11月 082009
 

フェルマーの最終定理
サイモン・シン(著),Simon Singh (原著),青木薫(訳),新潮社,2006

非常に面白かった.素っ気なく言ってしまえば,数学の小難しい定理の1つが証明されたというだけのこと.それをこれだけドラマティックに描く著者の力量には脱帽だ.もちろん,一般読者が,現代数学の粋を集めたアンドリュー・ワイルズの証明をその一部であっても理解できるはずもない.それでも,本書を読めば,フェルマーの最終定理が数学界で持つ意味,その証明の難しさと意義,フェルマーの最終定理を証明しようと試みてきた数多くの数学者のアプローチ,そしてアンドリュー・ワイルズの挫折と成功を,理解したつもりになれる.

本書「フェルマーの最終定理」が素晴らしいのは,フェルマーの最終定理にまつわる物語を,歴史を遡って徹底的に調べ上げているところにある.本書には数多くの数学者が登場するが,古代ギリシアのピタゴラス教団にはじまり,古代エジプトのエウクレイデス(ユークリッド)による「原論」,ディオファントスによる「算術」,そして暗黒時代を経て,中世ヨーロッパ以降のオイラー,ラグランジュ,ガウス,ヒルベルト,コーシー,フーリエ等々,フェルマーと同時代の数学者もそうではない数学者も含めて,まさにオールスター状態である.しかも,彼・彼女らの数学上の業績だけでなく,その生き様も魅力的に語られており,興味をそそられる.

そして,とても嬉しいのが,フェルマーが書き残した定理をめぐる300年以上にわたる数学者の闘争をまとめた本書において,4人もの日本人数学者が登場することだ.特に,谷山=志村予想については,その数学上の重要性が極めて高く評価され,本人の写真やインタビューも含めて,随所に登場する.

それにしても,8年間も一人で答えがあるかどうかもわからない難問に挑むというのは,凄い根性だ.たとえ,その問題を解くのが子供の頃からの夢だったとしても.世の中には凄い研究者がいるものだ...

本書では,フェルマーの最終定理以外にも様々な問題やパズルが紹介されており,それらも興味深い.こういう科学ドキュメンタリーのような本を中学・高校くらいで読めば,科学に興味を持つようにもなるのではないだろうか.

目次

  • 「ここで終わりにしたいと思います」
  • 謎をかける人
  • 数学の恥
  • 抽象のなかへ
  • 背理法
  • 秘密の計算
  • 小さな問題点
  • 数学の大統一
  • 補遺

  2 Responses to “フェルマーの最終定理”

  1. yoshikです。サイモン・シンの科学ドキュメンタリーは非常に面白いですよね。
    フェルマーの最終定理も数学の歴史から紐解いて解説されますが、これも専門書として書かれている数学史よりも、ドキュメンタリーとして仕上げることで、血の通った物語となります。
    宇宙創成も面白かったですよ。
    こっちで思うのは、「科学における真理を探究するのに文字通り命を賭けた科学者の存在」です。天体の観察に、命の危険のある場所に足を運び、中には命を落とす人もいた。
    そんな物語を読んでいると、命を落とす状況でないにしても、「自分は仕事に命がけで取り組んでいるのか」と自問してしまいます。

  2. 「宇宙創成」も読んでみようと思います.やはり,宇宙と生命は人間を虜にする謎ですし.

    「自分は仕事に命がけで取り組んでいるのか」というのは厳しい問いかけですね.
    それと共に,私の頭の中をグルグル廻っているのは,「命がけで取り組む価値がある仕事とは何か」ですね.

    京都も含めて日本は寒くなってきましたが,寒くなったり暑くなったり,まさに季節の変わり目という感じです.

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