11月 102010
 

趣味は読書。
斎藤美奈子,平凡社,2003

実に面白い.大いに刺激を受けた.

本書「趣味は読書。」は,「打ちのめされるようなすごい本」(米原万里,文藝春秋)に紹介されていた.自分とは異なる視点・感性による本の読み方に触れられることを期待して,読書候補として列挙した本の中で最初に手にした.

本書「趣味は読書。」は,雑誌に連載された書評をまとめたものだが,対象としているのはベストセラーのみ.世間で騒がれているので気にはなるけど読んではいないベストセラーを,斎藤美奈子氏が読者の代わりに読んで報告してくれるという構図になっている.斎藤氏曰く「読書代行業」だそうだ.なお,報告とはいっても,超毒舌だ.

この連載のタイトルは「百万人の読書」.百万人が読んでいればベストセラー(ミリオンセラー)ということだが,そもそも,ベストセラーを読んでいるのは誰なのか.本書はこのような問いで始まる.

まず確認される事実は,読書する人の少なさである.百万人が読めばベストセラーと言っても,テレビの視聴率に換算すれば高々3%程度にすぎない.日本人全体で見れば,ほとんど無視されているようなものだ.NHKの調査によると,1日24時間のうちに,テレビを見る人92%(平均4時間7分),新聞を読む人48%(平均46分),本を読む人12%(平均1時間17分)だそうだ.読書人口は実に少ない.この読者を,斎藤氏はいくつかのグループに分類する.偏食型,読書原理主義者,読書依存症といった治療が必要な人々とは別に,読書人の多数派を占めているのが「善良な読者」であろうと推測する.「善良な読者」とは,趣味は読書と自他共に認め,本を読むのは良いことだと信じていても,教養だの古典だのと偉そうなことは言わず,本の質や内容も問わない人達だ.この「善良な読者」に支持される本がベストセラーになるというのが,斎藤氏の推論だ.そして,その「善良な読者」に支持されたベストセラーを,「邪悪な読者」である斎藤氏が評している.

斎藤氏の報告は痛烈だ.まえがきに相当する「本、ないしは読書する人について」には次のような記述がある.

(読書原理主義者の)中には読書とスポーツを混同する武闘派までいて,声に出して本を読めだの,本に三色ボールペンで線を引けだの,人の世話まで焼きはじめる.朝の10分間読書運動なんてのを発明したのも,読書原理主義者のしわざだろう.毎朝教室でいっせいに本を読むとは,ふん,ラジオ体操かい.読めといわれりゃ,そりゃ子どもたちは読むだろう.しかし,ラジオ体操でスポーツに目覚めた子がいるか?

少しばかり報告の例を示しておこう.

大野晋の「日本語練習帳」.この本が楽しめるのは,よほど「インテリゲンチャなじっちゃん」だけではあるまいか.だってこれ,そうとう難儀な,要するに「クイズ本」だもの.え,なぜいま彼らがクイズ本なのかですか? 理由はひとつしか考えられませんね.ぼけ防止,でしょう,たぶん.

高森顕徹の「光に向かって100の花束」.これってつまり「死ぬまでラッパを離しませんでした」式の話を集めた修身の教科書の出来損ないじゃんか.読書という行為が,なにか決定的な解体にさらされている気がする.これでいいなら編集者なんて職業はなくていいってことになる.みんな目を醒ませ!とかふつうにいってももう通じないのか.よし教訓じゃ.花束も,腐っていれば,ただのゴミ.なぜ売れる,これが続けば,書の破滅.

浅田次郎の「鉄道員」.さよう,「鉄道員」は「牡丹灯籠」もかくやの怪談なのだ.幽霊が育っていくって不気味.それを怪談とだれも認識せずにいるのも不気味.古典的な怪談を聞く機会が減ってしまった現代ならではの現象なのかもしれないが,日本中が娘の幽霊に心を洗われてさめざめと涙を流すの図.それが一番の怪談である.

大橋巨泉の「巨泉 人生の選択」.そんな老後,巨泉にいわれなくても,ブルジョア階級の連中は明治の昔からとっくに実現してるわ.それをわざわざいま,若い読者に吹聴する意図は何なのか.幸せを分けてあげたいって? 本気でそう思っているなら想像力の欠如したドのつくノーテンキだし,本気じゃないなら人をあざむく詐欺ですね.

梅宮アンナの「「みにくいあひるの子」だった私」.「パパに隠れて,私,こんなこともしてました」という告白が,この本のすべて.それで仰天するのは,事実,親だけであろう.読者にとっては,おもしろくもなんともない.

ピーズの「話を聞かない男、地図が読めない女」.だってこれ,典型的な疑似科学本だもの.べつにいえばトンデモ本.平たくいえば,まことしやかな迷信を綴った本.ここまでズサンかつ古臭いと,いっそおもしろい.

江國香織の「冷静と情熱のあいだRosso」+辻仁成の「冷静と情熱のあいだBlu」.つまり「妊娠小説」だったわけです.こんなに没個性な展開,いまどきレディースコミックだって恥ずかしすぎて敬遠するぞ.

斎藤美奈子節,全開だ.是非一度読んでみてください.楽しめます.

目次

  • 本、ないしは読書する人について
  • 読書の王道は現代の古老が語る「ありがたい人生訓」である
  • 究極の癒し本は「寂しいお父さん」に効く物語だった
  • タレントの告白本は「意外に売れない」という事実
  • 見慣れた素材、古い素材もラベルを換えればまだイケる
  • 大人の本は「中学生むけ」につくるとちょうどいい
  • ものすごく売れる本はゆるい、明るい、衛生無害

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