10月 162010
 

世界でもっとも美しい10の科学実験
ロバート・P・クリース(著), 青木薫(訳),日経BP社,2006

「そもそも実験が美しいってどういうことだ? 実験装置がピカピカってことか? まさかな.では,美しいって一体何なんだ?」

本書のタイトルを読んで,このような疑問を抱く感性のある人は,本書「世界でもっとも美しい10の科学実験」を大いに楽しめるだろう.というのも,本書は単に実験を紹介しているだけではなくて,科学における美とは何かという哲学的問題を一貫して扱っているからだ.プラトンのイデア論など多少の哲学の知識はあった方が良いのは言うまでもない.それでも,そういった知識がなくても,偉大なる科学実験がどのように行われ,それらが世界の常識をどのように覆したかを知ることは大変興味深い.本書では,紀元前の実験から始まり,量子力学の実験に至るまで,10の科学実験が時系列に並べられているので,壮大な科学史を窺い知ることもできる.

投票で選ばれた,これら10の科学実験には共通点がある.その1つが「美しい」ということなのだが,美しくあるための要素として,シンプルなのにインパクトが強烈であることが挙げられる.本書では,デモンストレーションという言葉が使われている.例を挙げよう.

  • エラトステネスは地球の外周の長さを測定したが,もちろん,地球にメジャーを巻き付けたわけではない.棒の影の長さを計っただけだ.それで,地球の大きさが分かるなんて!
  • ガリレオはピサの斜塔から球を落として,地面に落ちるまでの時間は重さに関係ないことを示したとされる.小学生にもできる実験だが,重いものが速く落ちると感じてしまう人間の常識を覆した!
  • ニュートンは誰でも知っているプリズムを使って,白色光は様々な色の光が集まったものであることを示した.それまでは,白は白でしかないと信じられていたのに!
  • フーコーは巨大な振り子を使って,地球の自転を人々に見せた.これにはナポレオンも度肝を抜かれた!
  • ヤングは2つの細い隙間(二重スリット)に光をあてて,光が波であることを示した.科学界の大御所たちは光は粒子だと宣言していたのに!
  • そして,ファイマンは光の代わりに電子を二重スリットに打ち込んだ.すると,弾丸が小さな穴を通ったかのように,壁(写真乾板)に電子の銃痕ができる.ところが,電子を次々と撃つと,やがて壁には干渉縞が現れる.つまり,電子は波でもある.発射したとき,電子1つがあった.着弾したとき,電子1つがあった.その間,一体全体,電子はどこにいたのか? 右のスリットも左のスリットも通ったから干渉縞ができた.ファイマンの実験は思考実験であったが,後に実際に実験が行われた.人類の世界観を根底から覆す実験が!

この最後の二重スリット実験が,世界で最も美しい実験に選ばれた.

目次

  • 移り変わる刹那
  • 世界を測る―エラトステネスによる地球の外周の長さの測定
  • 球を落とす―斜塔の伝説
  • アルファ実験―ガリレオと斜面
  • 決定実験―ニュートンによるプリズムを使った太陽光の分解
  • 地球の重さを量る―キャヴェンディッシュの切り詰めた実験
  • 光という波―ヤングの明快なアナロジー
  • 地球の自転を見る―フーコーの崇高な振り子
  • 電子を見る―ミリカンの油滴実験
  • わかりはじめることの美しさ―ラザフォードによる原子核の発見
  • 唯一の謎―一個の電子の量子干渉

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