2月 032011
 

日本のもの造り哲学
藤本隆宏,日本経済新聞社,2004

最初に著者が断っているように,本書は哲学とは関係がない.本書「日本のもの造り哲学」が目指しているのは,製造現場におけるもの造りの国際競争力は強いが,本社の戦略立案能力は貧弱であるというのが日本の製造業の特徴であることを認めて,アーキテクチャに着目することで,強い製造現場の能力を金儲けに結びつけるための戦略を考えることにある.つまり,技術経営の本といえる.

日本の企業は,「体を鍛えれば勝てるんだ」という体育会系の戦略論で戦後五十年を走ってきました.ところが,そうした日本企業が,戦略論の大家であるマイケル・ポーター先生などに,「君たち,体を鍛えるのもいいけど,少しは頭を使えよ」と言われてしまったのが今の状況です.

まずもの造り現場の組織能力を鍛えること,そして,その組織能力と相性のよい設計のアーキテクチャを選ぶことが,現場からの戦略論の筋道だと私は思います.

繰り返しますが,この本で提案しているのは,「もの造り現場発の戦略論」です.それは,欧米流の「まず儲けることを考えましょう.そのために頭を使いましょう」という,文字通りスマートな戦略論とは少し違います.むしろ,「まず体を鍛えて強くなりましょう.しかる後に儲けの算段も考えましょう」という,愚直な「体育会系」の戦略論です.

アーキテクチャに着目するというと,普通は,製品がインテグラル(擦り合わせ)型かモジュラー(寄せ集め)型かと考えることを意味するが,本書では,自社のアーキテクチャ(製品・工程)と顧客のアーキテクチャ(製品・システム)の組み合わせで考えることを提案している.つまり,アーキテクチャの位置取りが4種類存在することになる.

本書では,その4つの位置取りについて,代表的な企業と製品を挙げている.

- 顧客のアーキテクチャ
(製品・システム)
- インテグラル モジュラー
(オープン)
自社の
アーキ
テクチャ
(製品

工程)
インテグラル 自動車の大部分
オートバイ部品の大部分
ベアリングの大部分
インテル
(MPU)
シマノ
(自転車ギア)
マブチ
(モーター)
信越化学
(シリコン)
モジュラー
(オープン)
GE
(ジェットエンジン)
デンソー
(ディーゼル部品)
キーエンス
(計測システム)
ローム
(カスタムIC)
DRAM
汎用樹脂
汎用鉄鋼製品

このように自社と顧客のアーキテクチャの位置取りに着目することで,日本の問題点は過剰にインテグラル(擦り合わせ)型であることではないかと指摘する.

日本に「現場が強い割りに会社が儲からない」という企業が多いのには,「アーキテクチャの位置取りの悪さ」がかなり大きく影響しているのではないか,と私は考えています.もう少し言うなら,「擦り合わせ大国日本」が,実は「擦り合わせ過剰」の状態になっており,その結果,「中インテグラル・外インテグラル」という,どっぷり擦り合わせの世界につかったビジネスが日本には多すぎるのではないか,というのが私の考えです.

もっと儲けるためには,自社も顧客もインテグラル(擦り合わせ)型という位置取りではなく,自社か顧客の一方がインテグラル(擦り合わせ)型という位置取りが適しているのではないかという意見だ.なるほどなと思わされる.

もちろん,すべての製品をどれか1つの位置取りに集中せよと言うのではない.自社の強みが何であるかを明確にした上で,アーキテクチャのポートフォリオ戦略を考えよというのだ.具体例として,自転車のギアコンポーネントや釣具を主力とするシマノが紹介されている.以下は,シマノの島野容三社長の話だ.

「いや,全然儲からない.自動車メーカーさんは厳しいですからね.ただ,自動車部品の分野で,トヨタ系のメーカーなどの厳しい要求に応えていると,冷間鍛造技術やジャストインタイムの管理技術がすごく鍛えられる.その力を自転車のギアコンポーネントのほうで活かして,そこで儲けているんですよ」

もちろん,もの造りの組織能力という話になれば,トヨタ自動車を無視するわけにはいかない.本書「日本のもの造り哲学」でも,トヨタ生産システムを含むトヨタのもの造りに多くの紙面を割いている.

トヨタの改善能力というのは,基本的には問題発見,原因探求,対策探索,効果確認,解決案選択,実施,フォローアップ,横展開というシンプルなサイクルを着々と回しつづけていく,しかもそれをみんなでやるということです.

トヨタという企業を見ていますと,「これだ」というものが出てくるまでは時間をかけて皆でワアワア議論するのですが,一旦新しい仕組みが出来上がると,後戻りしないように標準化・文書化した上で,一斉に横展開していきます.しかも,必ずフォローアップを欠かさない.

もう1つ,トヨタについて印象に残った文章があるのでメモしておく.

トヨタと文書のやり取りをしていますと,若い人でも非常に丁寧に読むという文化が根づいていることに驚かされます.彼らは業務規定にしろ,人からもらった文書にしろ徹底的に読みます.二十代のスタッフやエンジニアでも,私の工場取材ノートなどを渡すと「てにをは」まで徹底的に直してきます.

こういうところから鍛えてるのかと感心させられる.

目次

  • 迷走した日本のもの造り論
  • 「強い工場・強い本社」への道
  • もの造りの組織能力―トヨタを例として
  • 相性のよいアーキテクチャで勝負せよ
  • アーキテクチャの産業地政学
  • 中国との戦略的つきあい方
  • もの造りの力を利益に結びつけよ
  • もの造り日本の進路

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