6月 022010
 

米国ジョージア工科大学(Georgia Institute of Technology; GeorgiaTech)の川尻先生に講演していただいた.米国カーネギーメロン大学(Carnegie Mellon University; CMU)でPh.D.を取得後,ドイツのマックスプランク研究所に研究員として務め,その後,GeorgiaTechに移られている.そのような経歴の持ち主なので,こちらからお願いして,研究の話に加えて,日本人の目から見た米国の大学教育・大学院教育について話をしていただいた.

基本的に,米国の大学システム(工学系)には修士という中途半端な学位はない.というか,修士に価値がない.学部で就職するか,Ph.D.(博士)を取得するかだ.例外的に,Ph.D.取得に失敗した学生が修士課程に入ることになる.つまり,大学院に進学するということは,博士論文を書いて,博士を目指すことを意味する.この時点で,日本とは大違いだ.

米国では,大学院に進学した学生には生活費が支給される.贅沢を言わなければ,大学に通って,十分に生活できるだけの経済的援助が約束される.この約束をしないような大学院には,優秀な学生は来ない.日本でも大学院生,特に博士後期課程の学生への経済的援助を強化する動きがあるが,まだまだ危うい.この点でも,米国と日本とは違う.

大学院に在籍する期間は5〜6年(日本だと標準5年).Ph.D.を取得すれば,好待遇で産業界に迎えられる.GeorgiaTechの化学工学の場合,Ph.D.を取得した学生の初任給は,平均でUS$80,000〜100,000らしい.日本の大学を卒業して日本企業に就職する場合の約2倍といったところか.ここでも,日本とは大違いだ.

米国の大学院に進学するためには,GRE(Graduate Record Examinations)という共通学力テストとTOEFL(Test of English as a Foreign Language)という英語テストを受験して,その成績を提出する必要がある.いずれも日本国内で受験できる.日本の大学院入試であれば,それぞれの教授が作成した癖のある問題を,そこまで出向いていって解かなければならない.ここでも,米国と日本は随分と違う.

いま,日本の大学に在学している学生で,大学院進学を考えている場合,アメリカの大学院への進学を検討しない理由はないように思われる.不合格なら日本で進学すればよいだけのことで,合格すれば経済的な心配もいらず,まともに勉強・研究していれば就職も問題ない.まあ,人種のこととか,ややこしいこともないわけではないだろうが...

さらに,耳寄りな情報がある.近年,中国,インド,韓国あたりからの留学生が非常に多く,逆に日本人留学生が極端に少ないため,日本人からの受験者は比較的有利だということだ.

合格者は,二泊三日などの日程で大学に招待される.旅費は大学持ち.滞在中は至れり尽くせりのもてなしを受ける.優秀な学生を獲得するために,大学間で熾烈な競争があるからだ.日本では考えられない.いや,知らないだけで,やっているところはあるのかも.

極めて遺憾なのは,日本の大学の教員が,こうして米国の大学院への進学を勧めてしまうという現実だ...

日本では,大学の国際化とかが叫ばれるが,あまり本気とは思えない.国策として,莫大な資金を投じて,シンガポールのNational University of Singapore(NUS)や韓国のKorea Advanced Institute of Science and Technology(KAIST)などが世界中から人材を集めまくって,世界トップレベルの研究拠点になろうとしているのに対して,日本では大学の予算を削るばかりだ.知が力であることを認識していないのか,それとも本気で戦う気がないのか.

まぁ,ともかく,どこに進学するにしても,就職するにしても,自分の人生だ.楽しんで生きていこう.

  4 Responses to “アメリカの大学院を目指してみよう”

  1. 不覚にも今から大学院入りなおそうかな、と思ってしまいました(笑)。

    そう考えると日本の大学院は不遇ですね。。。

  2. 大学も企業も,世界中から人材を集めるだけのことはありますよね.

    日本は,全体として何がしたいのか,よくわかりません.

    大学の国際化と言うけれど,国際化して留学生を受け入れたとして,彼らを日本の企業は雇えるのか.それだけの魅力があるのかという意味も含めて.雇えないとしたら,日本人の税金で日本で働かない外国人を教育して,何がしたいのか.

    それに,英語で講義をしないかぎり,頭の良い学生は日本になんか留学してきません.来るのは,アニメ・マンガ好きくらいです.日本に成長力がないことくらい見ていますから.しかし,英語の講義に切り替えれば,一時的に,英語の下手な教員が英語のわからない学生相手に講義をするわけですから,大学のレベルが落ちることを覚悟しないといけないでしょう.その覚悟があるのか.

    そもそも,アメリカの大学のコピーを目指すことが,日本の最高学府がなすべきことなのかという疑問もあります.これは教育とは何かという話に関わります.日本の将来をどうしたいのか,そのために大学はどうあるべきか,そういう議論が必要なわけですが,さて,日本はどうするのでしょうね.

  3. 「例外的に,Ph.D.取得に失敗した学生が修士課程に入ることになる」というのは正確ではありません。アメリカの工学系大学院にも修士コースは日本と同様に存在し、特にPh.D.を目指していない人も最初から修士コースに入ることは普通です。ランキングでトップ5に入るようなところはよく分かりませんが、普通は修士の人のほうがPh.D.よりも多いです。また、同じ系列の修士号を取得していないとPh.D.のコースに入れないという大学もあるので、修士をまず取得するということは日本と同様に多く見られます。
    Ph.D.を目指す人は、大学や企業の研究開発職、あるいは大学の教授などを目指している人で、修士コースを最初から選択する人は、実務的なエンジニア職に就こうとしている人です。Ph.D.は時間がかかり、普通にエンジニアとしてよい職を得ようとする人には向いていません。(大切な20代あるいは30代を研究に費やさなければならないので)これが一般的な認識です。エンジニアとして成功したいなら、さっさと修士を取って仕事をしてPEをとる、これがアメリカの大学の工学系(機械や電気、生産工学、航空工学など工学一般)では常識です。

    • H.Deeterさん,アメリカの大学院の状況を丁寧に教えていただき,ありがとうございます.いただいた情報をもとに,記事も修正するつもりです.

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