7月 312010
 

子供手当とか高速道路無料化とか,およそ本質的な問題とは思えない,些末なことばかりを政治家もマスコミも取り上げるのはなぜだろうか.声のでかい国民が自分のことしか考えない利己的な輩ばかりだからというのが答えだろうが,そうしているうちに,日本の将来には暗雲が立ちこめてきている.

先進国の中で最も教育投資をしていない国は日本である.GDPに対する教育予算の比が指標として取り上げられることが多いが,その指標において,日本は経済協力開発機構(OECD)加盟国中最下位である.もちろん,文部科学省は教育予算増額を求めるが,財務省は首を縦に振らない.

そのような状態にもかかわらず,日本の若者の学力は国際的に高い水準を維持してきた.これは義務教育を中心にした教育現場の努力によるものだろう.

しかし,経済協力開発機構(OECD)による国際学力調査(PISA; Programme for International Student Assessment)の結果では,日本の学力は低下傾向にあり,トップグループとは明らかな差があるとされている.日本の教育水準は高いというのは,もはや過去の幻影でしかない.

天然資源に恵まれず,左団扇の暮らしなど望めない日本では,政府が「科学技術立国」あるいは「物づくり大国」を標榜している.科学技術や物づくりで世界に貢献しようというわけだが,日本における科学技術や物づくりの担い手は誰だろうか.グローバル化が進むと,誰でもできる仕事は低賃金の地域に移動する.途方もない数の労働人口を抱える中国やインドで安価につくれるものを日本でつくろうとしても,それは経済的に成立しえない.日本以外ではつくれないものをつくるのが日本の物づくりであり,それを支える科学技術を開発できる研究者が日本には必要なのだ.そのような人材を輩出する責務は大学や大学院にある.

自分が大学に勤務しているということを割り引いても,大学における人材育成の重要性は揺るぎない.

ところが,大学における人材育成を強化するどころか,日本政府はそれとは逆の政策を推し進めようとしている.先日,大学で教職員宛に送付されたメールの書き出しを以下に示そう.

先般、閣議決定された「財政運営戦略」において「中期財政フレーム」が示されましたが、このフレームがそのまま実施されますと、国立大学法人運営費交付金(人件費・物件費ともに)が、平成23年度から毎年8%、今後3年間で計24%削減される可能性があります。

国立大学法人運営費交付金というのは,大学を運営するための基本経費のことであり,教職員の給料はもちろん,例えば学生の机や椅子などを購入するために使われる.既に猛烈な勢いで大学への予算は削減されてきたが,それを今後3年間でさらに計24%削減しかねないわけだ.文部科学省の試算では,削減額は3年間で約927億円に上り,仮に特定の大学への交付停止で削減を達成するなら,大阪大学と九州大学の2大学を潰すか,地方大学や小規模大学27大学を潰すかしなければならない規模になるという.

当然,「大阪大学と九州大学の2大学を潰す」などという決断を政府や役所ができるはずがない.名指しで地方大学や小規模大学を潰すこともできないだろう.そうすると,すべての大学で平等に運営費交付金を減らしましょうということになる.誰も責任を取らないと,全く戦略のない悪平等がすべてをダメにしてしまう.

大学で人件費を削ろうとすると,まず何をするか.企業と同じで,新規採用をやめることになる.誰かが定年退職しても,人員を補充しない.そうすると,組織は高齢化し,年を取った偉い先生ばかりで,若い研究者がいなくなる.そのような研究機関が素晴らしい成果を出せるはずもない.しかし,それが,これからの日本の大学の姿だ.

未来の日本のために,日本の大学をどうすべきなのか.正しく舵取りしないと,日本の衰退を加速させることになる.日本の大学に教育・研究機関としての魅力がなくなれば,優秀な人材は海外に活躍の場を求めるだろう.優秀でない人達は留まるほかない.つまり,泥舟から逃げ出せるのは優秀な人であり,このことが日本の大学の弱体化を加速させる.

教育予算を単純に増やせばいいとは思わない.少なくとも大学に関しては,大学の責務を明らかにして,その責務を果たすために予算を使うべきだ.勉強もしない学生の面倒を税金でみる必要はない.保育園やレジャーランドと化した大学に,大学として税金を投入する必要もない.レジャーは本人の負担で楽しむものだ.もし本当に大学予算を削減する必要があるのであれば,限られた予算で最大の効果が得られるようにしなければならない.

大学はただのサービス産業ではない.ただのサービス産業は,顧客が大金を支払ってくれるなら喜んで我が儘を聞いてくれるだろうが,教育とはそのようなものではない.大学は,金を払って卒業証書を買う場所では決してない.日本の大学は大丈夫だろうか...