12月 142009
 

最適研究会2009: 想いを活かす仕事とは?」に続き,昨日書いた「最適研究会+最適飲み会: 文字通り最高の講演会と懇親会.京大PSE研の凄さを感じさせてくれた.」の詳細報告.参加できなかった人達向けだ.

最先端ロボットには何ができないか?〜発想転換のすゝめ〜

立命館大学チェアプロフェッサー兼マンマシンシナジーエフェクタズ株式会社代表取締役社長である金岡君の講演.学部時代にはプロセスシステム工学研究室でデータ解析の研究をしていたが,どうしてもロボットの研究がしたいと,機械系の大学院に進学した.化学工学出身でありながら,ロボット研究の第一線で活躍する異色の研究者だ.マンマシンシナジーエフェクタ(人間機械相乗効果器)という概念を唱え,ベンチャー企業社長としても活躍している.

金岡君の講演は,「真理を知ることはできるのか?」という問いから始まった.我々が経験していることは実際に起こっているのか,さらに言えば,我々の世界は本物か,というのは,昔から人類(の一部)が考えてきた問題だ.キアヌ・リープス主演の”MATRIX”という映画を見たことがある人は多いだろう.モーフィアスがネオに言う”What is the real?”という,あの問いだ.そう言えば,全く本題に関係ないが,今年ハワイに家族旅行で行ったとき,キアヌ・リーブスの別荘を見た

科学とは何か

科学は真理を探究していると主張するが,真理は明らかにされうるのだろうか.これは,科学哲学の問いだ.講演では,「構造主義科学論の冒険」(池田清彦)を紹介してもらった.

このブログでも「科学哲学の冒険―サイエンスの目的と方法をさぐる」(戸田山和久)などを紹介しているので,興味があれば読んでみるといいだろう.こちらは初心者向けだ.

さて,上述の問いに対しては,科学は現実に対するモデルを提供しようとすると答えることができる.モデルというのは,現実に起こっている現象を概ね正しく表現できるものだ.現実そのものではないが,それによって我々は目的を達することができるようなものだ.つまり,役に立つ現実の捉え方だと言えよう.そうすると,現実世界で生きる我々にとっては,現実をどのように捉えるのかが重要であり,その捉え方が役に立つかどうかが問題となる.金岡君が例に挙げてくれたのは,すべてが光速に近い速さで動く星があって,そこに知的生命体が住んでいるとして,彼らがニュートン力学を考えだし,利用することはあるだろうか,という問いだ.アインシュタインの相対性理論が示すとおり,光速に近い世界の現象をニュートン力学は正しく説明できない.つまり,その知的生命体にとって,ニュートン力学は全く役に立たない代物であり,その星でニュートン力学が一時期であっても科学界を支配することなどありえないだろう.我々にとっては,現実の現象を概ね正しく表現できており,何かと役に立つという意味で,ニュートン力学は1つの意味のある捉え方である.

いくつかの思考実験

このような前提を置いた上で,思考実験として,人脈は大事か,理系離れを防ぐには,エコ技術とは,ロボットには何ができないか,について考えてみることを求められた.身近な社会的な話題から入り,徐々にロボットに話題を移す戦略だ.まず,ロボット以前の思考実験について,途中経過は一切省いて,金岡君のコメントを見ておこう.

まず,人脈について.「利用する・される」という関係程度の人脈であれば,そんなものは必要ない.必要なのは,「応援する・される」という関係の人脈だ.ベンチャー企業を立ち上げた彼らしい.次に,理系離れについて.理系が搾取される構造を打破し,理系が生み出す価値をお金として正当に評価させなければならない.興味を持ってもらいましょうなんて政策では根本的な解決にはならないということだ.そして,エコ技術について.小さな国家の国力を大きく維持することが必要である.注意してもらいたいのは,以上すべてについて,全く同一のフレームワークで検討しているという点だ.つまり,問題をどのように捉えるかが大切であり,役に立つような捉え方をしなければいけないということだ.そして,もう1つ.金岡君が強調したのは,発想の転換だ.

ASIMOは歩いているのか?

これらの準備運動をふまえて,最後のロボットについての話題に移る.ロボットについて考えるときの鍵は,「ロボットには何ができるか?」ではなく,「ロボットには何ができないか?」だという.そのための視座を与えてくれるのが,「自動」と「自律」の違いである.例えば,ホンダのASIMO.歩いたり芸をしたりしているのを見たことがある人は多いはずだ.では,あのASIMOは歩いているのか.金岡君は言う.あれは歩いているように見えるだけであって,決して歩いているのではない.このように動作すれば歩いているように見えるという動作をしているだけで,歩こうと思って歩いているわけでも,自分が歩いていると思っているわけでもない.そのことを象徴する例として示してくれたのが,ASIMOが階段を上がろうとして転倒する事故の動画だ.YouTUBEで誰でも見ることができる.階段を転げ落ちて壊れてしまうのだが,身動きできなくなったのに,「このように階段を上れます」みたいなことを話している.いや,正確には,話しているような印象を与えるプログラムを自動的に実行している.

