2月 262010
 

シンボル・コードの秘密―西洋文明に隠された異端メッセージ
ティム・ウォレス=マーフィー(Tim Wallace‐Murphy),大山晶(訳),原書房,2006

映画「ダ・ヴィンチ・コード」を見た人は多いと思うが,そのネタ本とされるのが,本書「シンボル・コードの秘密」なのだそうだ.さすがに,ルーヴル美術館のピラミッドの下にマグダラのマリアが眠っているとは書かれていないが,ロスリン礼拝堂やシャルトル大聖堂の彫刻やステンドグラスに隠された異端のメッセージ,それに関わるテンプル騎士団やレックス・デウス,フリーメーソン,さらにその異端思想の起源などが詳細に記載されている.

たまたま図書館で目に留まったので借りてみたのだが,とても面白かった.

ところで,異端思想と書いてはみたが,本当にイエスの教えを継承しているのは誰かと問われれば,答えはキリスト教会ではなく,千年を超えて教会から迫害を受けてきた異端の方であるというメッセージが読み取れる.聖書は史実で正しいと信じている人には悪いが,所詮は,ローマ皇帝の支配力と教会の権力を強化するために創作された(史実をねじ曲げた)ものだからだ.改めてニカイア公会議のことを持ち出すまでもないだろう.実際,かつて教会が隠滅を計った福音書が奇跡的に発見されるなどした結果,教会も見解の訂正を余儀なくされてきている.

本書「シンボル・コードの秘密」では,よく知られたことが指摘されている.例えば,聖母マリアにはイエス以外に子供がいたこと.イエスは妻帯者で,妻はマグダラのマリアであること.マグダラのマリアはイエスの第一の弟子でもあること.キリスト教会が使徒と認めるパウロは,イエスの教えを酷くねじ曲げたために,イエスの家族や本来の使徒から軽蔑され,追放されたこと...

本書「シンボル・コードの秘密」では,マグダラのマリア,黒い聖母崇拝,そしてテンプル騎士団について,かなりの紙面が割かれている.

(テンプル)騎士団の「規則」の起草にあたり,クレルヴォーのベルナールは,騎士全員が「ベタニアと,マリアとマルタの家に服従すること」,という条項を設けた.このことから,多くの研究者が長年主張しているあの説の信憑性が高まる.騎士団とシトー修道会が資金提供し影響をおよぼした偉大なノートルダム大聖堂は,教会の教えにあるようにイエスの母マリアに捧げられたのではなく,実際にはマグダラのマリアと彼女が産んだイエスの子に捧げられた,という説だ.

ベルナールは新しい騎士団の団員全員に,ある特殊な要求を課した.「ベタニアと,マリアとマルタの家に服従すること」である.簡単に言えば,マグダラのマリアとイエスが築いた王家に服従と忠誠をちかえということだ.

黒い聖母にみせかけたマグダラのマリア崇拝は,テンプル騎士団によってその後も広がりをみせた.

イエスの本来の教えは,人間は如何にして神性に近づくかということであって,自分の死によって人類が救われるというものではない.そして,イエスの宗教,つまりユダヤ教を遡っていくと,古代エジプト文明に繋がっていく.

レックス・デウスの一族が保ち続けた「イエスは啓示に現れたのであって救済に現れたのではない」という重要な信念についてよく考えてみる必要がある.イエスが現れて啓示したのは,偉大なるいにしえの秘儀の道と至高の力である.この至高の力は,それに従うすべての者に,高潔,友愛,真実,正義という原理のもとに確実に築かれた生を要求する.蛇の巻きついたファラオの杖をもつモーセの像は,たんに彼が真のファラオで捨て子ではないという表明であり,彼が隣にいる兄アロンと同様に,そして,エジプトの王族と同様に,古代の神殿の神秘の参入者であったことを示しているのである.

古代エジプト文明というのは,人間を霊的に成長させるという観点で非常に進んだ文明だったのだろう.ピラミッドもそのための装置だとされる.

異端思想は,熾烈な迫害の中を生き抜かなくてはならなかったため,比喩的な表現やシンボルを多用する.そこにメッセージを隠すわけだ.それが本書「シンボル・コードの秘密」のテーマとなっている.錬金術(アルケミスト)というのも,その1つだろう.

錬金術とは,賢者の石を追い求めることではなく,不完全な人間という「卑金属」を完全な精神性という「金」に変える錬金術的なプロセスを婉曲に表現したものである.つまり,隠れた異端への道の寓意表現なのだ.

なかなか面白い本だが,本書を楽しむためには,ある程度,聖書を知っておく必要があるだろう.モーセ,洗礼者ヨハネ,マグダラのマリアなどと言われてピンと来ないようでは絶望的だ.そんな人は,まずは小説聖書などを読んでみたらいいだろう.

目次

  • シンボルの始まり
  • 聖書、エジプトに由来するユダヤ教、ふたつの対立するイエス観
  • 初期キリスト教とキリスト教シンボリズムの発達
  • 秘密の系譜が表に出る
  • エピローグ