10月 262009
 

科学哲学の冒険―サイエンスの目的と方法をさぐる
戸田山和久,日本放送出版協会,2005

面白かった.文章も上手だ.センセイと大学生のテツオ(哲学科だから)とリカ(理科系だから)の3人が科学について哲学的な議論をする対話篇.

著者が擁護したいという,恐らく多くの人々にとって直観的で自然な科学的実在論に対して,反実在論と観念論(社会構成主義)が異を唱える.その反論にどのように答え,科学的実在論の正当性を主張するかが本書のテーマだといってよい.

社会構成主義はこう主張する.科学の理論や法則なんて,所詮は,科学者集団の都合で勝手に取り決められた社会的構成物にすぎない.電子は実在するのではなく,電子があることにしときましょうと勝手に科学者が自分たちの都合で合意しただけのことだ.電子が実在するというなら,その証拠を見せてみろ.

反実在論はこう主張する.観察不可能な対象について,科学が真理を述べているという保証など全くない.いや,真理などわかるはずがない.科学の目的は,せいぜい目に見える現象を説明できる理論を構成することであって,この世界の真理を知るなんて大それたことを目的にすることなんて不可能なのだ.

えっ,マジでそんなこと主張するんですか?と言いたくなるが,「我思う故に我在り」というところまで撤退しないと気が済まないのが哲学者だから,こんな主張がでてくるのも仕方がないと言える.問題は,そんな主張を論理的に排除するのがかなり難しいということだ.そこで,「奇跡論法」とか「意味論的捉え方」とかが登場する.そのあたりの事情を平易に解説してくれているのが本書というわけだ.

言葉を厳密に定義し,正しく用いることがいかに重要であるかを再認識させられる.科学者でなくとも,理系であろうが文系であろうが,興味深く読めると思う.自分が科学哲学をやりたいかと言われれば,今のところ”No”ではあるが...

本書のもう1つの論点は,「帰納」という推論はどこまで信用してよいのかということだ.「ソクラテスの対話が説得力に欠けるのは,それが枚挙的帰納法だから?」に書いたように,ソクラテスの思考も帰納に基づいている.しかし,帰納は必ずしも正しいとは言えない.しかし,帰納がなければ科学は前進できない.では,どうすればよいのか.科学が抱える深い問題だ.

目次

科学哲学をはじめよう−理系と文系をつなぐ視点

  • 科学哲学って何? それは何のためにあるの?
  • まずは,科学の方法について考えてみよう
  • ヒュームの呪い−帰納と法則についての悩ましい問題
  • 科学的説明って何をすること?

「電子は実在する」って言うのがこんなにも難しいとは−科学的実在論をめぐる果てしなき戦い

  • 強敵登場!−反実在論と社会構成主義
  • 科学的実在論 vs. 反実在論

それでも科学は実在を捉えている−世界をまるごと理解するために

  • 理論の実在論と対象の実在論を区別しよう
  • そもそも,科学理論って何なのさ
  • 自然主義の方へ