6月 262010
 

前回,「クリシュナムルティの教育原論―心の砂漠化を防ぐために」を参照して,不安や恐怖について書いた.今回は,クリシュナムルティがインド工科大学(IIT)に通う,世間的には「エリート」とされる学生を対象に行った講話から,彼の言葉を引用してみよう.

政府も国民も,ただひたすらおのれの安泰,権勢,知識,金銭を得ることに汲々としているので,現実の惨状を少しも気にかけていません.現代文明は権力と金銭に基づいているのです.そして学生諸君はいずれも,模倣の職業を探して安定を確保すべく,試験に合格して学位を取るよう訓練されているのです.つまり,工学博士号と等々を取得して,この国またはアメリカで就職なさるわけです.今日の午後聞いた話では,皆さんのうち30パーセントは,収入がいいのでアメリカに行ってしまうそうですね.それが皆さんの知識の行き着く先なのです.

そこでお尋ねしたいのですが,もしも皆さんがいやしくも真剣なら−そして青年は一般に,ある一定の物事については真剣ですが−現在進行中のこういったあらゆることに対して,どう対処されますか? そういったものから身を引いて,どこかの偏狭な団体やアシュラム(修道場)に入ったり,巨額の金銭を巻き上げているグルに従ったり,あるいは世の中に入り,そこに埋没して,自分なりの人生を送るのですか? では,皆さんの存在目的は何なのですか? 皆さんの存在にはどんな意味があるのですか?

人生の目的は,単に収入を得,結婚し,家を建て,地位,権勢を得ることだけなのでしょうか? 見たところでは確かにそうです.皆さんはひたすらそのために訓練されているのです.

(中略)

私たちはこの地球上で4,5万年もの間生きてきました.私たちは進化し,おびただしい涙を流し,笑い,あるいは苦痛や不安に悩まされてきたのですが,にもかかわらず旧態依然として利己的で,狭量で,もっぱら自分自身の利害のみにこだわって,他のことはいっさいお構いなしなのです.これは隠しようのない事実です.

そこでお尋ねしたいのですが,皆さんは自分の生を無駄にしてはいませんか? 出来合いの答えを持たない,複雑きわまりない生,広大で,それゆえ何かとてつもなく神聖なものである生を? そして皆さんはこれにどう応えるおつもりですか? 老若を問わず,皆さんはこの問いに答えねばなりません.

さて,日本の高学歴な若者は,これを聞いて,何を思うか,思わないか.もちろん,壮年,老年の人達を含めてもいい.彼らの精神が柔軟なら.

偏差値が高い低いなんて,本来はどうでもよい属性の1つだろう.そんなものに支配されるような生き方はお薦めしない.

自分の人生において,何をすれば,本当に幸せになれるんだろうね? というより,幸せって何だろうね? 考えてみたことある? まあ,そこからかな.

  2 Responses to “エリート大学生へのメッセージ”

  1. いつも興味深く,刺激になる記事をありがとうございます.

    現代では,歴史の選別を経て生き残った非常に価値のある古典を読むことができます.特に印刷術,物流が高度に発展に発達した現代「文明」では安価に古典を学ぶことができます.しかしながら,記事に指摘されている通り,現代を生きている我々は旧態依然としているという事実は非常に重い事実であると感じています.美か醜かと問われれば醜と答えざるを得ないと思います.人生の幸福については重要なテーマであるのに,多くの人が日常の多忙等を理由に,考察を先送りにしているような気がします(私の主観です).

    私が個人的に考える幸福とは,社会に必要とされるときは進んで自らの才能を以って貢献し,社会から不要と判断されたときには速やかに退き,自らの修養に努める.自らが社会に必要とされているか否かは幸福とは関係ないと考えています.

    話がまとまらなくなり,恐縮です.未完成の考察ですが,現在思いの至っている範囲は以上のような水準です.

  2. 凄く強いと思います.「自らが社会に必要とされているか否かは幸福とは関係ない」と思える人は少ないと思います.

    子曰く,人の己を知らざるを患えず.人を知らざるを患う.
    (論語・学而篇)

    いまだに私は,これだけの潔さを持てていません.難しいですね.ただ,私は幸せであり,そのことに心から感謝しています.

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