1月 272010
 

恐怖の学会

昔,まだ私が大学院生から助手になったばかりの頃,研究発表のために参加させてもらった学会では,どこにも恐ろしい先生がいたものだ.もちろん,顔が怖いとか,いつも怒っているということではなく,研究に対して厳しいということだ.

学会(研究発表会)では,大学院生の発表も多いが,自分が何をしているのか深く理解せずに発表していることもある.加えて,発表前にどのような指導をするかは指導教員によって異なる.このため,研究の目的や結果が聴衆に伝わらない発表もある.あるいは,そもそもレベルが低い研究もある.

今でも,ある恐ろしい先生が,質疑応答の時間に,「そんな研究に意味はない!」というようなことを大きな声で発言されていたのを思い出す.発表している学生にしてみたら,こんなに恐ろしいことはない.指導者に恵まれた私自身は,そんな目にあったことはないが,学会とは恐ろしいところだと痛感したものだ.自分が言われていたら,トラウマになったに違いない.

ところが,最近の学会では,そんな背筋が凍るような質疑応答を見かけることはなくなった.それどころか,静まりかえっている質疑応答すら少なくない.研究者が大人になったと表現することもできようが,要するに,活気がないということだ.

化学工学会誌の2010年1月号で,全く同じことを指摘している人がいた.専門分野は異なるので,様々な分野で似たような状況なのだろう.

学会の活性化

さて,そこそこ歴史のある学会では,学会(研究発表会)の活性化が問題になってきているようだ.会員数の減少,論文数の減少,参加者数の減少など.昨今の経済の低迷に加えて,研究にも流行り廃りがあるので,それも仕方ないわけだが,ともかく,活性化しなければならない状況がある.

学会(研究発表会)を活性化するためには,どうすればいいか.ここで活性化というのは,発表件数や参加者数の増加を意味する.まず,会議のロケーションは大切な要因だ.憧れのリゾート地で開催されるなら,何が何でも論文を書く.しかし,当然ながら,それだけでは学会(研究発表会)は生き残れない.学会(研究発表会)の中身が問われる.色々な提案がありうるだろうが,上述の昔話が示唆するのは,実りのある質疑応答の重要性だ.研究者・技術者が学会発表したとしよう.質疑応答で手応えを感じないような学会に再び参加しようと思うだろうか.思わないだろう.ディズニーリゾートの凄さは,リピーターの多さである.発表者が毎回の発表でメリットを感じられなければならない.つまり,興味を示されたり,アドバイスをもらえたりすることが重要だ.座長(司会者)が義理質問しているような質疑応答では,発表者はメリットを感じないだろう.

学会の将来を憂うなら,ガンガン質問しまくれ!

質問もしないで偉そうなことを言ってみても空しいだけだ.

もちろん,人が聞きたいと思う研究成果を発表することは最も大切だ.しかし,凄い成果がなくても,質問はできるだろう.そういう貢献の仕方もあるし,しかもそれは極めて重要だと思う.

オーディエンス・レスポンス・システム

こんなことを考えながら,最近導入したオーディエンス・レスポンス・システムのことを思う.確かに,学生の評判は良いし,講義や講演の魅力を向上させるツールである.しかし,オーディエンス・レスポンス・システムというのは,結局のところ,講義中に質問できない,発言できない気弱な学生に,匿名での意思表明を促すシステムだ.そこには,講義中に無理して手を挙げなくてもいいですよという教員から学生へのメッセージがある.果たして,それでいいのだろうか.育成すべき学生の姿とは,匿名でしか発言できない人材なのだろうか.この点が気になって仕方がない.もちろん,その他の使い道があるのは知っている.しかし,指摘したような一面があることは否定できないだろう.

そうやって過保護に育てられた学生たちは,社会に出て,中国人やインド人を相手にきちんと主張していけるだろうか.「今のイシューはそれじゃないだろ.黙ってろ!」と言いたくなることもあるが,主張すれば通ることもある.主張しなければ,絶対に通らない.

とまあ,こんなことを考えながらも,オーディエンス・レスポンス・システムを学内外で好きなときに使えるようにするために,研究室予算で追加購入する予定だ.自分の武器にはなるのは確かなので.

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