10月 252010
 

重い.実に重い...

この大ヒットしたブロードウェイミュージカル”Spring Awakening(春のめざめ)”を観劇した大人は,思春期の頃の自分をメルヒオールやベンドラに重ねつつ,今の自分を彼らの父親や母親の姿に重ね合わせるのだろう.それだけではない.私の場合,厳格で権威的で,かつ狡猾な校長や教師も自分を重ねる対象となる.ストーリーそのものは単純明快だが,大人と子供,そして社会との関係について考えさせられる内容だ.死も含めて...

「春のめざめ」は,極めて保守的な19世紀のドイツを舞台に,思春期の子供たちの性的なめざめをストレートに表現した作品.劇作家フランク・ヴェデキントが1891年に本作「春のめざめ」を発表した当時の社会は,この内容を受け入れられるようなものではなかったのだろう.この戯曲が上演されるのは21世紀を待つことになるが,内容も演出も斬新な「春のめざめ」への反響は大きく,2007年にはトニー賞主要8部門を受賞している.

良かったが,スッキリとはしない.メルヒオールは,社会を恨まず,自責の念を克服し,生きていけるのだろうか.

今回,ブロードウェイミュージカル”Spring Awakening(春のめざめ)”を劇団四季京都劇場で観劇した.「WICKED(ウィキッド)」,「A CHORUS LINE(コーラスライン)」に続いて今年3作目のミュージカル観劇となる.

「春のめざめ」についての蛇足

途中,メルヒオールの自宅に悩めるモリッツが訪ねてくる場面がある.メルヒオールの母親は,モリッツの顔色が悪いのではと心配しつつ,メルヒオールがゲーテの「ファウスト」を読んでいることに戸惑いを隠せない.

ここで,ふと疑問が湧いてきた.劇場には実に多くの観客が来て,この「春のめざめ」を見ているが,ファウストを読んでいる息子に,なぜ母親が戸惑ってしまうのかをわかる人はどれくらいいるのだろうか.つまり,ファウストを読んだことがある人が一体どれくらいいるのだろうか.

ファウストと言えばヨハーン・ヴォルフガング・ゲーテの代表作であり,世に知られた,非常に技巧的な詩である.でも,それだけであれば,母親は戸惑う必要などない.ましてや,メルヒオールもモリッツもそんなものを好き好んで読みはしていなかっただろう.悪魔メフィストフェレスと契約したファウストが何をしたかを知っていれば,この母親の苦悩はよくわかる.

米原万里氏が「不実な美女か貞淑な醜女か」において,帰国後,ほとんどの同級生が誰も文学史に載るような作品を読んでいないことにショックを受けたと告白しているように,古典の作者とタイトルの組み合わせを○×問題で解答はできても,中身は一切知らないなんていうのが日本の実情だろう.竹内洋氏が「教養主義の没落―変わりゆくエリート学生文化」で呟くように,今更,西洋万歳の教養主義が復活する必要などないだろうが,そうは言っても,海外の古典を知らないと海外の文化を楽しみ尽くせないのも確かだ.

ともかく,メルヒオールに共感すると自称するなら,「ファウスト」を読んでみるといい.なぜ彼がファウストを読み,母親が困惑したかがハッキリとわかるだろう.それだけではない.そこに,ベンドラの姿も見てとるはずだ.崩壊していく家庭の悲惨ささえも...

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