4月 292010
 

本質を見抜く力―環境・食料・エネルギー
養老孟司,竹村公太郎,PHP研究所,2008

元東京大学医学部教授の養老氏と元国交省河川局長の竹村氏の対談.副題の通り,環境,食料,エネルギーなど昨今騒がれている問題を広く取り上げている.対談だけに極論,暴論も混じっているが,頭の体操にはいい.面白く読めた.特に,竹村氏の問題の把握の仕方に興味をそそられた.竹村氏の文明論を読書候補リストに加えておこう.

前述の通り,本書「本質を見抜く力」は,養老氏と竹村氏の対談で構成されているのだが,第六章「日本の農業,本当の問題」のみ特別鼎談となっており,農業経済学者の神門氏が加わっている.専門家とはこういう人のことを指すのだろう.その指摘に,日本の農業の現状に,大きなショックを受けた.神門氏の発言を以下に抜粋して引用する.

農水省は5年以内に耕作放棄地を解消すると2007年に宣言したけれど,本音のところは,耕作放棄地の解消どころか,どれだけ耕作放棄地があるかを把握する気もないはずです.何かアリバイ的に法制度をいじくって終わりにするんじゃないですか.

農地の有効利用を阻んでいるのは,自然環境や農業生産技術の問題ではありません.農業生産にはさほど関心がないのに,漠然と将来の転用を期待して単なる資産として農地を持っている人達が多すぎます.こういう人たちは地域の計画的な土地利用や水管理にも非協力的です.

一部の片手間農家の目的は,農業収入ではなく,農地を使った「錬金術」です.いろいろな「錬金術」がありますが,代表的なのは,「保護すべき農地」の指定制度を,地権者に有利なように操作することです.普段は「保護すべき農地」の指定を受けて税金の減免とか農業補助金を享受する.そして,ショッピング・センターなどの転用事案が持ち上がったら「保護すべき農地」の指定を直ちに解除させて,莫大な農地売却益を得るというものです.

「保護すべき農地」は農水省のお金で,農地の整形もしてもらえます.この整形は,農業の作業効率も高めますが,それ以上に,転用機会に遭遇したときの農地の価値を高めます.「転用のための農地整形」とよく皮肉られます.

優良農地がどんどん耕作放棄され,無秩序に転用されています.そして,研究者もマスコミも農地利用の無秩序化という辛らつな現実から目をそむけています.日本農業は諸外国の農産物流入で崩壊するのではありません.片手間農家などの地権者のわがままと,それを容認する行政・研究者の無責任のせいで,自壊に向かっています.

要するに,日本の農業は正直者が馬鹿を見るように制度化されてしまっており,農水省や農協はそれを正すどころか,逆に強化しているのが実態だという.マスコミに期待できないことは改めて言うまでもないだろう.報道の自由を御旗に,真実の一面だけを大袈裟に取り立てて,ワイドショーに仕立てあげるばかりだ.

本書「本質を見抜く力」を読んで,地理学と博物学を見直した.もっと幅広い知識を身に付けないと,しょうもない人間で終わるなと自戒した.

目次

  • 人類史は、エネルギー争奪史
  • 温暖化対策に金をかけるな
  • 少子化万歳!小さいことが好きな日本人
  • 「水争い」をする必要がない日本の役割
  • 農業・漁業・林業 百年の計
  • 特別鼎談 日本の農業、本当の問題(養老孟司&竹村公太郎&神門善久)
  • いま、もっとも必要なのは「博物学」

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