9月 252009
 

ファウスト 第2部
ヨハーン・ヴォルフガング・ゲーテ(Johann Wolfgang Goethe),池内紀(訳),集英社,2004

悪魔メフィストフェレスと契約したファウストが,メフィストフェレスを従えて,さらに欲望を満たすために突き進む.第一部では町娘マルガレーテを見初めたが,第二部ではギリシア神話に登場する絶世の美女ヘレナを我が物にしようと企てる.メフィストフェレスの権謀術数によってその願いは成就し,ヘレナとの間に一子をもうけたファウストだが,その幸せも長くは続かない.

やがて,老齢になったファウストは,皇帝から与えられた海を干拓し,自分の領土とする.そして,その領土を完璧なものにしようとするファウストの欲望の犠牲となって,目障りな老夫婦が殺されてしまう.確かに,ファウストは老夫婦を殺していないし,殺せと命じてもいない.メフィストフェレスたちが殺してしまっただけのことだ.ファウストは叫ぶ.

命令を忘れたのか! 土地の交換を申しつけた,奪えなどとはいわなかった.とんでもないことをしてくれた.呪うてやる.みなで罪をかぶれ!

第一部で見た光景だ.ここでも,自分が撒いた種を悪魔に刈り取らせようとするファウスト.ところがだ.そのファウストが絶命し,契約に従って,悪魔メフィストフェレスがその魂を手に入れようとしたとき,天使が現れて,ファウストの魂を天上へと導く.全く理解に苦しむ.これだけ好き勝手をやって,罪のない人達を死に追いやって,それでも天国に行けるものなのか.

正直なところ,本書を読んだだけでは,ファウストが高く評価される理由がよくわからない.その原因は,恐らく,原語で読まないからだろう.神曲にしても,ファウストにしても,小説ではなくて,詩だ.しかも,非常に技巧的な詩とされる.ところが,日本語で読むと,韻を踏むなんて全く関係なくなる.ただの散文になる.原著と訳文では,受ける印象が天と地ほどに差があるに違いない.

そんなファウストだが,第二部で私が興味を持ったのは,財政破綻の危機に瀕した国をファウストとメフィストフェレスが救うところだ.

知りたいと望むすべての者に告げる.この紙片は千クローネの価がある.皇帝領内に埋もれた無尽蔵の宝が保証する.すぐにも掘り出して兌換にあてる用意がある.

こうして紙幣がこの世に登場した.メフィストフェレスの入れ知恵だ.なお,その用法を誤って,この国は別の危機を迎えることになる.

目次

悲劇 第二部

第一幕

  • 気持のいい高み
  • 皇帝の城(玉座の間 大広間 庭園 暗い廊下 明るく照らされた数々の広間 騎士の間)

第二幕

  • 天井の高いゴシック風の狭い部屋
  • 実験室
  • 古代ワルプルギスの夜(ファルサロスの戦場 ぺネイオス川の上流 ぺネイオス川の下流 ぺネイオス川の上流 エーゲ海の岩場の多い入江)

第三幕

  • スパルタのメネラオス王の宮殿
  • 城の中庭
  • 岩壁と森

第四幕

  • 高山
  • 山の鼻
  • 贋皇帝の天幕

第五幕

  • 広大な土地
  • 豪華な館
  • 夜ふけ
  • 真夜中
  • 館の前の広い庭
  • 埋葬
  • 山峡、森、岩

解説 『ファウスト』第二部――錬金術と夢

エッセイ 『ファウスト』の光と空間

ゲーテと髭おやじ――文庫版のあとがきにかえて