12月 152010
 

安ければ、それでいいのか!?
山下惣一(編著),コモンズ,2001

本書「安ければ、それでいいのか!?」を読む前から,私の答えは決まっている.「いいわけがないだろ!!」だ.

そして,本書を読んで,さらに私の答えは強化された.やはり,いいわけがない.安さを手に入れるために,我々が何を犠牲にしているのかを本書は教えてくれる.外食するにしても,スーパーで食材を買うにしても,いつも安いモノばかり買っている人は,要するに,自分の命(健康)と引き替えに安さを手に入れているわけだ.

敢えて,それが悪いとは言わないでおこう.それも1つの選択だ.人間なのだから,人様の権利を侵害しない限り,自分の判断で選択する自由は与えられている.しかし,そういう安物買いな人々のせいで,まともな食材が望んでも手に入らなくなるとしたら,これは放置できない問題だ.このような視点を本書は与えてくれる.

このブログでも時折触れているが,私はジャンクフードが大嫌いだ.時々,おもちゃが欲しい子供とマクドナルドに行き,おまけに付いてくるハンバーガーを口にしてみることもあるが,正直に言って,まずい.もちろん,美味しいか美味しくないかは個人の好みなので,あのハンバーガーを美味しいという人もいるだろう.食べ物を不味いと言うなんて,お天道様に顔向けできないというものだ.

しかし,本書でも,まず槍玉に挙げられるのは,マクドナルドのハンバーガーだ.健康によいと思って食べている人はいないだろうが,事実を本書で確認しておこう.

EUは報告書を公表した99年,アメリカ産牛肉の禁輸を続ける一方で,オーストラリアに成長ホルモン剤を使わない牛肉の生産と分別流通を求めた.オーストラリアはこれに応じて,成長ホルモン剤不使用の農場認定制度を発足.”ナチュラルミート”として政府が保証する体制を整えた.マックより高いモスのハンバーガーは,このナチュラルミートをパティに使用している.しかも,乳用種ではなく,アンガス種とヘレフォード種という肉用種のオス牛の肉だけを使い,経産牛は使わない.なるほど高いだけの理由がある.(注:マクドナルドは最も安くて美味しくない経産牛の肉を使用している.もちろん,ナチュラルミートではない.)

フライドポテト原料となるアメリカ産冷凍ポテトにも,発芽を抑制する薬剤クロルプロファムがポストハーベスト農薬として使用されている.日本国内でも除草剤として認められている薬剤だが,そのイモ類の登録保留基準(環境省が定めた残留農薬許容基準)は0.05ppmだ.ところが,92年に設定された輸入ジャガイモの残留基準は,この1000倍にあたる50ppm,いったい,以前の基準の科学的根拠はどうなってしまったのか.

見た目は同じようでも,輸入野菜は収穫から日数が経っているのだから,明らかに劣化しています.有名チェーンのハンバーガーに使われているレタスがいい例です.くん蒸すると葉が溶けたようになってしまうので,くん蒸を受けずにすむカット野菜に加工して入ってきていますが,あれはもう野菜ではありません.栄養分も何もない化石ですよ.(注:大阪丸促青果の和中社長の言葉)

国が定めた以上の安全基準はあくまで付加価値であって,その付加価値を徹底的にそぎ落とし,低価格を実現したのがマックのハンバーガーなのだ.これは,マックに限った話ではなく,外食チェーンの大半が,多かれ少なかれ同じような体制を敷いている.マックは,その体制を極めればこうなるという象徴ともいえる.

日本人はどうしてハンバーガーを食べるようになったのか.マクドナルドの藤田社長が構想した「米と魚を食べてきた2000年来の日本人の食習慣を,20年後に成人となる子供たちにターゲットをしぼることで変革できるという”長期大戦略”」に見事に嵌められてしまったからだと言える.藤田社長の金儲けは大成功した.彼とその会社が日本の社会に凄まじい影響を与えたことは確かだが,果たして貢献したと言えるのだろうか.むしろ,負の影響の方が大きくはないか.藤田社長はこう言い放っている.

「農民もコメを作りに諸外国へ出ていけばよいのだ.そうしたら後継者年間1800人の農民の未来はハッピーではないか」

そんなことになったら,日本の国土はどうなるんだ?

農業を営む山下惣一氏は主張する.

私たちが農業をやる目的は,ふるさと,墳墓の地で豊かに元気に暮らすことであり,農業はその手段のひとつであって,決して目的ではない.

日本人のために労多くして益少ない農業を続けて,安く安定的に食料を供給してくれる奇特な農民は,世界中にたったの一人もいない.結局のところ,身近な農業を守り,支えて,近いところで食料を生産することこそ,環境の悪化を防ぎ,それぞれが安心して生きられる究極の食料安全保障だという真実を,いずれ日本人は知ることになるだろう.地産地消,身土不二が基本である.

