4月 032010
 

新入社員に贈る言葉
日本経団連出版(編),日本経団連出版,2003

各界の有名無名人50名が新入社員に向けて書いたメッセージ集.様々な分野の,様々な年齢の,様々な考えの人達が数頁ずつ書いているので,玉石混淆とも言えるが,参考になる.印象に残った5つのメッセージをメモしておこう.

有働由美子(NHKアナウンサー)

「なんであかんの?お姉さんみたいに大学出てたら働くところもいっぱいある.けど私みたいに中学卒業で親は覚醒剤中毒やったら,バイトするのも雇ってくれへんで.でもお母さんには仕送りせなあかんし,なんで自分が使えるもの使ったらあかんの?売春はなんで悪いの?」がつんと頭を殴られたような気分でした.売春は悪い.けれどなぜ悪いのか.それを自分の脳を,心を通して考えたことはなかったのです.ジャーナリスト然として肩で風切って取材に出かけた私は,社会が非行少女と判を押したその女の子に,とても大事なことを教えてもらいました.

売春や援助交際など,「誰にも迷惑をかけてないのに,なぜ悪いの?」という問いがありえる.「国民の道徳」(西部邁 ,産経新聞ニュースサービス)でも取り上げられている問題だ.また,「どうして勉強しないといけないの?」という小中学生の素朴な問いもありえる.これらの問いに自分の言葉で真正面から答えられるか.これは,人物を判断する一つの目安になるだろう.

富田隆(駒沢女子大学教授)

ムチで叩かれたり食事を取り上げられたりといった苦痛を避けるために勤勉を装う奴隷と,左遷や減棒といった不安を避けるために渋々働くビジネスマンの間に,基本的な違いはない.

渋々働くだなんて,なんと不幸なことだろう.何のために,今を生きているのか.ここでは自発性の有無が問われている.自発的に生きるためには,夢や目標を持つことが大切になる.今為すべきことに全力で取り組むことが重要になる.

香山リカ(精神科医)

実はこの「自分を信じる心」は,人生を前向きに進んでいく上で,もっとも大切なものです.そしていったんそれを失ってしまうと,人からいくら「自分を信じなさい」と言われてもなかなか取り戻せないものでもある.

「自分を信じる心」を持ち続けられるかどうかについては,親をはじめ周囲の人間の影響が大きいと思う.自分の全存在が肯定されているという安心感を持って育てば,いくらでも自分を信じられるだろう.常に周囲と比較され,条件付きの愛情しか与えられなかったならば,自分を信じる心は育まれない.こういうことも含めて,自分の力で大きくなったなどと夢にも勘違いをしないことだ.

玉木正之(スポーツライター)

「職業は?」「会社員です」「どんな仕事をしてるの?」「サラリーマンです」こんな会話を,よく耳にする.が,そんな馬鹿な話はない.会社へ行くことが職業なのか?サラリーをもらうことが仕事なのか?(中略)平尾誠二の率いた日本代表チームは,チームの一員に選ばれて喜んでいるような選手は不要だといった.チームのなかで,自分が何をしたい,という明確な意志のない選手は必要ないと.

スポーツに限ったことではない.なんとしてでも大学でこれをしたい,研究室であれをしたい,そういう強い意志がなければ,一体何が身に付くというのだろう.意志がなければ道は開けない.機会も訪れない.それは環境の問題ではなくて,本人の問題だ.

中野孝次(作家)

名刺上の地位がそのまま自分の人間的な力と錯覚した人間たちの悲喜劇を,この数年間さんざん見て来た.(中略)巨大会社の重役や社長でも,その名刺上の肩書きを失って裸の一個の人となったとき,なんと威厳を欠き,誇りを失い,人間的にみじめであったか.(中略)一個の人間としての考え,思想,判断,見識,趣味,人格を,つねづね養っておく人でなければ,名刺上の自分を社会における役割と見なすことはできない.(中略)肩書きをとっぱらってなおこれが自分だといえる自分を養っておけ.

これはよく言われることだ.仕事で成功するのも立派なことだが,加えて,人間として立派になりたいものだ.いずれが大切かと問われれば,後者だと答える.