのアウエルバッハ地下酒場
- 魔女の厨(くりや)
- 往来
- 夕方
- 散歩
- 隣の女の家
- 往来
- 庭
- 庭のあずま屋
- 森と洞穴
- グレートヒェンのちいさな部屋
- マルテの家の庭
- 泉のそば
- 町外れ
- 夜
- 聖堂
- ワルプルギスの夜
- ワルプルギスの夜の夢
- 曇り日の野原
- 夜の広野
- 牢獄
解説『ファウスト』第一部─その美しさ