この問題は非常に奥が深い.人間とは何か,自由意志は存在するのか,というところまで行ってしまう.このブログを読んでいる人達は,自分の意志で読んでいると信じているだろう.何の根拠もなしに.いや,本当に根拠なんてないのだ.ベンジャミン・リベットが示したように,我々が何かを感じるとき,その感覚が脳で知覚されるまでには0.5秒かかる.「いや,触った瞬間に触ったとわかる!」と反論する人もいるだろうが,そうではない.脳のメカニズムがそのように思わせるようになっているだけなのだ.それだけではない.知覚が遅れているばかりでなく,人間が何か行為するとき,意識的にその行為を決定する以前に既に無意識に意志決定がなされているというのだ.これが何を意味するかわかるだろうか.恐ろしいことに,人間には自由意志がないかもしれないということだ.プログラミングされた通りに動いているだけ,自由意志を持って動いているように見える動きをしているだけかもしれないということだ.階段で転倒したASIMOと何が違うのか.興味があれば,「マインド・タイム 脳と意識の時間」(ベンジャミン・リベット)を読むといいだろう.

僕がガンダムを作る

人間が自律しているかどうかすら怪しいのに,その人間が自律ロボットをつくるだって?

現在の技術では,自律ロボットはつくれない.どうやってつくればいいかを誰も知らない.これが現実だ.実際,自律ロボットを制作しようとする試みは,大量の資金を注ぎ込みながらも,ことごとく失敗する.今,我々にとって大切なのは,見せかけだけのロボットを制作することではなく,人間にとって本当に役に立つロボットとは何なのかを考え,そのようなロボットの実現に向けて努力することではないか.このような立場から,金岡君が考えるロボットとは,人間みたいなことができるロボットなどではなく,人間の弱い部分を補ってくれるロボットだ.つまり,生身の人間では到底できないようなことを,人間の判断の下で,できるようにしてくれるロボットだ.

現在の技術では,鉄腕アトムのような自律ロボットを製作できる見込みはない.しかし,人間の判断で,人間が動かすロボットであれば,製作できるだけの技術が誕生してきている.そう,ガンダムは本当に作れるというわけだ.講演では,APPLESEEDとマクロスFを例に,人間が操縦するロボット(モビルスーツ)の映像を見て,この動きができるロボットを作るんだと熱く語ってもらった.

研究への情熱.新しいものを作り出すことへの執念.そして,その行動を裏付けるための哲学.素晴らしい講演を聴かせてもらった.

NHK講座の紹介

最後に,金岡君への感謝の気持ちを込めて,彼の宣伝をしておこう.1月23日に立命館大学びわこくさつキャンパスにて,NHKカルチャー講座が開催される.講座のタイトルは「ガンダムは実現するか?〜最新ロボット工学と近未来のロボット〜」で,講師はもちろん,金岡君だ.刺激を受けたい人は是非参加してみよう.「加納のブログを見た」と言っても割引はないけれど...

  2 Responses to “最適研究会2009: 最先端ロボットには何ができないか?〜発想転換のすゝめ〜”

  1. 非常に楽しそうな講演ですね!
    昔から「ガンダムを作るとしたらおそらく日本人だろうな」と思っていましたが、是非ガンダムを作ってほしいです。そうしたらアナハイム社でも設立しますかね。。。(ガンダムファンしか分からないネタですが)
    大体、「人型である必要がない」ロボットに「人型」を模して作るのは、日本人もしくはガンダムやら何かに影響を受けた若干日本人化した外国人でしょう。ガンダムの世界でも、「人型の不合理性」を説明するために、ミノフスキー粒子など独自の物理法則の発見を前提としております。ある意味スゴイ。

    ところで最近インド人に、言われることが多い「日本人の印象」は「クリエイティブ」です。日本人が日本人のことを語るのに「クリエイティブ」なんてあまり思わない人が多いでしょうが、実際そうみたいですね。で、「日本人は自分たちのことをクリエイティブと思っている人は少ないんだよ」というと、「何で?日本人はすごいよ!」とスゴイ理由を説明してくれます。

    ガンダムを作り出せる(想像することも、創造することもできる)「子供のようなクリエイティビティ」を持ち続けたいものですね。

  2. 本当に刺激的な講演でした.科学哲学のさわりだけでも知っていると,より深く理解できたでしょう.大学卒業生であれば,それくらいの教養は身に付けておいて欲しいところですね.

    日本人もクリエイティブですよね.ガンダムが完成したら,それに乗って講演に来てもらうことになっています.

    以前,別のロボット研究者が,日本の役所のロボットに対する認識に怒っていたのを思い出します.官僚がつくった,ロボットがいる近未来の想像図なのですが,そこでは,お母さんが外で働いている家庭で,小さな子供が1人で留守番をしています.その子供の面倒を見るために,人型のロボットが家の中を動いているというものです.

    そのロボット研究者が言うには,「ふざけるな」と.子供のことを考えたら,母親と一緒にいるのがいいに決まっている.母親が子供と一緒に過ごせるような社会を実現するために,ロボットを利用して生産性を高めるべきなのであって,ロボット以外の人間の活動をそのままに,社会にロボットをねじ込んでもダメだ.どうして,こういう貧相な発想しかできないんだと.

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