何を買うか買わないか,何を食べるか食べないかは,どういう社会を支持するかしないかの,信任の投票行為なのである.日本の農業は潰れることはあっても,外国へ逃げ出すことはない.そういう意味では未来永劫に国民生活の基礎といえる.消費者の理解と協力があれば,日本の零細な農家こそが時代の変革の核となり得ると私は確信している.人にそれぞれ価値があるように,モノにもまっとうな値段というものがあるし,なくてはいけないのだ.

本書のタイトル「安ければ、それでいいのか!?」や上述の「モノにもまっとうな値段というものがあるし,なくてはいけないのだ」という言葉は,山下氏の体験に基づいている.その体験について,山下氏はこう書いている.

子どもたちがまだ小学生だったころの話だ.長男の担任の教師が「農作業を子どもたちに手伝わせてください」としきりにすすめる.(中略)当時PTAの役員だったこともあり,実践してみた.冬の寒い日,川でダイコン洗いをいっしょにやったのである.長男と下二人の娘たちは,小さな手をまっ赤にして懸命に洗った.代償は軽トラック1台分の売上げの半分.ところが,青果市場へ出したら,軽トラック1台全部で300円.8%の手数料を差し引かれて,手取りは276円だった.「ね,どうだった?」と目を輝かせて問いかける子どもたちに,答えることができなかった.あの屈辱とせつなさは,いまも忘れられない.以来,私は青果市場に出さなければならないほどには作らない方向を目指すようになる.

「ファストフードが世界を食いつくす」の著者エリック・シュローサーも言っている.「われわれは誰ひとり,ファストフードを買うことを強制されてはいない.意味ある変革への第一歩は,あまりにたやすい.ただ買うのをやめればいいのだ.」

その通り.だから私はできるだけファーストフード店に行かないし,素性の知れない輸入野菜は買わない.もちろん,高くつく.しかし,それで守らなければならないものがある.

日々の生活にも苦しく,安いものしか買えない人はどうすればいいのかという反論もあるだろう.しかし,だからこそ,言っているのだ.金持ち優遇&弱肉強食で自己責任を押し付けあう社会を日本国民が多数決で自発的に選択したのだから,貧乏人がますます貧乏になるのもやむを得ない.けしかけたマスコミが今更それに異を唱えるのは節操がないにもほどがあるし,少子化に歯止めがかからず,政治も相変わらずであれば,国力の衰退も避けられない.そうなれば,薬まみれの野菜や肉を高い値段で輸入することにもなりかねない.安全で美味しい食材の安定供給を実現するためには,やはり,国内の農業が基盤となるのではないか.その基盤を破壊し尽くしてからでは取り返しがつかなくなる.だから,今,行動しないといけない.選挙にすら行かないような大衆に語ってもムダか?

今は輸入野菜が安いとしても,将来の安定供給が保証されているわけではない.食品流通構造改善促進機構の白石氏は指摘する.

「現地の賃金はいまは確かに低いですが,あっという間に上がってきます.ということは,開発輸入で利益を得られるのは,当事国が発展途上で一時的なコストギャップが生じている期間に限られるわけです.価格が安いことが消費者の利益になると言いますが,食料の安定供給につながらないだけでなく,国内農業の発展の芽を摘み取ってしまいかねないのですから,むしろ消費者の利益を害するといったほうがよいでしょう」

ここで開発輸入という仕組みについて言及されているが,これを知らずして輸入野菜は語れない.開発輸入とは,要するに,日本の農産物の種子と技術を海外に移転して,労働力の安さで価格を下げる輸入方法だ.まあ,農産物のユニクロ版だと思えばいい.日本国内の農業に壊滅的なダメージを与えている輸入野菜も,外国の農民が率先して耕作して輸出したわけではない.開発輸入によって,日本の輸入業者が儲けようとしたのだ.白石氏は言う.

「現地に持ち込まれている野菜の品種や栽培方法は,日本の農業関係者が長年にわたって培ってきた努力の賜物です.そうした膨大な先行投資を何ら負担しない開発輸入は,ただ乗り以外の何ものでもない」

本書「安ければ、それでいいのか!?」には,物騒な中国の野菜についても色々と書かれている.例えば,椎茸.

中国産のシイタケは腐らないという気味の悪い結果が出た,というのだ.(中略)シイタケ菌の殺菌にホルムアルデヒドを使うなどということは,日本では常識としてありえなかった.いわば,こちらの盲点をつく形で10年以上にわたって,高濃度に汚染された中国産シイタケが国内に流通してしまったのである.このほか,(中略)国産ではほとんど検出されない重金属が高い濃度で検出された.(中略)つまり,中国の産地で使用禁止のものも含めて大量に農薬を投入するような無茶苦茶な栽培で野菜を生産していても,ほぼノーチェックで日本の国内市場に出回ってしまうというわけだ.中国野菜は確かに激安だが,安さばかりに目を奪われていると,とんでもない危ない代物を食わされるハメになりかねないことを忘れてはならない.

