5月 112010
 

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
岩崎夏海,ダイヤモンド社,2009

まさか,ドラッカーの名を冠する本が,こんな装丁で登場してくるとは...

しかも,ドラッカーのマネジメント論を実践する女子マネージャーがAKB48のメンバーをモデルにしてるだなんて...

一日(つまり往復の通勤バスの中)で読んだが,秀逸だと思う.第一に,話の筋が単純明快で余計なことを考えなくていい.第二に,企業経営ではなく,誰にもイメージしやすく,かつドラッカーのマネジメント論の適用対象としてはみなしていない高校野球を対象にしている.第三に,すぐ読める.

ドラッカーの代表作に「経営者の条件」があるが,これを「社長の条件」だと思っているようでは話にならない.ドラッカー=企業経営みたいな捉え方は偏狭だ.もっと広く,成果をあげるべき人達を対象にしているのがドラッカーだ.つまり,おおよそ誰であっても対象になりうる.しかし,そうは言うものの,ドラッカーを読んで,いざ実践しようとすると,多くの人は当惑するに違いない.それは,自分が直面する,この個別的かつ具体的な状況に,ドラッカーの言葉をどのように適用すればいいかがわからないからだ.

本書「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」は,高校野球という日本人が親しみやすい題材を取り上げ,企業経営とは異なる状況でドラッカーのマネジメント論・組織論を適用するとはどういうことかを疑似体験させてくれる.

「野球部の『顧客』って誰なのかな?」

「え?」

ドラッカーは「企業の目的と使命を定義するとき,出発点は一つしかない.顧客である.」と述べている.ここから生まれた質問が,「野球部の『顧客』って誰なのかな?」である.かなり難しい問いに思える.ドラッカーの「マネジメント」を手にした女子マネージャーが,マネージャーの務めを果たすために,この問いの答えを探す.

「私,知っているの.一人,野球部に感動を求めている顧客がいることを! そうなんだ,彼女が顧客だったんだ.そして,彼女が求めているものこそが,つまり野球部の定義だったんだ.だから,野球部のするべきことは,『顧客に感動を与えること』なんだ.『顧客に感動を与えるための組織』というのが,野球部の定義だったんだ!」

この野球部の定義をどう思うかはどうでもいい.大切なのは,自分の問題にあてはめることだ.研究室でも,クラブでも,バイトでも何でもいい.とにかく,自分の問題として考えてみること,そして実践してみることだ.それができないなら,こういう本を100冊読んでも恐らく何の意味もないだろう.

この女子マネージャーは固い決意でマネジメントを実践していく.

「私には,マネジャーとして,野球部に成果をあげさせる責任があるわ.野球部を甲子園に連れていくことが,私の責任なの」

本書「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」は,ドラッカーの「マネジメント」の入門書あるいは副読本という位置づけになるだろう.もちろん,本書に続けて「マネジメント」を読んでみることを勧めたいが,それ以上に,とにかく,本書に書かれていることだけでもいいから,実際にやってみるべきだろう.

そう言えば,本書を読んで,「ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か」(エリヤフ・ゴールドラット,ダイヤモンド社)を思い出した.「制約条件の理論(Theory of Constraints; TOC)」を世に広め,一世を風靡した本だが,これもドラマ仕立ての入門書だ.対象がスケジューリングなので,マネジメントよりもマニアックではあるが.いずれにせよ,この種の入門書の果たす役割は大きいのだと改めて実感した.

目次

  • プロローグ
  • 第一章 みなみは『マネジメント』と出会った
  • 第二章 みなみは野球部のマネジメントに取り組んだ
  • 第三章 みなみはマーケティングに取り組んだ
  • 第四章 みなみは専門家の通訳になろうとした
  • 第五章 みなみは人の強みを生かそうとした
  • 第六章 みなみはイノベーションに取り組んだ
  • 第七章 みなみは人事の問題に取り組んだ
  • 第八章 みなみは真摯さとは何かを考えた
  • エピローグ