9月 092010
 

「なぜ,これを勉強しないといけないの?」

現行の大学のカリキュラムは,この自然な問いに答えられていないのではないかと思う.

例えば,線形代数.線形空間,線形独立,次元という概念に始まり,固有値問題くらいまでは教えるはずだが,「で?」という学生の素朴な疑問に答えているだろうか.固有値や固有ベクトルが計算できて何が嬉しいのかを伝えているだろうか.もし伝えていないとしたら,口を酸っぱくして学生に勉強しろと言ったところで,モチベーションが湧くわけがない.面白いはずがないのだから.

私はデータ解析に関連する研究に携わり,多くの企業と共同研究をさせていただいているが,データ解析なんて線形代数そのものだ.様々なデータ解析手法があるが,その多くは,結局,固有値分解あるいは特異値分解に帰着する.だから,私のグループに加わってくれる学生には,まず初めに,線形代数を復習してもらわなければならない.しかし,単に線形代数を勉強しろと言ったところで,熱意を持って勉強できるはずがない.とにかく,何の役に立つのかを見せる必要がある.

GoogleのPageRankだって,ウェブサイトのリンク関係を行列で表現し,その固有値問題を解いている.

人間,必要に迫られれば,何事も必死に修得する.研究成果を挙げるために線形代数が不可欠だとわかれば,勉強する.必死さがあれば,修得も速い.そういう観点から,今の大学教育は壮大な無駄をしているのではないかと思う.学生にモチベーションを与えるという意識が欠落しているように思われる.

勘違いしてもらっては困るのだが,「すぐに役立たない学問は無駄」と言っているのではない.むしろ私は,いけすかないと思われようが,教養主義の復活を望む.昨今の風潮は,あまりに近視眼的,あるいは功利主義的になりすぎてはいないか,と思う.

学生の学力低下を嘆く以前に,教員の質の低下を憂うべき,という意見がある.確かに,そうかもしれない.我が身を振り返り,反省させられる.

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