こんな不気味な代物は買わないという選択も,我々にはできるわけだ.

さらに本書「安ければ、それでいいのか!?」には,何でも安く買おうとする我々の欲望を満たすために,見えない(見たくない?)ところで何が起こっているかについても書かれている.

95年に労働省が摘発した工場の悲惨さは,第三世界にまさるとも劣らぬものだった.たとえばロサンゼルス郊外の工場では,60余名のタイ移民女性労働者が監禁され,1週7日,ときには1日20時間も働かされていた.時給はわずか70セント,脱走者には暴力とレイプが加えられたという.その製品は大手百貨店や通信販売を通じて,高級ブランドとして販売されていた.

昨今はフェアトレードなども盛んになってきたが,ここにも我々にできる選択がある.

もちろん,本書に書かれているのは,悪いことばかりではない.安全で美味しい食材を提供するばかりでなく,環境に負荷をかけない取り組みを実践している加持養鰻の例も紹介されている.良いものを適正な価格で買うという選択も,我々にはできるわけだ.

何ごとも自分次第だ.

目次

  • 六五円ハンバーガーの裏
  • 牛丼戦争の実態
  • 激増する輸入野菜は安全か
  • ウナギもワカメも中国産
  • 安さの陰にひそむ矛盾―自由貿易が食と農を破壊する
  • 食べものには、まっとうな値段がある

  6 Responses to “安ければ、それでいいのか!?”

  1. 目先のことさえなんとかなればよいというのは、素人なら仕方ないにしろ専門家は言語道断。

    証券優遇税制が2年延長されました。これは配当、キャピタルゲインを得てる身としてはラッキーなのですが日本のためを思うとよろしくないはずで、がっかりな政策です。

  2. サムさんの仰る通りでしょうね.

    ワイドショーと週刊誌で物事が動く国では,素人の方向付けが大切だと思うのですが,マスコミが流したい情報を語る人達しか,そこには登場しませんから,難しいですね.インターネット革命に期待というところでしょうか.

  3. マクドナルドも特別な日にしかいけない貧乏人にとっては、安けりゃいいです。
    金がある人は健康を買えばいいけど、安物の選択肢も残して欲しいものです。
    貧富の差というか、正社員になれない人への対策をどうにかして欲しい。
    扶養控除があまり関係ない立場としては、子供手当は非常に助かってますが。

  4. 貧乏人さんの主張はまともです.以前,フリーターの戦争待望論が論壇で話題になりましたが,貧乏になるのも自己責任として切り捨てる社会ですから,極論が出てきてもおかしくありません.でも,マスコミに煽られたのが実態だとしても,これは日本人の多数派が選挙で勝ち取った姿ですからね.

    安物の選択肢が残るとよいですが,今のまま相対的に日本の国力が落ちると,安物の選択肢も消え去る恐れはあるのでしょうね.粗悪品がなくなるのではなく,粗悪品すら高くなるという形で.そうならないためにどうするのか.日本人なら考えないと.ブランドものは買わなくてよいと言えますが,食料はそうはいきませんからね.マクドナルドなんて食べてる場合ではないのではないかと.日本人の味覚を破壊したことを自慢するようなヒトは嫌いだというのもありますが...

    政策として,子供手当は最悪の部類ではないかと思います.日本をどうしたいのかというビジョンが全くないのには愕然とします.とりあえず,誰もが安全な日本食を食べられる国にしてもらいたいです.

  5. コメントありがとうございます。
    選挙で与党が変わっても、短期的な視点しかないようで悲しいです。
    皆で選ぶのですが、あまりに目の前の支持率だけを気にされると。
    頭で考えるタイプの知人に金がないからと子供を作らない人がいます。
    子供手当は、コストをかけて税金を集め、コストをかけて現金配り、
    と馬鹿みたいにも思いますけど、国全体で子供を養う考えは賛成です。
    今は、八方美人に損する人を少なくして意味不明の所もあるし、
    現金じゃなく天下りも絡まない子ども家庭支援だともっとよいですが。
    日本の農業をどうするかとなると、私には分かりません。
    天候等でリスクも大きいのに、低収入で辛い作業。補助金頼み。
    高くても国産をというのは分かりましたが、それでいいの?という気持ちも。

  6. 国民が近視眼的なので,政治家も近視眼的になる.どっちもどっち.ということではないかと思っています.今の政治が最善だと考えている日本人がいるとは思いたくありませんが,仕方がないと認めている日本人は多いのでしょう.選挙に行かない輩が典型です.だから変わらない.

    国が人材育成を重要視するのは当然という立場から,子供手当ではなく,義務教育の無料化が先と思っています.加えて,遺児などの支援.子供がいようがいなかろうが,日本国民なら日本人の子供を育てるのに貢献するということです.

    事実として,国産農産物に価格競争力がないわけですが,何が諸悪の根源かを明確にする必要があります.知る限りでは,かなり農政と利権組織が酷いのではないでしょうか.

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