2月 082010
 

一言でいうなら,「おれだって,おまえとちっとも変わらないんだ」がまかり通るならば,教育そのものの廃止さえ,夢ではなくなるでしょう.学ぶ意欲のある者にたいする刺激,怠け者にたいする罰がともに消え失せてしまうでしょうから.こうして学ぶ意欲が阻まれることになります.「仲間を踏み越えてぬきんでようなんて,いったい,どういう了見だ?」というわけです.いずれにせよ,教師たちは−−子守たちはと言うべきかもしれませんが−−愚かな生徒の背中をたたいて安心させるのに忙しくて,ちゃんと教える暇など,ありはしないでしょう.

この発言は,どこかの国で現在起こっている事態を言い表しているのではないか,と思えないだろうか.私にはそう思えてしまった.履き違えた平等主義の帰結として,教育が崩壊の危機に瀕しているということだろう.

この発言をしたものの名は,スクルーテイプ(Screwtape)という.国務次官という肩書きを持つ.もちろん,日本人ではない.スクルーテイプの正体が即座にわかる人は結構な読書家だろう.

ちなみに,この発言のすぐ後には,次のような言葉が連なっている.

われわれ悪魔としても,手のつけられぬ自惚れ心や度しがたい無知を人間のあいだに広めるために計画を立てたり,骨を折ったりする必要がなくなるでしょう.人間というちっぽけな虫けらどもが,われわれにかわってそうしたことをやってくれるでしょうから.

はぁ?と思った人も多いと思うが,上記の発言は,地獄国務次官のスクルーテイプが,誘惑者養成所の晩餐会で主賓として行ったスピーチの一部だ.「乾杯の辞」と題された,この挨拶文は,「ナルニア国物語」の著者として知られるC.S.ルイスが「悪魔の手紙(The Screwtape Letters)」の後に著したものである.

悪魔に誘惑されて,無自覚のうちに悪魔の手先になるようなことがないようにしたいものだ...

さて,このスクルーテイプだが,同じ悪魔とは言っても,メフィストフェレスとは随分とキャラが異なる.地獄にも色々と個性的な悪魔がいるようだ.そのメフィストフェレスは大学新入生にこんな助言をしている.

学生:

大学者になりたいのです.地上と天上の一切を知りたいのです.学問と自然に通じたいのです.

メフィストフェレス:

光陰は矢のごとしというから気を付けることだ.時間割りを作るといいよ.助言といってはなんだが,(中略)

はじめの半年はサボってはいけない.毎日,授業は五時間だ.鐘が鳴る前に部屋に入っておく.予習をちゃんとしてきて,章ごとに整理しておく.そうするといずれ,先生というものは,本に書いてあることしかいわないことがわかってくる.だからといってノートをとるのを怠けてはならない.聖霊の言葉を筆記していると思うことだな.(中略)

学問の成果を拾いまわってもムダなことだ.しょせん,人間は,自分が学べることしか学ばない.ただし,ここぞのときを逃してはならない.きみは見たところ体格もいいし,臆病でもなさそうだ.自信がつけば,世間の見る目がちがってくる.とりわけ女を扱うすべを学ぶことだな.

スクルーテイプにしても,メフィストフェレスにしても,悪魔は地上の教育事情に詳しいようだ.

改めて述べるまでもないが,メフィストフェレスは「ファウスト」(ヨハーン・ヴォルフガング・ゲーテ)に登場する悪魔だ.