10月 202010
 

もちろん,「アキレスと亀」の話は知っている.等比級数の和を計算すれば,たとえ無限個の数字を足し合わせないといけないとしても,アキレスが亀に追いつく場所と時間は分かる.

でも,そんなことではない.それでゼノンが提示したパラドックスを解決したと思うようでは愚劣なのだ.

遅ればせながら,そんなことを知った.自分の愚劣さを晒すばかりだが,ひょっとしたら私以外にも同類がいるかもというわけで,ちょっと紹介.

「アキレスと亀」のパラドックス

ゼノンが言うには,「俊足のアキレスでさえ,のろまな亀に追いつけない」とのこと.

なぜか.まず,アキレスは競争を始めるときに亀がいた位置まで走らなければならない.しかし,その間にも亀は前に進む.そこで再び,アキレスは亀の位置を確認し,そこまで走るわけだが,その間に亀はさらに前に進む.この,アキレスが進むと亀はさらにその先へという一連の動きはどこまでも永遠に続く.こうして,いつまでたっても,アキレスは亀に追いつけない.

アキレスと亀:アキレスが進むと亀はさらにその先へ
アキレスと亀:アキレスが進むと亀はさらにその先へ

アキレスは亀に追いつく

しかし現実には,アキレスは亀に追いつき,そして追い越す.それも,いとも簡単に.

具体的に考えて見よう.最初,アキレスは亀の後方 1m のところからスタートし,アキレスが 1m/s,亀がその半分の速さで動くとする.

1回目.アキレスが亀が元いた位置に行くのに,1m ÷ 1m/s = 1s かかる.この 1s の間に,亀は 1s × 1/2m/s = 1/2m だけ進む.

2回目.アキレスが亀が元いた位置に行くのに,1/2m ÷ 1m/s = 1/2s かかる.この 1/2s の間に,亀は 1/2s × 1/2m/s = 1/4m だけ進む.

3回目.アキレスが亀が元いた位置に行くのに,1/4m ÷ 1m/s = 1/4s かかる.この 1/4s の間に,亀は 1/4s × 1/2m/s = 1/8m だけ進む.

これが永遠に続く.つまり,アキレスが亀に追いつくために必要な時間は,

1 + 1/2 + 1/4 + 1/8 + … = 2

となる.この計算は簡単で,仮に

X = 1 + 1/2 + 1/4 + 1/8 + …

とすると,両辺に 1/2 を掛けて,

1/2 X = 1/2 + 1/4 + 1/8 + …

となるので,上の式から下の式を引くと,

1/2 X = 1

を得る.したがって,X = 2 となる.つまり,アキレスが亀に追いつくために必要な時間は 2s であり,追いつくまでにアキレスが走った距離は 2m である.

アキレスと亀:アキレスは亀に追いつく
アキレスと亀:アキレスは亀に追いつく

ゼノンはアホだったのか

このように,恐らく高校で勉強する等比数列の和を計算すれば,アキレスが亀に追いつくことは明らかである.

こんなのパラドックスでも謎でも何でもない.ゼノンって人は,アホだったのか?

普通の人は,ここで思考が停まっているのではないだろうか.私はそうだった...

ゼノンが問うたもの

ゼノンがパラドックスの形を借りて主張したのは,「アキレスは亀に追いつけない」なんて,どうでもいいことではない.

では,ゼノンが問うたものは何だったのか?

難しいことはさておき,次の問いに答えて欲しい.

アキレスには,亀がいた位置に到達するごとに,数を数えてもらう.では,アキレスが亀に追いついたとき,アキレスは何番目の数を数えていたのか?

何番目かが難しければ,奇数か偶数かだけでも教えて欲しい.

アキレスと亀:数を数えるアキレス
アキレスと亀:数を数えるアキレス

「そんなの無限に決まっている」と答える人に問いたい.

計算が正しければ,アキレスは2秒で亀に追いつくのですよね.つまり,2秒で数え終わったんですよね???

さて,どうなっているのだろうか...

世の中,本当に色々なモノの見方があるものだ.自分がいかに表面的にしか物事を考えずに,それで満足しているか.そのことに愕然とする.

この話は,「無限論の教室」(野矢茂樹,講談社,1998)で勉強した.