1月 192011
 

経営を見る眼 日々の仕事の意味を知るための経営入門
伊丹敬之,東洋経済新報社,2007

副題に「経営入門」とあるように,初心者向けの内容だ.私は経営について大した勉強はしていない門外漢だが,財務諸表の読み方や企業分析のイロハについては昔に本を読んだことがあり,特に技術経営については数年前に10冊ほど読んだので,本書に書かれていることの大部分は一度はどこかで読んだことがあるものだった.

ただ,本書「経営を見る眼」は普通の教科書的な経営学の入門書とは異なる.何が異なるかと言えば,人に着目している点だ.もちろん,経営だから人が大切であるのは言うまでもないが,普通の経営学の本なら,人の感情まで立ち入らない.あくまで,カネとモノの流れを扱おうとする.ところが本書は,人の感情を大きく取り上げる.このことは,著者が経営の三つの基本論理として

  1. カネの論理(経済の論理)
  2. 情報の論理(見えざる資産の論理)
  3. 感情の論理(人間力学の論理)

を挙げていることからもわかる.また,「リーダーのあり方」を大々的に論じていることからもわかる.私が興味を持ったのも,このリーダー論だ.

リーダーがリーダーであるためには,誰かがリーダーに従わなければならない.どういう人になら従おうと思えるのか.それは正当性と信頼感を持ち合わせた人だという.

人があるリーダーに従おうと思えるには,二つの基礎条件があるように思われる.正当性と信頼感である.

正当性とは,この人がリーダーとなることが正当であると思えることで,なぜこの人に従うのかと他人に問われたときに,単に自分がそれが好きだからというだけでなく,「それが正当と思えるから」と申し開きができることである.

信頼感とは,この人についていっても大丈夫と思える感覚である.その感覚をなぜフォロワーがもてるかを素朴に考えてみると,信頼感を生み出す基礎要件が二つありそうだ.人格的魅力とぶれない決断,である.

その上で,信頼されるためにリーダーが備えておくべきは器量だと指摘する.

信頼感というのは,フォロワーから見たリーダーの条件である.では,リーダーたろうとする人がその信頼感を勝ち得るために,どんな条件を備えておくべきと思われるか.それが,「器量」という言葉でしばしば言われるものであろう.器量を磨く,器量を大きくすることが,リーダーたりうる条件になる.

三つのものから器量は構成されているように思う.

  1. 考えることのスケールの大きさと深さ
  2. 異質な人を受け入れる度量
  3. 想定外の出来事を呑み込む力

逆に,リーダーとして不適な性質も指摘されている.

少なくとも次の三点の性癖を持っている人はリーダーとしてふさわしくないと思われる.

  1. 私心が強い
  2. 人の心の襞がわからない
  3. 責任を回避する

さらに,リーダーにとどまらず,経営者として大成した人達が兼ね備えていた条件を挙げている.

経営者として大きく育った人々を観察すると,三つの条件を兼ね備えた人が多い.「一つの志,二つの場」,という三つの条件である.

まず第一の条件は,「志の高さ」である.単に自分の私利私欲を追うのではない公の心をもち,結果として何を人生で達成したいのかについて目的を高くもつ.

第二の条件は,「仕事の場の大きさ」である.それも,若い頃に経験する仕事の場の大きさである.

第三の条件は,「思索の場の広さと深さ」である.思索とは,さまざまな刺激を受けて人がものを考えるプロセスである.読書を糧として古人の思索から受ける刺激でもいい.生身の他者との対話を通じて内省的に自らに思いをはせる刺激でもいい.その思索のスケールと深さが大切なのである.

ここまで読んで,私は「なるほどな〜!」と唸った.一体,何に感心したのか.開陳されているリーダー像か,それとも経営者像か.

実は,そのいずれでもない.私が感心したのは,「スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則」(カーマイン・ガロ,日経BP社)で強調されていた「3点ルールを守る」という原則が徹底されていることだ.ここまでに引用した箇条書きを見てみよう.すべて3つだ.

こんなところに感心する読者は希だろうから,本題に戻ろう.

企業の戦略について,次のような厳しい指摘がなされている.

戦術ばかりで戦略なし,という企業が案外多い.それは,現場の戦略はあるが,事業全体,企業全体の戦略がまっとうにつくられていない企業である.

実は,このような指摘をしているのは伊丹氏だけではない.聞きかじった経営学を振り回すだけの人は別だろうが,技術が分かっている人,現場が分かっている人は,日本の製造業の現場の強さを知っているが故に,問題は本社の戦略の拙さにあると考えているようだ.もちろん,すべての企業がそうだというわけではないが.

最後に,本書のタイトルである「経営を見る眼」について引用しておこう.

経営を見るときのキーワード

  1. 当たり前スタンダード
  2. 神は細部に宿る
  3. 人は性善なれども弱し
  4. 六割で優良企業

おっと,最後は4つだった.

目次

働く人と会社

  • 人はなぜ働くか
  • 仕事の場で何が起きているか
  • 雇用関係を絶つとき

企業とは何か

  • 企業は何をしている存在か
  • 株主はなぜカネを出すのか
  • 利益とは何か
  • 企業は誰のものか

リーダーのあり方

  • 人を動かす
  • リーダーの条件
  • リーダーの仕事
  • 上司をマネジする―逆向きのリーダーシップ

経営の全体像

  • 経営をマクロに考える
  • 戦略とは何か
  • 競争優位の戦略
  • ビジネスシステムの戦略
  • 企業戦略と資源・能力
  • 組織構造
  • 管理システム
  • 場のマネジメント

経営を見る眼を養う

  • キーワードで考える
  • 経営の論理と方程式で考える

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