12月 012010
 

セックスボランティア
河合香織,新潮社,2006

誤解のないように最初に述べておくと,著者の河合香織氏はセックスボランティア経験者ではない.ルポライターとして障害者の性について書いたのが本書「セックスボランティア」だ.読み進めるうちに,というよりも,読み始めるとすぐに,障害者に対する自分の無知を痛感させられる.いや,無関心と言った方が正確なのだろう.

本書のオープニングも衝撃的だ.障害者年金をやりくりしたお金で,年1回,吉原のソープランドへ行くという男性が登場する.彼は,生命維持装置の酸素ボンベを,2時間の行為の間だけは外す.

他にも様々な障害者,そして介助者と健常者が登場する.障害者と入籍した健常者の娘に対して,その父が言う.

「どんなことをやっている奴でもいいから,普通のやつを連れてこい」

聴力を失った女子大生が語る.

「悩みを聞いてもらいに,卒業した高校へ行ったんだけど,先生は『悩みを言う前に,聞こえなくても頑張っている人がいるんだから,お前も頑張れ』と言った.それは正論だけれど,話をもっと聞いて欲しかったんだ」

養護学校の校長先生は既婚の障害者に言う.

「障害者には性欲がないと思っていましたけど,子どもができる人がいるんですね」

そう言われた障害者は指摘する.

「障害者の性を語るためには,その周囲にいる人たちが自分の性を見つめることから始めないといけません」

自身がセックスボランティアを利用した経験もある,姉御肌の障害者は言う.

「若い女性には恋愛をしろと言っています.障害を持ってセックスできるかわからない.試しに誰かとやってみたいと言うけれど,それはいつでもできる.求めてくる恋人がいればその人とやれ.後悔するかもしれないけど,障害を持って初めてのセックスだ.同じ一回なら恋人と試して傷つけ.いつもそう話しています.」

様々なエピソードを通して,著者の悩み・葛藤も伝わってくる.これまで思い浮かべることすら全くなかった障害者の性について書かれてはいるのだが,本書「セックスボランティア」を通して,生きるとはどういうことかと改めて考えさせられる.冒頭のソープランドに通う男性は「性とは生きる根本」と述べている.

日本社会全体が障害者への偏見で満ちているのはなぜか.その理由の1つに,優生保護法の存在が挙げられている.

優生保護法は不良の子孫の出生を防止することを目的として1948年に作られた法律である.遺伝性の精神疾患や顕著な遺伝性身体疾患に加え,遺伝性ではない精神障害者や知的障害者にも本人の同意なしで生殖機能を断つことができるという内容になっていた.

とんでもない法律だが,改正されたのはつい最近,1996年のことである.

本書「セックスボランティア」には,障害者の性に関する日本国内の事情ばかりではなく,オランダでの取り組みも紹介されている.流石,売春が合法化されている国ということだろうか.役所も無視していない.

「私たちは石ではない.どんな重い障害者でも性的欲求がある」との理念を掲げるSARというオランダの組織は,1980年代前半に障害者によって設立された.セックスのサービス提供者として女性13人,男性3人が登録しており,年間のべ2000人が利用しているという.利用者の9割が男性で,女性は1割にも満たないそうだ.サービスは有料で,1時間半で73ユーロとなっている.このSARのセックスサービスを利用する障害者に対して,なんと地方自治体が助成金を出している.

「助成金を受けるには条件があります.ひとつは収入が少ないこと.次に,セックスの相手がいないこと.さらに,自分でマスターベーションができないこと.これらを満たす人はとても少なくなるんです」

SARを活用する障害者がいる一方で,不満の声もある.

「SARは介護や看護関係者が多いから,障害者に対してケアしてあげたいという気持ちが強い.しかし,障害者自身は楽しいセックスがしたいだけなので,同情なんて必要ないんです」

この他,サロゲートパートナー療法なるものも紹介されている.とにかく,本書「セックスボランティア」は,自分がこれまで無関心であったことについて,実に多くの情報を与えてくれる.でも,恋愛とか性とかは,決して障害者特有の問題ではなく,障害者だろうが健常者だろうが,人間として生きるということと本質的に結びついているのだということを感じさせられる.

目次

  • 画面の向こう側
  • 命がけでセックスしている―酸素ボンベを外すとき
  • 十五分だけの恋人―「性の介助者」募集
  • 障害者専門風俗店―聴力を失った女子大生の選択
  • 王子様はホスト―女性障害者の性
  • 寝ているのは誰か―知的障害者をとりまく環境
  • 鳴り止まない電話―オランダ「SAR」の取り組み
  • 満たされぬ思い―市役所のセックス助成
  • パートナーの夢―その先にあるもの
  • 偏見と美談の間で

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